電脳空間黒の鬼
デジタルに変換された五感が馴染んで
くる。
精神が、プログラムで構成されたかりそめの肉体に宿ったのだ。
目を開くと、最初に飛び込んで来るのは、何も無い広大な空間。意識を集中すると、そこに溢れる情報が極彩色の塊となって視界に飛び込んでくる。意識の
フィルターをかけ、雑多な情報を選別していく。
あれは……
ふと視界を横切った、一見なんて事の無いロボットプログラム。しかし、何か引っかかるものがあった。
念の為、スキャンをかける。しかし、何処にも妙な所は見当たらない。
「違ったか……」
思わず一つ舌打ちすると、別の目標を探す。
ターゲットとなるのは、違法プログラム。
ある電脳犯罪者が残した、自らのゴースト(魂)のコピー。
肉体は滅びても、電脳空間に自らを復活させようと目論んだのだ。
「!?」
その時、背後に忍び寄る気配があった。
ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
振り返った視線の先には……
「お前は……」
それは、先刻のロボットプログラム。しかし、その姿は……
「カカッタナ。オマエヲトリコマセテモラウ」
若い、痩せぎすな男の姿をとっている。一見無害そうだが、電脳空間を荒し回った天才クラッカーだ。
馬鹿な……先刻は、何も……
私の心中を見透かしたのか、にやりと笑う。
「無駄だ。コピーの大半は処分した。最早、完全な復活は不可能だ」
自分を鼓舞し、言い放つ。
「フン……ナラバ、新タナごーすとヲ取リ込ンデ補エバイイ」
しかし奴は、気にした風もなく、私ににじり寄る。
そして、ゆらりとその外郭が揺れた。
変わって現れたのは、漆黒の巨人。その身体のあちこちに、ダイバー(電脳接続者)を取り込んだ、醜悪で奇怪な姿。まさに、悪鬼。
「くっ!」
唇を噛み、後ずさる。
私一人では、無理だ。応援を呼ばねば……
しかし、逃げられなかった。同じ様な姿の黒の鬼が、逃げ道を塞いでいた。
私は呆然と立ちすくむ。戦意がしぼみ、絶望が心を浸食していく。
先刻の鬼が、その掌を私に向け……
「ヒッ!」
私を覆う、プロテクトプログラムが引き剥がされた。かりそめの身体とはいえ、裸身を晒してしまう。
「あ、ああ……」
私の身体に、巨大な手が伸びる。
しかし、私はただ絶望の涙を流してそれを眺めていた……
投稿日:2004/10/23(Sat) 11/16改訂版掲載