二人は触手電脳空間

  
 ゆっくりと感覚がデジタルに馴染んでいく。
 私は今、電脳空間にダイブしようとしていた。
 肉体と精神を電子の陰陽に変換し、脳内の化学反応は、CPUの回路にエミュレートされる。
 やがて、意識が暗闇の中から抜け出て、私は電脳界に降り立った。
 見渡す限り淡く光る平坦な地平面が広がり、頭上の何処までも単調に青いだだっ広い空間には、光の粒子によって構成された樹状構造物が遥か彼方まで広がっ ている。
 その構造物の上方には、白昼の月を思わせる、淡く光る球体が見えた。光球が見下ろす地平面に、幾つもの柱が天を目指してそそり立っていた。太さも高さも まちまちなそれらの柱は、あたかも水晶で出来ている様にも見える。その柱の一本の中程から一つの枝が出て、他の柱に繋がっている。
 柱はコンピューター、枝はそれらを繋ぐネットワークか。
 私はその柱の一つに近付く。
 そっと手を当て、精神を集中した。幾つかの“ゲート”にアクセスし、目指すべきものを探す。
 ……見つけた。
 次の瞬間、私の身体は光の粒子と化し、柱に吸い込まれた。

 ……ここは?
 “枝”を辿って行き着いた先は、漆黒の闇の中であった。
 間違いない。
 ここは、電脳空間に取り込まれてしまった彼の意識。
 肉体から切り離され、プログラムと化したまま、電脳空間を徘徊していたのだ。
 ようやく見つけた。
 私はそっと手を伸ばし、彼の意識の“核”に触れた。
 !?
 その瞬間、何かどす黒い“塊”が私の中に流れ込んでくる。その奔流は、私の意識を押し流し、翻弄した。そして……

 次に気付いた時には、私の身体は黒い蔦の様なものに絡めとられていた。
 それは、私の身体の上を蠢き、締め付ける。
 嫌……
 私は嫌悪のあまり、身震いした。
 その動きに反応したのか、蔦……いや、触手の動きが激しくなる。
 これは、彼の無意識(イド)の化身か。
 私の身体を嬲り、弄ぶ。
 抵抗する気力は失せ、もはや、喘ぐしか無い。
 そして……とうとう一番太い触手が私の中に侵入を開始した。
 必死で抵抗する私。だがそれは、ものともせずに私を貫く。
 〜〜〜〜!!
 声にならぬ絶叫。
 容赦のない抽挿が開始された。
 強烈な快感。
 剥き出しの感覚を刺激され、意識は幾度も弾けた。
 そして、中で熱いものが放出された時、私の意識は闇に飲まれていった……

 あれから、どれぐらい経ったのだろう?
 ぼんやりとする頭で考える。
 私は今も触手に弄ばれ、快楽の虜になっていた。
 けれど……これだけは忘れない。
 彼は、必ず助ける。
 今はただ、悦楽に悶えるのみ。
 しかし、それを忘れない限り活路は見出せるはずだ。
 私は、そう信じる。

  

2004/06/05(Sat)

  

電脳空間黒の鬼

  

 デジタルに変換された五感が馴染んで くる。
 精神が、プログラムで構成されたかりそめの肉体に宿ったのだ。
 目を開くと、最初に飛び込んで来るのは、何も無い広大な空間。意識を集中すると、そこに溢れる情報が極彩色の塊となって視界に飛び込んでくる。意識の フィルターをかけ、雑多な情報を選別していく。
 あれは……
 ふと視界を横切った、一見なんて事の無いロボットプログラム。しかし、何か引っかかるものがあった。
 念の為、スキャンをかける。しかし、何処にも妙な所は見当たらない。
「違ったか……」
 思わず一つ舌打ちすると、別の目標を探す。
 ターゲットとなるのは、違法プログラム。
 ある電脳犯罪者が残した、自らのゴースト(魂)のコピー。
 肉体は滅びても、電脳空間に自らを復活させようと目論んだのだ。
「!?」
 その時、背後に忍び寄る気配があった。
 ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。
 振り返った視線の先には……
「お前は……」
 それは、先刻のロボットプログラム。しかし、その姿は……
「カカッタナ。オマエヲトリコマセテモラウ」
 若い、痩せぎすな男の姿をとっている。一見無害そうだが、電脳空間を荒し回った天才クラッカーだ。
 馬鹿な……先刻は、何も……
 私の心中を見透かしたのか、にやりと笑う。
「無駄だ。コピーの大半は処分した。最早、完全な復活は不可能だ」
 自分を鼓舞し、言い放つ。
「フン……ナラバ、新タナごーすとヲ取リ込ンデ補エバイイ」
 しかし奴は、気にした風もなく、私ににじり寄る。
 そして、ゆらりとその外郭が揺れた。
 変わって現れたのは、漆黒の巨人。その身体のあちこちに、ダイバー(電脳接続者)を取り込んだ、醜悪で奇怪な姿。まさに、悪鬼。
「くっ!」
 唇を噛み、後ずさる。
 私一人では、無理だ。応援を呼ばねば……
 しかし、逃げられなかった。同じ様な姿の黒の鬼が、逃げ道を塞いでいた。
 私は呆然と立ちすくむ。戦意がしぼみ、絶望が心を浸食していく。
 先刻の鬼が、その掌を私に向け……
「ヒッ!」
 私を覆う、プロテクトプログラムが引き剥がされた。かりそめの身体とはいえ、裸身を晒してしまう。
「あ、ああ……」
 私の身体に、巨大な手が伸びる。
 しかし、私はただ絶望の涙を流してそれを眺めていた……

  

投稿日:2004/10/23(Sat) 11/16改訂版掲載

  

携帯気持ちいい電脳空間

  
え〜、今回の商品は、この「携帯型ジャックインシステム」です。
ワイヤレスで、何処でもネットにダイブ出来る優れモノ。汎用ジャックで、電脳接続出来る方なら、どなたでも使用出来ます。付属にインストールチップとケーブルが付いておりますので、今すぐ使えます。
今なら何と……

あ、お買い上げですか? 有り難うございます〜
あ、はいはい、使い方ですね? まずスロットにチップを挿し込んでインストールして下さい。
……終わりました? で、次はジャックにケーブル。
で、脳内ネットワーク設定を完了したら、今すぐ接続です。
え? おすすめは何処かって? 当然アダルトサイトですよ。仮想現実の美女達と、いつでも逢えるんです。
って、もう接続ですか。
ああ、お客さん、店頭ではまずいです! 股間が膨らんでるのがまともに見えるじゃないですか!

  

投稿日:2004/10/23(Sat) 12/9改訂版掲載