カオス

「竜崎」

「はい?」

「僕の話、ちゃんと聞いてるか?」

「聞いてますよ」




ホテルなんだか自分の部屋なんだか、それさえもわからないような部屋で、 僕達は会話とも言えない会話を繰り返していた。

ボサボサの頭髪で猫背で同じ服を毎日着て、目にクマがある男が変な座り方をするし。

テーブルにあるケーキは生クリームがたっぷりで、コーヒーの色は白濁色に変化してる。

甘いものが特別好きでもない僕にとっては、正直こっちが吐きそうになる。

それでも僕が真剣にキラのことについて話そうとしてるのにも関わらず、 こいつはケーキばっかり食いまくってて全っ然話を聞こうとしていない。

返答を望めば「はい」「そうですね」としか答えてこない。喋ろうとしない。

その態度に心底イライラして、今すぐキラに殺してもらおうかと思うくらいだ。




「話を聞いてるなら、僕の問いに答えてくれたっていいだろう?」

「月君の考えはすごく秀逸してるので、感激のあまり言葉が出ないんですよ」

「嘘つくな!本当はケーキとミルクと砂糖たっぷりのコーヒーに夢中なんだろ!」

「頭の回転を良くするために食べるんです。病気にならない程度に摂取してますよ」

「そんなことより僕の話はどうなったんだ?」

「ええ聞いてますよ、やっぱり月君は凄いなぁと」

・・・何を考えているのかわからない。

それ故に好奇心もあった。




「こうやってる今でも、キラはたくさんの人を殺してるかも知れないんだぞ」

「そうかもしれませんね」

「お前、やる気あるのか!?」

「言ったでしょう、私は月君がキラであってほしかった、と」

「・・・だから何だよ」

「キラは絶対月君だと推理していたのに外れた。そのせいでやる気がありません」

「ふざけるな!僕がキラで捕まってほしかったって言うのか!?」

「それくらい自分の推理に自信があったんです。それが外れたなんて信じられない」

「やる気がないなら捜査から降りればいいだろ、中途半端な気持ちなら邪魔なだけだ」

「私がいなければ特別捜査本部もなくなりますけど」

「―――・・・っ!!」




イライラして、僕は竜崎から目線を反らした。

それにこっちの方が気が楽になる。無表情の男を見てるよりは。

それでもこの男は黙々とケーキを食べ続けた。本当に訳のわからない男。

一体どういう育ち方をしたらこんな人間になるんだろうか。




「でも、キラには少し感謝してる部分もありますけどね」

「は?」

「おかげで月君と接触できたわけですし。キラがいなければ会えなかったでしょう」

「何だよそれ・・・」

「月君にも、少々興味ありますから。ここまで天才的頭脳を持つなんて素晴らしい」

「何言ってるんだ?お前が興味あるのはキラだけだろ?」

「いいえ、月君もです。それに・・・あなたとはキラ事件に関係なく会いたかった」

「竜崎・・・?」

「こんな形であなたと会話をしたくなかったのです。ましてや凶悪な殺人事件」

「・・・・・」

「―――言葉が過ぎましたね。今の発言は忘れて下さい」




また黙り込んで、白濁色の甘いコーヒーを飲み始めた。

相変わらずの無表情で。




・・・ふざけるな。

何が「キラ事件に関係なく会いたかった」だ。そうしなければ誰とも会わなかったくせに。

今更他人に興味があるような発言をされたって嬉しくも何ともないんだ。

僕はキラなんかじゃない。顔と名前を知っただけで、人を殺めるような力なんてない。

それなのに、なんで僕がここまでこいつに罪悪感を感じなければいけないんだろうか。

じゃあ僕とは犯罪に関係なく親密になりたかったって言うのか。馬鹿馬鹿しくて嫌になる。

最初のうちは、僕がキラじゃなかったら全く興味を示さなかったんだろ。

僕がキラだと言う疑いが1%でもあったから。だから僕を追いかけたんだろ。

個人としての興味なんか、どうせ何もなかったんだろ。




「竜崎」

「なんですか」

「美味しいか?そのコーヒー」

「ええ」

「そうか、よかったな」

「は?何がですか?」

「何でもない」




このままじゃ納得いかない。


僕をこんな気持ちにさせた以上、こいつにそれなりの責任はとってもらおう。

ずっと退屈だった日々は、キラのせいで少しだけ変わってたのも事実だ。

他の誰の目も移らないくらい、僕だけに興味を持たせてやる。

キラ事件なんかどうでも良くなってしまうくらい、キラより深く問い詰めさせる。

そのためには自分がキラだと疑われたって構わないさ。

リスクを負ってまで、自分が何をしてるのかだって、全部わかってるんだ。




「月君もどうですか、コーヒー」

「はは、お前のコーヒーだけは遠慮しとくよ」




発展を遂げるのは、もう少し先の話になりそうだ。

【END】


お誕生日のお祝いに戴きました! 嬉しすぎてちょっと泣きそうでした(笑)
竜崎を想うライトが輝いていると思いますv

この物語を贈って下さった封霞梨都さんのサイトは現在、閉鎖されています。

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