ルフィ×サンジ トリコ世界パラレル 2 

 あれ以来、ルフィは頻繁にバラティエにやってきます。
 続けて数日来ない時には、どこかにハントに出かけているようです。
 来ないなーと思っていると、その後、食材を持ってきてくれたり、手ぶらな時もありますが、サンジはお土産があってもなくても、ルフィの来店を待っていました。
 おかげさまで、サンジの担当のランチタイムには、何度も捕獲レベルの高い食材が並びましたが、店の方針からは大分外れてしまう勢いのような気がして、何となくゼフに申し訳ないような気もします。
 今のところ、ゼフは何もサンジに云わず、食材の解体を教えてくれたりするのですが。
 その知識を見ると、やはりゼフは数々の高級食材を調理してきたことがあるのではないかと、サンジは思わずにはいられません。
 教えてくれるのは解体と、毒の有無くらいで、後は勝手にしろと突き放されてしまうのですが。サンジも次第に一人で解体をする勘を働かすことができるようになってきたり、そして更にたまには、新種と認定されたぞと、自慢げにルフィが食材を持ってきてくれることもありました。
 もちろん解体された状態で持ってくることも少なくありませんでしたが、ルフィはできる限り、丸のままで持ってくるようにしてくれているようです。
 けれどもサンジには、ちょっと不思議に思うことがありました。
「あのさー、注文付けて悪いけど、魚とか、植物とか、デザート物とかねえの?」
 ルフィはいつも絶対に、サンジから食材の料金を受け取ってくれません。その分料理を食わせてくれればいいと云いますし、十人分ではきかない量をルフィは一人で食べつくしますが、彼が持ってきてくれるのは、いつも必ず、肉っぽい食材なのです。
「おれは肉が大好きだ! 世界中の肉を食うんだ!!」
「あーはいはい。この肉好きめ。」
 サンジは笑って、ルフィの頭をちょいと小突きました。
 それなら仕方ないなと、つられて笑ってしまうようないい笑顔だったので仕方がありません。
「世界には、おれの知らねえうまい肉がまだまだたくさんある! 今知られてる肉も、誰もまだ知らねえ肉も、おれはもっともっと食いてえんだ。」
「よしよし持ってこい持ってこい。最高にうまく調理してやっからな。立派な美食屋になるんだぞ。」
「おう! 料理はサンジに任せたぞ!」
 たとえば、時代のカリスマ美食屋トリコ、彼ほどの名声を取るのは難しいでしょうけれども。でも、肉部門限定なら、こいつもかなりのとこまで行くんじゃないかなと、サンジは鼻が高い気分です。
 そんなふうにして、ルフィが持ってきてくれた食材が、ちょうど両手分になったある日。
「なあ、サンジ。おめえ、休みっていつ?」
 いそいそとランチの仕込みをするサンジに、ルフィは、朝食として出してやった料理をキッチンの隅っこで食べながら、そんなことを聞いてきました。
 ちなみに、最初の頃は客席に用意していたのですが、サンジと話したいし、料理するとこ見たいからと云って、ルフィが勝手に移動してくるようになったのです。
「うちは木曜定休って、まだ覚えてねえのかよ。」
 もちろんルフィとは既に電話番号なども交換していますので、うっかり木曜にルフィが来てしまった時に、自宅に招いたことも1回既にありました。
「その日以外は?」
「んー、一応、プラス1日、貰えることになってっけど、ここ、自分ちでもあるしな。よっぽどのことがねえと店に出てるな。」
 仕事熱心で、女の子も大好きだけれど、何より料理をしているのが幸せなサンジは、担当のランチは毎日、ディナーも週4日は出ています。出ていない日は、よそのレストランで舌を磨いたり、料理の研究をしたりと、自己研鑽に余念がありません。
「休み取ってくれよ、水曜か金曜!」
「………………なんで。」
 ランチの一日くらいなら、サンジがいなくても、コック達にだって任せられるし、頼めばゼフだって引き受けてくれます。ゼフもほぼ毎日ディナーには出ていますが、何か用事がある時は、副料理長としてサンジがディナーも担当することがあるのですから。
 けれどもできる限り休みたくないのがサンジのコック心です。
 眉をしかめて聞くと、ルフィはまっすぐにサンジの目を見つめました。
「サンジを連れて、ハントに行きてえからだ!!」
「……はい?」
 ルフィの頬は少し赤くなっていましたが、サンジはそれに気がつかないほどびっくりしていました。
「何でおれが。」
「いいじゃねえか。あんまり遠くには行かねえようにするから、ほんとは日帰りでも行けるかもだけど、一応余裕取ってもらって、んで、おれが仕留めたもん、その場でサンジに料理してもらって食いたい。」
「ノッキングして来いよ。そしたら新鮮調理してやれるじゃねえか。」
「そーゆーんじゃなくてよう……。なあ、サンジのことは、おれがちゃんと守るから!」
「守っていただかなくて結構。おれは充分強えんだよ、誰かに守られる筋合いなんてねえ。」
「だったらハント行こう!」
「やだね、おれは店が忙しいんだ。」
「行って来い。」
 せがむルフィを、サンジは仕込みをしながら素っ気なくはぐらかしていましたが、突然そこにゼフの声がしたので、びっくりしてしまいました。
 今日持ってきてくれた食材は、ちょっと解体に迷ったのでゼフに見に来てもらっていたのですが、もう家に帰ったかと思っていたら、まだ店内にいたようでした。
「来週の火水木、火曜と水曜はランチを預かってやる。その小僧と行って来い、チビナス。」
「チビナス云うな!」
 ルフィの前でチビナス呼ばわりされるのが恥ずかしくて、サンジはつい怒鳴ってしまいましたが、いえいえ、問題はそこではありません。
「有給も溜まってんだろうが。いくら自営業っつっても、他の奴らが休み取りにくくなんだよ、たまには休め。」
「おんなじ言葉、丸々返してやらあ。」
「いいから行って来い。頼むぞ、麦わらの小僧。一応こいつも、自分の身が守れるくらいには鍛えてある。」
「おう、任された! サンジ、火曜日の朝7時に迎えに来る。弁当作って待っててくれよな!」
「ま、待てよルフィ、クソジジイ!」
 サンジは文句を云いますが、しかし、ルフィとゼフの間で、勝手に話が決まってしまったようです。
 ルフィは勝手に待ち合わせ時間まで決めて、乗り物の手配してくる、と、ランチ前なのに飛び出していってしまったので、サンジはとても不満でした。
 が、何故かついつい、お弁当のメニューを真剣に考え初めてしまったのは秘密です。
 けれどもそれは、ゼフにはばればれでした。
「おかずは行った先で取れるだろう。握り飯とか、主食を多めに持ってけ、チビナス。」
「ベ、別に、弁当のメニューなんか考えてねえよ! あんな奴になんか、日の丸弁当で充分だっての。」
「店にあるグルメケースも、いくつか持っていっていいからな。」
「だ、だからいらねえっての!」
 とりあえずは一々反発しながらも、気にした様子もなくあれ持ってけこれはいらねえと喋り続けるゼフの言葉通りに、サンジは荷造りをしてしまったのでした。
 
2011/07/20 



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