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「ちょっと聞いてくれ。」 朝食の後、真剣な声でチョッパーが云った。 「何だ、どうした。」 テーブルを離れかけていた者も戻り、チョッパーに意識を向ける。 「発情期に入った。」 「………………誰が。」 一瞬ダイニングに沈黙が満ち、この手の話題には強いサンジが辛うじて質問をする。 「おれが。」 全員の顔を奇妙な動揺がよぎった。 人間はいつでも発情できるが、動物にはそういう季節があるのだ。 そういえばこいつ動物なんだもんなあとか、そんな感じである。 ましてや発情期などという言葉を、可愛らしい外見のチョッパーに云われてしまっては、ますます微妙な気分になるというものだ。 「だから念の為、女達はあんまりおれに近づかないでくれ。種族外だけど、おれはヒトヒトの実を食ったトナカイだから、人間の雌の匂いに反応する可能性もある。」 「……人間の女とあなたで交尾したら、どんなことになるのかしら。行為自体は行えるとしても、受精の可能性はあるものなの?」 「ちょっと、ロビンー……。」 持ち前の研究心を発揮するロビンに、ナミは嫌そうな顔を向けた。 「判らない。調べたこともないし、ましてや実験する訳にもいかないし。」 「チョッパーの精子は人間の精子とはやっぱり違うのかしら。」 「どうだろう。誰かにサンプル貰って、おれも今回自分のを取っておけば、調べることは可能かも。」 「それはとてもおもしろそうね。」 チョッパーとロビンは、新たな研究の種に、揃って目をきらきらさせている。 「ちょっと待てえええー!!」 誰からともなく湧いた叫びは、一人分ではなかった。 「ロビンあんた、そんなもん実験してどうするのよ!」 「今はそういう問題じゃないだろう!」 「チョッパーてめえ、どこのレディを孕ませる気だよ!」 「……サンジくんもそういう問題じゃないと思います…。」 どこか外れた発言のサンジにウソップが力なく突っ込みを入れた。 相変わらず、麦わら一味は騒がしく、話がどこかに行ってしまう。 けれどチョッパーも、今はそういう話をしたかったのではないと思いだした。 ロビンに後でね、と断ると、ごほんと咳払いをして皆の注意を引く。 「おれ、悪魔の実のせいもあるのか、発情期になるの初めてなんだ。自分でも注意するし、記録つけたりもする予定だけど、気が荒くなったりとかもするかもしれないし、言動がおかしくなるかもしれないから、まずそうだったら止めて欲しい。それと、ロビンと、特にナミは、おれとの接触に注意してくれ。」 「……私?」 名指しされて、ナミは不思議そうに自分を指差した。 「それってやっぱり、若い雌の方が繁殖力が強いとか、そういうのか。」 フランキーが思い当ったことを悪気なく云ったが、ロビンの恐ろしい笑顔に真っ青になって黙る。 「いや、おれがナミのことを好きだから。好きな雌の匂いの方が、反応しやすいかなって――――ああっ、しまった、云っちゃった!」 チョッパーは両手で口を塞ぐがもう遅い。 ナミは目をぱちくりさせている。 総員、ぴっくりして言葉もない。 「て、てめえ、ガキのくせしてナミさんをそんな目で見ていやがったのか、このえろトナカイ!」 ナミのことともあり、一番に我に返ったサンジがチョッパーを蹴り飛ばそうとしたが。 「私も、チョッパーが好きよ。」 頬を染めたナミが、照れくさそうな笑顔で答えた。 普段ならば、サンジが大騒ぎしてナミさん可愛いと萌え狂いそうな笑顔だったが、その爆弾発言に床に崩れ落ちている。 「ナ、ナ、ナミさ〜ん……?」 「でもまだ子供は困るなあ。夢もあるし、まだ私若いんだし。トナカイ人間と人間のハーフがどんな子供になるかの実験に付き合うのは、もうちょっと先がいいわ。だから、もし万一の時は、ちゃんと避妊はしてね。それと、世界一のお医者になってたくさん稼いでものすごいお金持ちになってくれなきゃ駄目よ。あと、いつかは私の故郷に来て、ゲンさんとノジコに挨拶してくれること。」 「あ、風車のおっさんだよな? ナミのこと泣かせたら殴られるぞ。がんばれよ、チョッパー。」 ナミの言葉に出てきた名前に、ルフィもにこにこ笑っている。 とりあえずはこれで、船長の許可が出たようなものだ。 「責任はきっちり取ってもらうわよ。いいわね、チョッパー。」 「お、おう!!」 ナミにびしっと指差され、チョッパーは一生懸命、返事をした。 それから、あれ、これはどういうことだと、激しく首を捻っている。 そしてサンジは床で泣き崩れていた。
どうやらチョッパーは、求愛行動をする前に、意中の雌に受け入れられたらしい。 めでたしめでたし。
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2010/01/20 |
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