ドキッ☆あなたの娘
生まれ故郷を離れて東京に出、大学、就職と十年が経つ。
久々の里帰りだ。
多い時で一時間二本。昼間は一時間に一本あるかないかの鈍行列車に揺られて故郷を目指す。盆休み前の季節らしく、さして大きく無い列車の室内は満員だ。
一つ身体が揺られる度に、少しづつ故郷に近付き、次第に景色が、目に馴染んだものに変わって行く。
彼女、どうしてるだろう……
ふと思い出した、幼馴染の顔。
彼女とは、高校を出て以来、会っていない。
卒業式の日。
彼女に思いを告げられ、俺は彼女を抱いた。
そして……俺は彼女を残し、東京の大学に入学する為故郷を旅立った。
その後、何度か帰郷したが、彼女には会えずじまいだった。
何でも就職で、東京に向かったとか……
大都会の真ん中で再会出来るはずも無く、俺は今もふと気が付けば彼女の影を追っている自分に気付く。
今回帰郷したのは、高校時代の同窓会の為。彼女は……来るかどうか分からない。
もし会えたら……どんな女性になっているだろう。
もう、結婚しているのか。
複雑な思いが胸をよぎる。
懐かしさや、思い出も……。
甘酸っぱい記憶。
でも、もし会う事が出来れば、いい思い出としてあの頃を振り返る事が出来るだろう。
微かに口元に笑みが浮かぶ。
電車は駅に到着し、乗客が降りて行く。俺の隣と前の席の乗客が席を立つ。
ボックス席には俺一人となった。
と、そこに親子連れがやって来る。
「ここ、空いてますよね」
「ええ……」
窓の外から一瞬視線を戻し、答える。
母親は俺と同年代だろうか。娘は十歳そこら。
彼女は……やはり、結婚しているんだろうな。あの時、強引にでも彼女を東京に誘っていたらどうなっていたんだろう?
詮無い事を思う自分に、自嘲の笑みが浮かぶ。
「お兄ちゃん、何か面白いものがあるの?」
正面に座った少女が問う。
「いや……そうじゃないんだけどね」
説明に困り、視線が彷徨う。
ふと、母親の顔に目が止まった。
「これから同窓会で、懐かしい顔の会えるから、かしら? 啓一君」
「み……美咲!? まさか……」
十年来会っていない彼女は、母親となっていた。
「全然気付かないんだもの……。私の事、忘れたと思ってたわ」
少し拗ねた様な口調。かつての彼女を思い出す。
「いや、すまない。こんな所で会うとは思っていなかったからな……」
そう答えつつも、胸がちくりと痛む。
と、同時に何か自分の気持ちに整理がつけられる気がした。
「結婚、してたのか……」
「さあ、どうかしら?」
「?」
彼女は曖昧な笑みを浮かべる。
「あのね、お兄ちゃん……あたし、ママはいても、パパはいないんだよ」
少女が口を出す。
……今流行のシングルマザーか。
しかし……この子の年を考えると……
「まさか……」
顔から血の気が引くのが分かった。
……結局同窓会は、途中から結婚披露宴になりましたとさ……(滝汗