甘い恋のスパイス


 P5上段途中~P8下段途中 
 
 ロビンは、欲求不満のサンジの性欲を解消してあげるべく、一夜のアバンチュールを提案したのである。
 それが当然のごとくサンジの怒りを買い、盛大な説教へと発展した訳だ。
「だって私、そういうことには慣れているもの。それで彼が喜んでくれて、すっきりできるのだったら、させてあげてもいいなって思ったのよ。」
 二十年間、闇の世界で必死に生き抜いてきたロビンだ。荒くれた男達の中で、しかも悪魔の実の能力者が海の上の密室である海賊に身をやつしたりしたならば、そのようなことは避けて通れなかっただろう。ましてやこの美貌だ。女がそういった扱いをされないこの船の方がかなり奇特であることは、ゾロも理解している。ナミなども最初の頃はゾロとルフィを警戒していたし、ウソップの時はそうでもなかったが、サンジが加入した時にはまた慎重に様子を見ていた。
「慣れていようといまいと。そういった行為は感心しません。好き合った人同士でするべきことです。確かに理想通りにはいかないことの方が多いですが、けれども、この船の上でならば許されることでしょう。」
「好きよ。私、この船の皆が大好きだわ。一味の皆以外に好きだと思った人間なんて、海に出てからは一人もいなかったし……、好きな人としたことなんてないもの。だからサンジが困ってるなら、彼としてみてもいいなって思ったのよ。」
 サンジは真剣に怒っていたが、ブルックは穏やかにロビンを窘め、反省させる方向のようだ。
 昨夜はサンジの剣幕に逆らえなかったのかもしれないが、ブルックは穏やかにゆっくりと話すからか、ロビンはしきりに反論していた。
 ロビンなりに純粋な厚意からの申し出だったので、それを全力で怒られて、不満もあったのだろう。
 普段は何を考えているのか判らないロビンだから、自分の気持ちを言葉にしようとするのはとてもいいことだと、……こんなことでなければゾロも多分思ったのだが。
「好きな人というのは、この場合は、恋をしている相手のことを云うのですよ、ロビンさん。」
「恋なんて判らないし、したいと思ったことないもの…。」
「あなたのようなうら若き美しい女性がそのようなことを云うべきではありませんよ。」
「もう三十よ、私。そういうことはナミに云ってあげて。」
「いやいや何をおっしゃいます。私から見たら、ロビンさんは若くて可愛らしい女の子ですよ。どうぞ自信を持ってください。ロビンさんはとても輝いていて、愛らしく一生懸命な女の子です。」
「………………。」
 臆面もないブルックの言葉に、ロビンは薄く頬を赤らめた。
 同じ女を褒める言葉でも、サンジの言葉が女性の胸に響かないのはゾロでも理解できるが、ブルックのこれはロビンには利いたらしい。
「ロビンさんにも必ず、これからいくらでも恋のチャンスはあります。その時まで、これからは私たち一味の仲間が全力であなたを守りますから、もう二度とあんなことは考えないで、どうか御自分と、あなたを思う私たちを、大切にしてくださいね。」
「…………ごめんなさい。」
「いえいえ。判ってくれればいいのですよー。」
 ヨホホホホ、と、歯をかたかた鳴らしてブルックが笑う。
 ロビンも、ふふ、と小さく笑ったようだ。
「何か、弾いてくれる?」
「よろしいですよ。それでは、まずは私からあなたに。恋を夢見る少女の曲を捧げましょう。」
 そしてゆっくりとしたバイオリンの音と、小さく口ずさむブルックの声。
 どうやら話は終わったらしく、多分この隙に、ゾロが寝てしまっても問題はないだろう。
 そもそも自分には全く発言の余地がなかったというのに、どうして二人とも、こういう話を自分の側でしたがるのか。
 とは云っても。
 今の話は、ロビンよりももしかしたらゾロの方に、そうかと思うところがあった。
 ロビンは当てはまっていなかったのでサンジに怒られたが、ゾロなら問題はクリアしているから、少なくてもブルックには叱られない筈だ。
 よし、と密かにうなずいたゾロは、今夜に備えてたっぷりと深く寝たのだった。

 そして結果はうまく行き、サンジはすっきり、ゾロも悪い気分ではなく、話は丸く収まったのである。たぶん。



「……いえね、あのね、そのですね、ゾロさん…………。」
 ブルックは何やらぶつぶつと云いながら、あのホロホロ女のネガティブホロウを食らった時のような体勢になっていたが、二年間、どれだけあの技を食らったか数え切れないゾロにとっては、非常にお馴染である。見るのではなくする方ではあったが、この際細かいことを気にすべきではない。
 ので、全くそちらは気にもとめずに、ロビンの拍手を気分良く受けていた。
「さすがだわ、ゾロ。サンジも憑き物が落ちたように元気になったし、すばらしいわね。」
「だろ。」
 さすがにこれはゾロも鼻が高い。
 もっと褒めろと、口に出して云うのは格好悪いからしないが、ついつい唇の端があがってしまう。
 昨夜、ゾロは、サンジを襲ったのだ。
 サンジはひどくびっくりしていたが、ゾロは女ではないので怒られなかった。
 なので、ゾロはまんまとサンジを押し倒し、乗っかって、すっきりさせてやったのである。
 腰――――というより、尻が痛くはあるのだが、達成感で胸はいっぱいだ。
 ゾロは非常に満足している。
「おれは男だし、コックに惚れてる。だからあいつとヤるのは、全く問題がねえよな。」
 ブルックを撃沈させた、ゾロの台詞はこれだった。
 自信満々にドヤ顔を向けられたブルックの衝撃ときたら、筆舌に尽くしがたいものだった。舌はないけど。
「まあ若くはあるが、こういうのは若いからこその悩みだしな。」
「それはそうよね。仕方がないわ。」
 ゾロの報告に、ロビンはにこにこして労わってくれた。
「おつかれさまでした。」
「だな。意外と疲れるもんなんだな。」
 だるさはいくらか残っているが、明日にはなくなるだろう。眠たくてぼんやりするのは、寝れば治るので問題ない。
「ああ……でも。」
 さて回復のために昼寝だ、と思ったのだが、何やらロビンが、いきなり表情を曇らせた。
「なんだ、どうした。」
「あなたがサンジを好きなのならば、私、余計なことをしてしまったのではないかしらと思って。」
「構わねえよ。コックはおまえには応えなかったんだし、でもおれとはやったし、あいつに惚れてんのはおれの勝手だからな。」
 ゾロはずっとサンジに片想いをしていたが、あくまでも一方的な気持ちなので、女好きのサンジが女にめろめろしていても、激しく珍しいことではあるが女がサンジに好意的な様子を示しても、それに対して怒る権利をゾロは持っていない。
 なにより。
「コックは出すもん出してすっきりできたし、おれもコックとやれて嬉しかったし、一石二鳥ってもんだろ。」
「あなたがそう思っているのならいいわ。ありがとう。それから、おめでとう。」
「おう。サンキュ。」
 ゾロはちょっと照れて礼を云い、ロビンは嬉しそうに微笑んでいる。
「……違うんです~、私がロビンさんに云いたかったのは決してそういう意味ではなかったんですぅ~。」
 甲板に突っ伏したままのブルックの嘆きは、二人とも全く聞いていない。これで一件落着だと、喜びを分かち合っているのだ。
 これで三人共、それぞれに落ち込んだり疲れはてたりしたので、平等である。……かもしれない。



 ゾロは基本的に、まっすぐな男である。
 かなり、自分ルールに則っているかもしれないが。しかもそのうえ、最高級の方向音痴だが。
 そんな彼は、ある日サンジに恋をしている自分に気付いたが、気付くと同時に失恋を味わった。
 何故ならサンジは世界一の女好きだからだ。
 しかし叶う筈はなくても、一世一代の本気な恋である。真の男が一度惚れたからには、生涯その思いを貫くべきだ。
 以来ゾロはずっと、ゾロは密かにサンジを恋い慕っていた。
 けれども二年間の別離を経て、再び終結した一味に、ゾロも無自覚に浮足立ったままでいたのかもしれない。
 そんな時、ブルックの、ロビンに対する説教を聞いたのだ。
 それは天啓に近かった。
 サンジやブルックがロビンを厳しく叱ったのも、ロビンが仲間としての深い親愛以外の愛情はサンジに対して抱いていなく、また、女の身として、その体を提供しようとしたことに、端を発する筈だ。
 その点、自分は男で、尚且つサンジに惚れているのだ。 
 ならば何の問題もない! と、ゾロは胸を高鳴らせた。
 生涯秘めておくつもりの恋心ではあったし、その気持ちをサンジに伝えるような愚かな真似はしなかったが、無言のまま体だけならいいのではないかと思った。
 サンジは性欲が解消できるし、ゾロは一夜の思い出ができる。これぞまさに、一石二鳥である。
 べたべたとサンジにさわることができたし、どさくさにまぎれてキスもした。
 ゾロはそれで充分に幸せだったし、今度こそ一生大事に胸に秘めて抱えていくつもりだったのだが。

  
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 ゾロと、寝てしまった。
 欲求不満で、それをうまく発散できなくて、苛々してしまっていた自覚は確かにサンジにもあったのだが。
 最初こそ強引にゾロに押し倒されたものの、サンジがその時まっさきに恐れた、犯される! というのは杞憂で、ゾロはサンジに跨ってきたため、挿入したのはサンジの方だった。
 ならば問題はない。……たぶん。
 そして、ゾロとの行為はとても気持ちがよかった。
 正直、今までにないレベルの快感だったように思う。
 男はこれが初めてだが、それまでの麗しのレディ方との行為を思い起こしても、大変申し訳ないことに、人生最大に気持ちよかったような気がするのだ。
 そもそもこの、レディのために生まれ、レディを愛するために存在すると行っても過言ではない自分が、男相手に使いものになるとは何事か。
 三分ほど悩んだサンジは、こう結論した。
 ――――愛だ。
 信じられないことだが、どうやら、ゾロと自分の間には、愛が存在するらしい。
 かつてどこぞのマダムが、愛し合った人とする行為は最高に気持ちがいいと云っていた。
 確かにサンジはとてもとても気持ちが良かったのだし、サンジにあんなことをしてくれたゾロだって、サンジのことを愛してくれているからこそだろう。
 そうかー、ゾロの奴、クソマリモの緑剣士のくせに、おれのことを愛しちゃってたのかー。
 世紀の大発見だが、不思議と嫌悪感はなかった。
 なかなか満更でもなかった。
 ゾロはおれのことを愛していて、多分おれもゾロのことを愛していたのだ。
 むしろそう思ったら、自分でもびっくりするほど胸が高鳴って、きゅんきゅんした。
 そうかー、ゾロとおれは両想いなのかー。
 照れくさくはあったが、正直嬉しい。
 体で告白してくるなんて、さすがは頭まで筋肉のマリモ野郎だが、馬鹿じゃねえのと口では呟いても、顔がだらしなく緩んできてしまう。


 性欲が解消され、すっきりさっぱりな体になったサンジは、心まで一緒にすっきりさっぱりふわふわしていた。
 なので、そこまでの自分の思考回路に、全く疑問を持つことはなかった。
 両想いということはらぶらぶか、の結論の元に、二回目を誘ってみた。
 体で告白されたからには体で返答するのが正道だろうし、そもそも二回目を誘った時点で、両想いが成立だ。
 その時のえっちも非常にいい感じで、やはりものすごく気持ちよかった。
 きっと愛ゆえである。
 ばんざい。




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