お嬢様と〜
予告
0.5話「二人でずっといつまでも」
……間に合ってくれ。
そう祈りながら、全力疾走。
せめて、せめてあの時……
後悔の念が湧き、僕を責める。だが、今はただ走るしか無い。
番外編2「夏休みお嬢様事件簿」
「俺と、付き合って欲しい」
私は佐久間先輩からそう告げられた。
「それは、前にもお断りした筈です」
私はひと呼吸置くと、きっぱりと断りの返事をした。
彼には前に一度、声を掛けられている。無論断ったが、まだ諦めきれないらしい。
「何故だ? 理由を聞かせて欲しい。出来れば納得いく理由を……」
「理由、ですか」
一瞬私は口ごもった。が、言わねば彼も納得しないであろう。現にこうしてまた声をかけられたのだ。渋々、口を開く。
「私、婚約者がいるんです。ですので、お付き合い出来ないんです」
最終-0.5話「最後だなんて言えない……」
僕は月に一度の手入れの為、実家に戻っていた。
一月誰も手入れしていない庭は、ゴミなどでかなり汚れてしまっている。とりあえず帚で掃いていく。
そうして小一時間が経ち……
「さてと、大分片付いたかな……」
庭を掃き清め終えると、僕は一息ついた。後は、伸び放題の雑草を抜かねば。軍手を取りに家に入ろうとした所に、後ろから声がかかる。
「祐クン!?」
その声に振り向く。と、そこには懐かしい顔があった。
「美穂ちゃん、だよね?」
最終話「僕のお嬢様アゲイン」
「式の日取りが決まった。準備しておけよ」
優しく微笑んでいる父の言葉が、私の心に冷酷に響いた。
「そんな……急過ぎます!」
私は突然の事に、動揺が隠せない。
「こういう事は、早い方が良い。それとも……誰か付き合っている男でもいるのかな?」
父の顔から笑みが消えた。その眼は、私の心の奥まで見通す様だ。
「お嬢様と〜」外伝
――昭和初期
戦争の足音がひたひたと近付いてきた頃
私、風祭玲奈(かざまつり・れな)は、ただ一人上京する事になったのであった。
長時間列車に揺られ、生まれ育った京都から東京へと向かう。
見知らぬ土地。誰一人、知る人のいない……不安な心を抱えつつ、車窓を眺めていた。
私は家の事情で、とあるお屋敷に奉公に上がる事になったのだ。
その屋敷の若き当主、南雲浩一郎は海運業を営む資産家だ。南雲家は明治期は綿、大正にはいってからは鉄鋼の輸送で巨万の富を築いたという。
その南雲家が、潰れかけた父の会社を支援してくれる事になったのだが、その条件が私が奉公に出る事。父の願いで、私は行く事を決意した。
生まれてからずっと世話をしてくれた婆やに涙ながらに別れを告げ、家を出た。
しかし……
私で大丈夫なのだろうか?
不安、後悔……
心が暗く塗り込められていく様だ。
それは、東京に近付くにつれ、次第に大きくなっていった。
東京駅で私を出迎えたのは、瀬川勇梧という青年であった。
背はそれ程高くないが、引き締まった体躯。細面の、端正な顔立ち。どことなく、訓練された猟犬を思わせる精悍な印象の人物だ。この若さで、南雲家の執事を務めているらしい。
彼はそっと私の手を取ると、優しく微笑む。
「風祭さんですね? 長旅、お疲れ様でした」
彼の柔和な笑みは、私の不安を溶かしていく様だった。
お嬢様と〜 another(仮)