いったいどこで『HEAVEN』を知ったのかは、はっきりと覚えていない。
オイラは70年代の生まれなので、リアルで読むには10年歳が若すぎたし、街角に点々とあったエロ本の自動販売機でも、当時小学生の分際だった自分はそこでエロ本を買う勇気などあるハズもなく、山の中に雨水にさらされたエロ本の屍骸を人目につかないようにこっそり拾いにいっては、顔を真っ赤にさせながら、決死の覚悟でページを一枚一枚はがして「ぬぉーーーっ!」と興奮していた記憶くらいしかない。
当時、HEAVENはそうしたグラビア誌とごちゃまぜになって売られていたエロ本のひとつだけれども、内容はそれらの本と肩を並べることはなかった。
むしろ逆行していった。
創刊号のHEAVENの編集座談録に山崎春美のこうした言葉がある。
「『ヘヴン』においては高杉弾が言っているように、ハイパーな変態と単なる変態を逆進化論的に分離させておかなければならないことは編集会議で了解されていますので、むしろその観点をさらに短絡的具体化に向けて紙面に延展させる方法論を模索するわけですね」
つまり変態を自覚している自明性のある変態と、本能だけのただの変態を区別したうえで、あえて変態達にもわかりやすい紙面づくりに勤めよう。
そんなコンセプトをもってして創刊から挑んでいるわけで、つくってる連中ははなっからすでにエロ本にしようなんて思ってなかったんである。
要するに「オレらはたしかに変態だ。でも、ただの変態じゃねーんだぞ」という知的快楽主義者特有の反骨精神をもってしてつくりあげられた前衛色の強いエロ本だった。
そのむかし、パソ通のNIFTYServeに高杉弾という自称仙人が、ひっそりとCB(チャット)に顔を出していた。
掲示板にも「高杉弾通信」という連載をもっていて、その人のプロフィールにHEAVENの文字があったのを覚えている。
おそらく、オイラにとってHEAVENとの出会いはそこにあったのだと思う。
何度か話していくにつれ、その重い腰つきと謎めいた存在感にTHC特有の「悟り」を感じずにはいられなかった。
「ぜったい、なにかをやらかして昇華しちまったおやじだ」
そう確信した。
メディアになりたかった人、高杉弾こと佐内順一郎。その人こそ初代HEAVENの編集長だと知ったのは、それからずいぶん後になってのことだ。
いわゆるサブカル誌を読むにつれ、それらの雑誌のルーツを紐解いていくと、なぜかどれもがHEAVENに行きついてしまう。
いったいそれはどんな本だったんだ?
知れば知るほど興味はやがて深いものになっていく。
「幻の自販機本」といわれるその本に、興味は一層募るものの、時は80年の自販機本。今となっては、どう尽くしても手に入る見込みはなかった。
すでに神田・神保町は歩き尽くしていたが、当時のカウンターカルチャーのなかに、ぼんやりと、でも一直線に光を燈していた「ハイ・ディメンション・幻覚マガジン」とも「アンダーグラウンド・インテリ・マガジン」とも銘打たれたその本を、自分の中で幻のままでは終わらせたくはなかった。
そして2001年も終わりを迎えようとしている今、20年の時を経て、くろさんのご好意によって奇跡的にも『HEAVEN』の全巻を完全な状態で入手することができた。
明石賢生なき今、関係者一同いまさら版権をどうこういう方々でないことは重々承知しているので、著作権なんぞハナクソにかえて堂々とそのすべてを公開させて頂く。
羽良多平吉の幻想美、佐内順一郎のエディトリアル、山崎春美、隅田川乱一による当時のアンダーグラウンドのありかたを、バラバラにした断片ではあるものの、マニアックに堪能して頂ければと思う。
ひとそれぞれ、いろんなルーツがあると思うけれども、オイラにとってのHEAVENはそういうことです。
さぁ! HEAVENワールドにケツから飛び込め!!
(めちゃめちゃ重いけど)
創刊号目次
・巻頭カラー
「ヘヴン・エクスプレス&ナーバス」
・特集『直感』
「EPITAPH・屍体の青白い炎による生活純化作用料理方理論」
・早大文化新聞・第三へらへら号
「早大潜入東北分子を摘発−完全せん滅!」ほか
・普通小説@『苦力の娘』鈴木いづみ
・ビジュアル・コンサート
PHOTO 中間カラー・きらきらヌード
・21世紀の音は幼稚園からやってくる
・放談・編集と変態の超存在学
・ローゼンブーム・L.A.F.M.S.
・昨今直覚レコードレビュー
・X-LAND
「日本脳苑」山崎春美
「X-BOY'Sエクスプレス」
「ナポリの夢日記」山崎春美
コラージュ・PHOTO
「高杉弾のオーラル・セックス@」高杉弾
「今月の一冊」美沢真乃助
「音楽の窓」
「マイナー通信7」佐藤隆史
「街の生活@」渡辺和博
「X-LAND 市民の声」
「X-LAND ステーション」
「天皇から国民へ」
・巻末カラー
絵本「紅色科学」羽良多平吉
紹介「ピエールとジル」羽良多平吉
1980年04月23日発行
発 行:HEAVEN EXPRESS
発行人:佐内順一郎
編集長:佐内順一郎
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表1 |
表4 |
執拗に東北人をコケにする「早大文化新聞」
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羽良多平吉「虹色科学」 |
死のコラボレート |
「放談・編集と変態の超存在学」
佐内 今日は基本的なことを押えながら進んだ方がいいと思う。わからないところは、正確な概念を相互に確認しながら、間に合わなければあとでチェックしてやっていこう。
素川 それでは会議するにあたって、「変態」と言ったときになにを前提とするのかを確認しておきましょうか。
山崎 「ヘヴン」においては高杉弾が言っているように、ハイパーな変態と単なる変態を逆進化論的に分離させておかなければならないことは編集会議で了解されていますので、むしろその観点をさらに短絡的具体化に向けて紙面に延展させる方法論を模索するわけですね。
稲垣 まあ、そういう流れだね。ちょっとのどが乾いたな。
高橋 編集において変態のメトリックスと病気のメトリックスを明確にしておけば戦術的派生として組織内での場の高まりに集約できる気がする。
岡好 ああスウェーデンポルグね。
佐内 いや違う違う。いわばピアジェの発生的認識論として、紙面を存在のメディア化に使うか、内なる因果律の原形態に戻していくかという二大対立がいま問題にされているわけだ。『ヘヴン』として、そこでどう出るか。
素川 同時進行のカナリゼーションという手もあるわね。
近藤 カナリゼーションてなに?
山崎 存在の運河化としての場の流れだというベルタランヒーのお言葉だ。遊を読め遊を!
近藤 ああ、あのかなりネ。ごめんごめん……。
高橋 さっきの逆進化論の問題に場所を移すと、ハイパーな変態の中のハレとケをエントロピー増大に向けないための構造力学が必要だね。
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表1 |
表4 |
巻頭カラーはナム・ジュン・パイクの特集など
広告ページ 噂の真相が2周年
宝島が250円 マジックのなぐり書きが新鮮
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HEAVENギャラリー |
羽良多平吉「虹色科学」 |
「高杉弾のオーラル・セックス」高杉弾
あの、あの、はいはいはい。双眼鏡がないんですね。わかりました。双眼鏡がないわけですね。何というか、じつにアレですよ。
創刊号が売れているらしい。恐ろしい世の中である。編集カは変態カであると言った高杉弾は、あれは実は高杉弾4号であって、僕とは何の関係も……などという冗談は全く通用しない、むずかしいせの中である。単なるヘッド・トリップには、もううんざりだ。
ロックのまやかしにだまされちゃいけない。年寄りの経験至上主義は糞だ。若い奴のほとんどは白痴だ。「ヘヴン」が面白いだって? ふざけるな!
ヘヴンのどこが面白いんだよ、
え、言ってみろ、ほら言ってみろよ。
うんこがびょうぶにじょうずにうんこがばうずにじょうずにぴょうぷにうんこが泣いた。
まったく糞のようなことばかりだ。まるで天国にいるようだよ。毎日気持ちいいしね。
ははは、ははははは。物事てえものは真面目に考えなくちゃいけないと思うよ。注射が奥の方にはいって行くようにね、本当だよ。なにしろおちんちんをおまんこの中に入れた瞬間が忘れられないんだ。天国だよ。街なんて本当に地獄だ。「ぴあ」が悪魔のように見えるよ。何かイベントをやる場合「ぴあ」なんかに出さないことをすすめるよ。病院の奥の喫茶店はまるで春の陽だまりのようだ。
枝川公一さん。「ジャム」に書いていた文章とても面白かったです。もう双眼鏡でテレビを見たでしょうか?気持ちよかったでしょ。もっともっと、僕たちの精神に必要な霊的情報を載せた雑誌が出てさて欲しいと思います。
稲垣足穂が単3乾電池のことを書いているけど、僕は単2も美しいと思います。あの微妙な大ささには捨てがたい魅カがある。あと最近はパンティストッキングの表面だ。もちろん女の足を包んだ場合だけど、いつも虫めがねで見ている。それと喫茶店の二階のガラス窓から見た外の景色ね。もう馬鹿んなっちゃうもんね僕。
内職文化、他覚的人間、インディアン空間、時間人間、超物質愛、観念注射、猫殺し。
ビー玉が水に浮かんだ日には、天国に堕ちて行さたいものだ。ねえ、神様。
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