ルフィ×ブルック 愛しの音楽家 

 ルフィは、最初の最初から、音楽家が欲しかったのです。
 だから、ブルックが麦わら一味に加入して、ルフィは本当に喜びました。
 憧れの音楽家。しかも、楽器全般何でも弾けるというオールマイティ、更には自分で曲を作ってしまえるほどの才能も持っています。
 しかも、その音楽家は、ガイコツでアフロでヨホホなのです!!
 ルフィのブルックへの寵愛は深まるばかり。
 そしてブルックの方も、50年間の孤独からすくいあげ、異形に怯えることもなく、仲間になれと云ってくれたルフィに、心からの愛情と敬意を向けていました。
「ブルック、歌!」
「ヨホホ、我が船長のお望みのままに!」
 バイオリンを片手に、ルフィや、クルー達にリクエストを募るのも、とても楽しいものでした。
 ここ50年ばかりの歌はもちろんブルックは知りませんけれど、口々に歌ってくれる歌を聴いたり、新たな楽譜を手に入れるのも嬉しいもの。
「あああああ、ピアノ高いー。でもグランドピアノの方が音いいのかなあ、調律はウソップかフランキーに覚えさせるとして、……中古でもいい? アクアリウムバーに置いて、甲板に持ち出せるようにすればいいかなあ……。」
 ナミはブルック加入以来、新たな問題に頭を抱えていますが、それもとてもありがたい気持ちです。
 おもちゃや子供向けの楽器などを購入してくる者もいて、演奏にも花が咲きます。
 童謡などは長い時を経ても引き継がれているものが多く、あちこちの海の歌を歌いまくれば、知っているとあがる声も何度も聞かれるものでした。
 さて驚くは、麦わらの船長の美声です。
 最初こそ、がなりたてるような歌や、あたまぽかぽかあほばっかー、の歌ばかりの彼でしたが、ルフィの音域に合わせた曲を落ち着いて歌わせれば、船中に朗々と響く歌声です。それに合わせてバイオリンを弾くブルックの手にも熱がこもるというものです。
 ルフィもブルックも、そしてクルーの皆も、楽しい音楽ライフを過ごしていました。
 


 そんなこんなで、ますますルフィはブルックに夢中です。
「ブルックー、好きだぞー。」
「ヨホホ、私もルフィさんが大好きです!」
「おー、なら両想いだな!」
「それは心を弾ませるよい言葉ですね。私、心臓ないんですけど! ヨホホー。」
 楽しく幸せブルックは、深く考えることもなくそう答えました。
「アフロいいよな! おれも髪伸ばしたらアフロにできるかな。」
「ルフィさんの髪はまっすぐでさらさらではないですか。もったいないですよ。」
「でもアフロ、男らしいじゃねえかー。」
 ルフィはブルックの頭、もといアフロを抱きしめて、むぎゅむぎゅすりすりふかふかといたします。
 ひとしきりさわさわしたあと、ルフィはブルックの額に残る、生前の傷跡に唇をふれました。
 骨に感じる唇の感触に、ブルックのない筈の心臓がどきんと高鳴りました。
「な、ここ、開けてい?」
「だめですー。」
 ばかっと開く頭蓋骨は、年少達の垂涎の的ですが、大切な音貝を入れてあることもあり、開けて遊ばれては困ります。それに頭の中を覗き込まれたら、なんだか恥ずかしいではないですか。
「ちぇー。」
 ルフィは口ではそういうものの、特に残念そうな様子は見せず、また傷跡に唇を押し当てました。
「あ、あの、ルフィさん……?」
 ルフィはニッと笑うと、ブルックの口、というか、唇はないのでむき出しの歯に、キスをしました。
「こーゆー時に、余計な会話は野暮ってもんだぜ。って、サンジが云ってた。」 
 どういう時ですかあああサンジさああああん!!
 と、ブルックが心の中のみで叫んだのは、ルフィがぺろぺろとブルックの歯を舐めていたからです。
 ルフィはぺろぺろぺろぺろ、ブルックの顔中まで舐め回します。
 ぽっかり開いた眼窩の縁や、かつては鼻があった部分なんかを舐められると、ぞくぞく背筋が震えてきてしまいます。
 いえ、ブルックの場合、背筋と云うより背骨でしょうか。
「あ、あ、あの、ルフィさん、おなか好いてるんですか? 骨だけの私なんかおいしくありませんよ、ね、そんなにおなか空いたなら、サンジさんに頼みにいきましょう。軽いおやつくらいならきっといただけますよ、ね!? ねえってば、ルフィさああん!」
「骨からもうまいスープが出るって、サンジが云ってたぞ。鍋でグツグツ煮るんだ。……腹はいっぱいにはなんねえけど、すげえ、うめえよ。」
 もうブルックは頭ぐるぐる、とはいっても、頭蓋骨の中に入っているのは音貝のみで、脳味噌すらもうないのですけれども、とにかくパニックパニックです。
 そのうちに、ルフィの指がブルックの胸のスカーフをしゅるりと外し、上着の前をがばと開けました。
 中はもちろん骨ばかりですのに、ルフィはその肉も皮も失った体を、じいっと見つめておりました。
「あ、あの、あんまり御覧にならないで……。」
 ブルックは恥じらってもぞもぞと逃げようとしますが、がっちりルフィに服を捕まれたままでは、逃げたら破けてしまいます。
「やだ。見てえ。」
 けれどルフィはきっぱり却下。
「こんな体御覧になっても、おもしろくないでしょう……。」
「んなことねえ、すげえ楽しい。」
 確かに全身骨格なんて、医者のチョッパーくらいしかきちんと見たことはないでしょうから、それはそれでおもしろいのかもしれません。
 と、ブルックは一生懸命自分に言い聞かせて落ち着こうとしていましたが。
「好きな奴の裸見たら、嬉しいもんだろってサンジが云ってた。」
 いやはや全くサンジは、どれだけ悪いことをルフィに吹き込んでいるのでしょうか。ここはやはりそのうちゾロにでも相談を持ちかけるべきでしょうか。
 ……などと、のんきに考えている場合でもなく。
「おれ達、両想いなんだもんな。だったらいいよな。……大事にするからな、ブルック!」
 高らかに宣言する、ルフィのお日様のような満面の笑顔に、ブルックはうっかり見惚れてしまいました。
 その間に、ルフィの手がするりとブルックの体の中に入り、肋骨の裏側や背骨の内側などをさわさわと撫で始めます。
 乾いた冷たい骨にルフィのしっとりとした手が妙に熱く感じて、ブルックは口をぱくぱくさせました。そうすると、歯ががちがちと噛み合わさって鳴ります。
「ヨホ、ルフィさん、……ヨホ……、ヨホホ…っ、ホホホ、ヨホホン……。」
 そしてブルックは、船長の御寵愛を、骨の体いっぱいに受けることとなったのでした。


 ルフィは、待ちに待ち続けた音楽家が、かわいくて愛しくてたまらないのです。
 
2010/12/20 



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