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罪という名の果実 残酷という名の愛
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人は皆、光なくして生きられはしない。
しかし、闇なくして癒されることもなく。
光は必ず人を消耗させる。
人を救う力を持つそれは、それだけの強すぎる力を持つ。
救われることすら厭うほど光に背を向けた先に、
その眩いばかりの闇はいた。


光の射し込む窓際で、濡れたような、だが軽い触り心地の黒髪が穏やかに
揺れていた。見上げてくる瞳はどこまでも深く沈む漆黒。
吸い込まれそうなほど深い深い色合いをしていた。
日本人はよく黒目だと言われるが、実際にはどこか茶色が混じっている色が多い。
だが、彼のそれは違った。
紛れもない夜の色をしていた。
あるいは、冬の海を連想させる。
真っ黒だ。
その心とは裏腹に、彼には黒がよく似合う。
塗り潰すような黒すぎるほど黒い色が良く似合っていた。
何の皮肉か、社葬に出ていたという彼はまだ漆黒の喪服に身を包んだまま。
死によく似たしめやかな孤独を内包する彼には、それが良く似合っていた。


眠る彼はまるで死者のように穏やかで、青白い顔をしていた。
死者を見送る黒ではなく、死者そのものの白いシャツには
酸素と交わり色濃くなった黒がところどころ付着していた。
きっとそうなのだろうと思った。
初めは彼はこんな色をしていたのだろうと。
やがて染め上げられていった彼を、何より深い強い色で塗り潰したのは……。
眦に涙の跡が残っていた。
目覚めているときには決して触れないその跡をそっとなぞる。
時折、何故手を出してしまったのかと思うことがある。
後悔とは違う感傷だ。
柔らかな陽射しの中で彼が笑っているとき。
苦痛の中、きっと彼自身も気づかないままに逃げ出そうとするように手が空に
伸ばされたとき。
手折られた彼はもう陽のある高みには戻れないのだろう。
不意に、幼かった姿を思い出す。
差し出された掌。
光を握り潰し、誘うその声に何かを見た気がする。
その手の中で消えた光。
その代わりにその手に握られていたものはなんだったのか。
揺らいでいた理性を崩壊させたその声に、気づけば手を伸ばしていた。
それが……彼を堕とすことが罪だと知っていても。
だが……捕らえたようで、その実、自らを生涯縛りつけるだろう闇をどこかで
恐ろしいとも思っていた。
闇を知った身でさえ、その闇は深く包み込んだ。
全てを深く沈め、微笑んでいた。
生涯裏切らない真摯さで。
絡まっていく鎖を、どこかで満たされる気持ちで感じていた。



優しい言葉をかけてやれるわけでもない。
危険な目に遭わせることもあった。
それでも、鎖は外れない。
長い長い道のりで、どれほど傷ついてもきっと傍にいるのだろう。
守るべきものが他にあり、そちらを優先させたとしても、
文句ひとつ言わずに、そちらを見ないこちらを見続けている。
そこにあり続けるというだけの闇はいつだって穏やかに全てを包み込む。
封豕長蛇の愛の果て、安らぎなどあるかどうかもわからないのに、
ただそこにい続けた。
「蛇?」
身の回りの世話をさせている側近の一人が事務所の傍らで声を上げた。
驚いたようなその声にも動じた様子もなく、ケージの中の蛇は我関せずとばかりに
地を這っていた。
何も見ないし、何も聞かない。ただそこでありのままに波打っている。
アメリカレーサーという黒い鱗に覆われた蛇。
それは誰かによく似たまじりっけのない漆黒の瞳をしていた。
媚を売るわけでもなく、ただそこにいる。
媚は売らないが、蛇は変温動物だ。
生きる場所に応じて、その身体を変えていく。
そんなところも、誰かに似ていた。


そして蛇は……。

蛇は、最初に人を堕とした冷血動物だった。



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