プリンセスの大事な怪人
  

  
「覚悟!」
 暗殺者の刃が王女に迫る。
 お忍びでの外出中を狙った、反王室の手のものだ。
 が、血煙とともに、暗殺者は倒れ伏す。
「…………!!」
 王女達を囲んだ暗殺者達に動揺が走る。
 現れたのは、一つの人馬の影。
 見上げんばかりの巨馬に跨がった、騎士。髑髏を模した仮面に、闇を凝固したかの様な、漆黒の鎧。
 彼は鎧の重さを感じさせぬ軽快な動作で、王女達を庇う様に地に降り立つ。
「何奴!?」
 誰何の声。
 しかし彼は、答える事無く地を蹴る。
 そして、殺戮の嵐が吹き荒れた。

 ……そして、暫しの後、最後の一人が逃げる間もなく逆袈裟に斬り捨てられる。
 それは、人の業ではなかった。
 暗殺者達は、剣の一振りでまるで紙の如く両断され、ほとんどの者は、そのあまりに素早い動きに反撃する間もなく死んでいった。
「…………」
 彼は無言のまま剣を収めると、踵を返す。
「……兄様!」
 その彼に、制止を振り切り王女は追いすがろうとした。
 しかし彼は、無言のまま馬に跨がると、風の如くその場を去っていった……。

 誰とも無く人は言う。
 彼は、何者かにより陥れられ、殺されたはずの王太子。
 邪教の儀式により人ならぬものとなりながらも、醜い素顔を隠して最愛の妹を守る為に戦っていると。
 人は彼を、死仮面の黒騎士と呼んだ……