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「そういえば今日は節分の日だわ。」 マイメロちゃんが、ふと思い出したように云いました。 「ああ、今日は二月の三日か。」 それを聞いたゾロが、ふむとうなずいて答えます。 「節分って何?」 クルー達が異口同音に、二人に質問しました。 「せっぷんをする日だ。」 ゾロは答えながらウソップを引き寄せて、その分厚いぷにぷにの唇にちゅうをしました。 一瞬皆がしずまります。 「冗談だ。」 「真顔でくだらないギャグを飛ばすなー!」 ゾロが袋叩きになる中、マイメロちゃんは鈴が鳴るような声で、きゃはっと笑いました。 「ゾロくんたら、おちゃめさんね。」 たぶん違います。 ウソップは耳まで真っ赤になってうつむいていました。 「えーとね、お豆をまく日なの。」 「鬼は外って云いながら家の外に豆をまいて、福は内って云いながら家の中に豆をまくんだ。」 「でね、その後で、年の数だけ豆を食べるの。」 改めて説明するマイメロちゃんに、ゾロも補足します。 「なんか判んねえけど、おもしろそうだな。よーし節分やるぞ! サンジ、豆!」 ルフィがすっくと立ち上がり、云いましたが、サンジはあっさりと却下しました。 「駄目だ。」 「どうして!」 「食べ物を無駄にするなんて、おれの目が青い内は絶対に許さねえ。」 それを云われると、ルフィも、他の皆も、強く押すことができません。 「恵方巻、も、確か節分の行事じゃなかったかしら?」 それまで何やら一生懸命考えている様子だったロビンは、節分についてを一生懸命思い出していたようです。 「あー、そういえば確か、隣の隣の村はそれやるって、先生が云ってたような気がする。」 「マイメロも聞いたことあるー。」 ゾロとマイメロちゃんのところは、豆まきがメインでしたが、話としては聞いたことがあります。 「恵方巻きってなんだ?」 「海苔巻きを、今年の吉方に向かって食べるのよね?」 ロビンも微妙に自信なさげでしたが、ゾロとマイメロちゃんがうなずくより先に、ルフィがどーんと云いました。 「恵方巻きをやるぞ!」 「よし、それなら許す。」 今度はサンジからお許しが出ます。 「やったー!」 「よーし、節分だー!」 「海苔巻きパーティだー!」 はしゃぎ出す子供組に、大人達はにっこり。 御飯ものが好きなゾロもにっこりです。 「私、もう少し詳しく調べてくるわ。」 「マイメロ、サンジくんのお手伝いするー。」 ロビンは女部屋へ、マイメロちゃんはサンジと一緒にキッチンへ向かいました。
そんな訳でのりまきです。 恵方に向かって、丸ごとのまま無言で食べます。 今年の恵方は南南東です。 「はい、ゾロくんにはこれをどうぞ。」 マイメロちゃんが差し出すお皿に乗っていたのは、随分と細い海苔巻きでした。 サンジとマイメロちゃんがきゃっきゃと楽しく巻いた海苔巻きは、色々な模様の作り出された太巻きが多かったのです。 お皿に並んだ、切ってある分のお食事用の太巻き達はどれも色々な具や何かを混ぜ込んだ御飯ですてきな模様が作られているのに、なぜマイメロちゃんは、あえてこれをゾロに出してきたのでしょう。 ゾロに渡されたそれは、太さ的にかんぴょうが入っているかどうかくらいです。今日出ている海苔巻きの中で、一番細いのではないかと思われました。 「持ってみて。」 促されたゾロは、不思議がりながらも素直にそれを手にしました。 緩く握った細巻きは、なんだか妙に覚えのある太さでした。 ゾロは、鋭く息を飲み、マイメロちゃんを見ました。 「これは…!」 「ゾロくんなら、きっと判ってくれると思ってたの。」 「判るぞマイメロ。おまえはできる女だな。」 「ありがとー。」 マイメロちゃんがにっこり、ゾロがにやり。 「……何、ゾロ。」 側で見ていたウソップは、聞かない方がいい気配を全力で感じつつも、つっこまずにはいられない、可哀想な子でした。 「この海苔巻きは、ウソップの鼻の太さだ!」 「ぎゃー!」 そして案の定、誇らかに云うゾロに、ウソップは悲鳴を上げることになるのでした。 「ちなみに長さは、ウソップくんのお鼻の長さの倍よ。」 「ぎゃー!」 マイメロちゃんが続ける言葉に、ウソップは更に悲鳴をあげます。 そこまでは気がついていなかったゾロは、改めて海苔巻きを見、ウソップを見ました。 そして、重々しくうなずきます。 「マイメロ。おまえは最高にいい女だ。」 「やーん、そんな本当のこと云われたら、マイメロ照れちゃうー。」 きゃあ、と頬を染めるマイメロちゃんを、ゾロは尊敬のまなざしで見つめます。 そしてウソップはもうなすすべもなく、真っ赤になってうずくまっていたのでした。
それはともかく、恵方巻きタイムです。 皆で同じ方向を向いて、黙って心に願い事をしながら食べます。 ちなみにロビンも、マイメロから、特別な海苔巻きをもらっていました。そこそこのサイズの太巻きです。 けれども、ゾロとのやりとりを小耳にしていたロビンが、これは何と聞いても、マイメロちゃんは秘密と笑って教えてくれなかったのです。 巻いただけで端を切ってもいない海苔巻きは、中の具も判りません。 でもきっと、ロビンの為の心尽くしが何かされているに違いないと、ロビンはわくわくしながら数口を食べて、そして、海苔巻きの断面を見ました。 「ああ…っ。」 ロビンは歓喜の声をあげて、その場に崩れ落ちました。 恵方巻きは黙って食べなくてはならないので、声を出してしまったロビンを心配しつつも、皆、自分の分を食べるのに一所懸命です。 ロビンは考古学者です。民族学も結構やります。そんなロビンが、話でしか知らなかった初めての行事に参加しているというのに、普段ならばやらない失態です。 「どうしたんだ、ロビンー?」 そんなロビンに、ぶっとい太巻きを一口で食べ終わっていたルフィが声をかけました。 ロビンは黙って、たべかけの海苔巻きの断面を見せます。 「おー、すげえな、マイメロの模様巻きか。かわいいな。」 ルフィのあげた歓声に、他のクルー達は、ロビンにつっこむ気を海の彼方に投げ捨てました。 そう、ロビンの分の海苔巻きは、ピンクのでんぶを多用し、マイメロちゃんの顔になるように、可愛く巻いた海苔巻きだったのでした。
その後、デザートに各自年の数だけ豆が提供されたりして、ブルックばっかりそんなにずるいと一部にごねられたりしつつ、麦わら一味は節分を満喫したのであります。
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2011/02/03 |
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