サンゾロ・ラダカノ パラレル 

 サンジくんは、眉毛の巻いてる男の子。
 彼の通う高校に、ある日転校生がやってきました。
 それは男の子だったので、サンジくんは髪一筋ほどの興味もなくし、朝礼の先生の話も全く聞かずにいたのですけれども。
「ロロノアの席は、あそこ、金髪の隣な。」
「はい。」
 紹介を受けた緑の髪の転校生、ロロノア・ゾロくんは、サンジの隣の席をあてがわれました。
 机にカバンを置き、サンジに挨拶をしかけたゾロは、ぴたりと動きを止めてまじまじとサンジを見ました。
「おまえ、素敵な眉毛だな!」
「――うるせえ、マリモ頭!!」
 開口一番の失礼な台詞です。
 眉毛のことを云われるのが大嫌いなサンジは、ゾロに飛び蹴りをかまし、けれどもゾロも大人しく蹴られているような生徒ではなかったので、転校早々の大喧嘩となりました。



「なあ眉毛、購買どこだ。」
「ぐる眉、理科室連れてけ。」
「おはよう、今日も素敵に巻いてるな。」
 ……などと、お隣の席になったゾロは、やたらとサンジに声をかけてきます。
 転校生なのですから、構内のあれこれを聞きたがるのはまだしも、朝の挨拶がそれとは何でしょうか。
 そのたびにサンジはそれ相応の対応をしてきたのですが、ゾロは全然めげません。
 毎日何度も何度も、サンジに声をかけては眉毛がどーこー云っています。
 最初こそはまだ仕方なくても、どうやらゾロは剣道界では有名らしく、女の子にきゃーきゃー云われたり、体育会系の男共にも声をかけられたりしているのです。サンジを頼らなくてもいいではありませんか。
 そんなに眉毛のことをからかいたいのかと、サンジは毎日ぷんぷんです。



 そんなある日のことでした。
「なあなあサンジ、大学部のカノン先輩に、彼氏ができたって噂なんだけど! おまえ仲良かったよな、何か知ってる!?」
 サンジとはとっても仲良しの隣のクラスのウソップが、ある日サンジのクラスに駆け込んできました。
 カノン先輩と云えば、圧倒的な美貌が評判の、大学部の先輩です。身体能力も素晴らしく、水泳界でも有名な人です。
 見た目の割には随分ときさくで、あちこちから慕われているのですが、告白の類は全部お断りしていて、今まで浮いた話などなかった人でした。
 そんな中、何故かサンジはカノン先輩のお気に入りで、随分と気にかけて貰っているのでした。
「いや、マジ? 最近会ってなかったんだよな、忙しいってメール貰ったのも少し前だし……。」
 けれども最近お会いしていなかったので、ウソップ情報にはびっくりです。
「サンジが聞いたら、教えてくれるんじゃねえの? 
「そうかな。でも最近会ってねえし……、明日にでも、お菓子持って行ってみるかなあ。」



 そんな訳で。
 サンジはメールをしてカノンに約束を取り付け、手作りのマドレーヌを持って、大学部の方に行ってみました。
 約束の場所でカノンはサンジを待っていてくれましたが、その場にはもう一人、男の人がいました。
 彼氏のことを聞くのが目的のひとつではありましたが、いきなりの登場にサンジはちょっとびっくりです。
「こいつがサンジ。これ、ラダマンティス。俺の彼氏。」
 カノンはにこにこして、サンジと、ラダマンティスを互いに紹介しました。
 ラダマンティスという男の人は、非常にいかつい感じの、よく云えば真面目そう、悪く云えばちょっと野暮ったそうな、重厚感あふれる人で、サンジは何となく意外に思いました。
 どんな人ならカノンにふさわしいのかというと、それはそれで難しいのですが。
 まじまじとラダマンティスを見つめてしまうサンジに、カノンはそれはそれは幸せそうに自慢しました。
「いい男だろ。……特に眉毛が。」
「眉毛ですか。」
「うん、眉毛!」
 ラダマンティスの眉毛は、ふさふさと長く厚く、そして、眉間のところで繋がって、ぶっとい一本になっていました。
 カノンもサンジと一緒になって、ラダマンティスの眉毛をまじまじと見ます。
 そしてカノンは、極甘の幸せの吐息をつきました。
「はー……、今日もラダマンティスかっこいい……。」
 そのラダマンティスは、苦笑してサンジに会釈し、カノンをよしよしと撫でています。
 世の中には色々なフェチというものがありますが、もしかしてカノンは、眉毛フェチだったのでしょうか。
 それでサンジのことも気に入って、面倒を見てくれたのでしょうか。
 サンジはどうしても、聞かずにはいられなくなりました。
「カノン先輩……、おれの眉毛も好きですか。」
「うん、大好き! おまえの眉毛、超かわいいー。」
 カノンの笑顔は、あたりに太陽の光をふりまくような、それはそれはきらっきらの、極上の笑顔でした。
「……すまないな、カノンは眉毛マニアでな……。」
 ラダマンティスは、苦笑しながらサンジに詫びます。
「マニアじゃねえもん、ラダの眉毛と、あと、サンジの眉毛におまえの半分くらいだもん。ラダの眉毛以上にときめく眉毛にであったことねえもん。」
「わかったわかった。」
 拗ねて甘えるカノンの姿は、やはりサンジが初めて見るようなものでありましたが、けれども、サンジの気持ちは今、他のところにありました。
 ラダマンティスの眉毛が大好きで大好きでたまらないというカノン。
 サンジの眉毛もその半分くらいはお気に入りであるというカノン。
 そのサンジの眉毛のことを、毎日素敵だとかよく巻いてるとか云い続けるゾロ。

 もしかして。ゾロも、カノンの同類なのでしょうか……。



 翌日サンジは、いつもより早起きして学校にいきました。
 そして、ゾロが登校してくるなり、その首元をひっつかんで攻め寄ったのです。
「ゾロ、クソマリモ、おまえ、もしかして本当に……、おれの眉毛、素敵だと思ってたの?」
 ゾロは目を丸くして、それからうっすら頬を染めて、ぷいっとそっぽを向きました。
「だからいつもそう云ってるじゃねえかよ。」
 どうやらビンゴだったようです。
 サンジはそっと手を離して、それから、どうしようもなく照れ臭くなって笑ってしまう顔を隠さずに、ゾロに云いました。
「そっか。ありがと。」
 ゾロはびっくりしたようにサンジに顔を戻して、それから、耳や首筋まで、トマトよりも真っ赤にしました。
 この反応からすると、ゾロはもしかしてサンジに、一目惚れの勢いだったのかもしれません。
 けれどもそれを本気に取るどころか悪口だと思ってしまったサンジに、それでも一生懸命、眉毛が素敵だ大好きだと、彼なりに伝えてきてくれていたのかもしれません。
 これからはもうちょっとゾロに優しくしてやろうと、サンジは思いました。
「あのさ、今日、弁当多めに作ってきたんだ。分けてやるから一緒に食わねえ…?」
 もじもじして誘うサンジに、ゾロは無言のまま、ものすごい勢いでこくこくとうなずきまくりました。



 その後、サンジはゾロとおつきあいをはじめました。
 カノン先輩には、彼氏紹介しろよとか、ダブルデートしようとか、色々とせっつかれていますが、まだサンジはゾロを紹介していません。
 だってカノンは、サンジの眉毛にも半分くらいときめくと云っていたのです。
 だったらゾロも、ラダマンティスの眉毛に、サンジに対するのの半分くらいはときめくのかもしれません。
 そんなのはとっても嫌です。
 だから、もうちょっとゾロとのお付き合いが深まって、ゾロにサンジの両方の眉毛をいっぺんに見せてあげてもいいくらいに濃い深い仲になって、もっともっとゾロを自分にめろめろにさせてから――――と、サンジはそう思っているのでした。
 
2011/05/27 






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