|
二学期が始まると、運動部はどこも、新体制に変わります。 もちろんテニス部だって例外ではありません。 新部長には、すったもんだの末、日吉くんが選ばれました。 そして、今までとは変わり、副部長に鳳くんと樺地くんが。更には外部から、マイメロちゃんがマネージャーとして新規投入されたのでございます。
可愛い可愛いマイメロちゃんは、小さいけれども働き者です。 直接マイメロちゃんにお世話をしてもらえるのは正レギュラーだけですが、時間と余裕があれば準レギュラーやそれ以下の人たちのところにもマイメロちゃんはどんどん赴き、皆の憧れを集めています。 それに、マイメロちゃんの笑顔と応援の「がんばってね、おねがいv」は、皆の潜在パワーを引き出してくれると評判なのです。 「おつかれさまー、はい、レモンのはちみつ漬けとスポーツドリンクとタオルどーぞ。」 練習が終わったレギュラー達を、マイメロちゃんは甲斐甲斐しくお世話します。 その後の、部長陣のミーティングにもマイメロちゃんは参加します。 「はい、紅茶どーぞ。」 「いつもありがとう、マイメロちゃん。」 「……ウス。感謝してます。」 紅茶と手作りタルトを出すマイメロちゃんに、鳳くんと樺地くんはお礼を云います。 「わかしくんも、ちょーたろーくんも、むねひろくんも、今日もかっこよかったよー。」 マイメロちゃんもにっこり笑顔で、皆の活躍を褒めました。 「タルト、おいしいです……。」 「紅茶もおいしいよ。マイメロちゃんは紅茶入れるの上手だよね。」 「やーん。そんなに褒められたら、マイメロ照れちゃう。」 うふふあははきゃいきゃいと、いつものことながら、マイメロちゃんと鳳くんと樺地くんの会話は、ふんわりほわほわ可愛く幸せです。 「この前の、むねひろくんのパウンドケーキも、とってもおいしかったよぉ。」 「あれは、跡部さんも喜んでくれたので、良かったです……。」 マイメロちゃんも樺地くんも、家庭科は大のお得意。 お菓子やお弁当作りのアイディアを、いつも交換し合っているのです。 「あ、いいなあ樺地。俺も宍戸さんに何か手作りプレゼントしたいんだけど、不器用でさぁ……。」 「マイメロが教えてあげようか?」 「自分も、お手伝いできることがあれば……。」 「ありがとう、マイメロちゃん、樺地!」 樺地くんは跡部さん、鳳くんは宍戸さんが大好きなのです。 恥ずかしがり屋の樺地くんはあまりあからさまなお話はしてくれませんが、鳳くんは宍戸さんのお話をするのが大好き。 恋の話、お菓子やお料理の話、手芸の話に音楽の話、お花の話。 3人のお話は、いつでも心が弾むから、どれだけたっても終わりません。 「……おい、ミーティングはどうするんだ……。」 そう、それは、日吉くんのうめくような声がするまで続くのです。 はい、日吉くんも、ずっと一緒にいましたよ。 ただ、話題に入れずに、ぷるぷる震えていただけだったのです。 「ああそっか、悪い悪い。えーとさ、今日の練習中に思ったんだけどー。」 鳳くんは屈託なく笑って、すぐに部活のお話を始めました。 意見を交わし合う日吉くんと鳳くん、ところどころに樺地くんが短く、けれど的確な言葉をゆっくりと挟みます。 「ふふっ。マイメロは今のうちに、お洗濯もの取り込んでこよーっと。」 活発なミーティングが始まるのを見て、マイメロちゃんはにっこり笑うと、部室から出ていきました。 楽しい楽しいお話は、また明日に続くでしょう。
「ばいばーい、また明日ねー。」 「さよなら、気を付けてね、マイメロちゃん。」 「ウス。また明日。」 校門のところで、マイメロちゃんとはお別れです。 日吉くんと鳳くんと樺地くんの3人は、てくてく駅まで歩きます。 「日吉はどうしてマイメロちゃんとあんまり話さないんだ?」 その途中、ふと鳳くんが、日吉くんに聞きました。 「お前らが話し過ぎなだけだ。」 そしてそれが混ざりたくないような、脳内お花畑な話ばかりだからです。部長とマネージャーとして、必要な話はいくらでも交わしています。 「そうじゃなくてさあ。」 けれど日吉くんのお返事は、鳳くんには不満でした。 「俺、マイメロちゃんは、日吉のタイプだと思ったんだよ。赤……じゃないけどまあピンクだし、うさぎさんだからぴょんぴょん飛ぶし。」 「何だそれは!」 日吉くんは鳳くんに怒鳴りましたが、2人の真ん中にいた日吉くんは、反対側にいる樺地くんが納得したようにうなずいているのに気付いていたら、きっともっと怒ったでしょう。 「でも、マイメロさんは、うさぎだけどぴょんぴょん飛ばない……。」 「まあほら、イメージってことで!」 「何の話だ!」 ぎろりと眼光するどく睨む日吉くんですが、鳳くんも樺地くんも、2人で優しい笑みを交わして、勝手に判りあっています。 「えー、だって日吉、向日先輩大好きだろ。あの人、赤くてぴょんぴょん飛ぶじゃん。」 「何のことだ、俺はあの人のことなんか、別に大好きじゃない!!!」 してやったりと笑う鳳くんに、日吉くんは真っ赤になって怒りました。 その肩を、樺地くんが窘めるようにたたきます。 「その場にいなくても、そういうふうに云うの、良くない。向日先輩が悲しむ。」 「だから、何のことだ…っ。」 「そうだよ日吉。そういうこと云うの良くないよ。」 しかも鳳くんまで、真面目な顔で口を出してきます。 「明日は日吉も、一緒に恋バナしような。俺明日、とっときの紅茶の葉持ってくるから、マイメロちゃんに入れてもらって皆で飲みながら話そう。」 「おいしいお菓子、持ってくる……。」 鳳くんの言葉に樺地くんも賛同の姿勢です。 マイメロちゃんと良く似た、無垢で純粋な真黒な瞳が、まっすぐ日吉くんを見つめていて、心の底からの好意が見て取れてしまいます。 「マイメロさんも、きっと、喜んで日吉の話を聞いてくれる。」 「もちろん俺達もだよ、何でも相談してくれよな、一緒に考えよう、日吉!」 「……貴様ら、人の話を聞けー!!」 でもやっぱり、鳳くんと樺地くんの2人は、日吉くんの気持ちを勝手に決め付けてしまっています。 ――いえ、決して、間違っているとか嘘だとか、そういうことではないのですが。 でも、日吉くんはとっても恥ずかしがり屋さんなので、そういうお話を人とするのは苦手なのです。 「明日が楽しみだなあ!」 「ウス。」 鳳くんはにこにこ、樺地くんもふんわり笑顔。 そして、真っ赤になってひきつっている日吉くん。 今日も仲良し3人組の、にぎやかな帰り道を、きれいな夕焼けが照らしていました。
|
2008/05/13 |
|