|
★☆★とりあえず現在人っぽい
サンジとゾロは初々しい恋人同士です。 少し前にようやく想いを打ち明け合って、幼馴染から恋人になった2人は、夜になっても別れがたく、サンジの家の前でいちゃいちゃとくっついていました。 とても寒い夜ですが、2人でいればとても暖かいのです。 でももう本当に遅くなってきたので、そろそろ、ぼちぼち……と、十回以上も云い合ってはいたのですが、今度こそ本当におしまいにしようと2人は決めました。 「ん。」 目を細めて、自分の口の下に指を当てて、ほんのちょっと唇を突きだして、サンジはおやすみのキスをゾロにねだります。 ゾロは真っ赤になりましたが、サンジの唇に吸い寄せられるように、そっと唇を重ねてくれました。 まだそっとふれあうキスしかしていない2人ですが、唇のやわらかい感触にうっとりして、何度もふわふわとキスをしていました。 「何してやがる、てめえら。」 いきなり低い声がして、サンジとゾロは、びくっとして飛び離れました。 あんまり遅くまでいちゃいちゃしていたものだから、ゼフがバラティエから帰ってきてしまったのです。 サンジはまだゼフには、ゾロと恋人同士になった話などしていません。素直になるのが恥ずかしいお年頃でもあるのです。 「何でもねえよクソジジイ!」 真っ赤になってあわあわしているサンジの肩を、やはり赤くなったり青くなったり忙しかったゾロが、突然ぐいと引き寄せました。 「御挨拶が遅れましたが、サンジとは真面目につきあってます!」 「ぎゃああああ。」 真っ赤な顔をしながらも、ゼフに向かってきっぱりと云い放つゾロに、サンジは悲鳴をあげながらも、こいつかっこいい…、と、密かに胸をきゅんと高鳴らせました。 「……真面目なのか。」 「将来は結婚も考えてます!――――お義父さん!」 「きゃああああ。」 何かもう穴を掘ってでも入りたいような気分のサンジでしたが、それと同時に、ゼフにゾロが蹴られるのではないかと不安にもなりました。 そしてゾロは。 「一生大切にします。サンジを、婿にください!」 と、叫んだのでした。 サンジはびっくりしました。 ゼフもびっくりしたようです。 「えええええええ!?」 「何だと!?」 親子は声をそろえて叫びました。 大音量にゾロは一瞬ひるみ、それから、信じがたいものを見るような目をサンジに向けます。」 「な、なんでてめえまでびびるんだよ、……なあ、違うのか!? てめえはそうは思ってなかったのか!?」 ゾロは泣きそうな顔でサンジの服の胸元をつかみあげましたが、サンジは口をぱくぱくさせるだけで言葉が発せません。 それを見たゾロの目からは、ぽろぽろっと涙の粒が零れ落ちました。 「おれはてめえにもてあそばれてたのかよ。……サンジの馬鹿野郎!!!!」 ゾロはうわああんと泣きだすと、そのまま走り去ってしまいました。 その場には、ぼーと立ち尽くしている、ゼフとサンジの親子が残されました。 「……あれが嫁か。」 「うん、そうみてえ……。」 「……てめえが嫁じゃねえのか。」 「うん、おれもそっちかと思ってた……。」 ぼんやりと交わす会話は、驚きの理由です。 2人とも、サンジが嫁の方だと思ったので、ゾロの言葉にびっくり仰天してしまったのです。 「チビナスが婿に行くのか……。」 「そしたらおれ、ゾロんちからバラティエに出勤するのかな……。」 「あれんちに住むなら、交通費はいらねえな……。」 「うん、徒歩通勤する……。でも家族手当は貰えるなら欲しいです……。」 「考えておく。あれは、道場継ぐのか……?」 「そうだと思う……。ジジイ、それより、結婚式どうしよう……。」 「うちでやればいい。面倒だから断ってるが、時々レストランウエディングの相談があるだろう……。」 「やってもいいならしたいなあ……。でも、ゾロだと、お式は和風じゃないとかもしれないし……。」 「そしたらそこの神社で式あげて、うちで飯にするか……。」 「ドレス姿も見てえけど、ゾロの高島屋も、素敵だろうなあ……。」 「文金高島田だ、こののーたりんチビナス……。」 「ちょっと間違っただけだクソジジイ。ゾロんち次第だけど、人前式もいいよなあ……。」 「教会なら口きいてやれるから、早めに云え……。」 「ありがとジジイ。式はともかく披露宴はうちでやりてえな……。」 「当然だろうがこのクソチビナス……。」 「料理はジジイが作ってくれるよな……?」 「当然だと云ってるだろうが。さっさとメニュー考えやがれ……。」 「ゾロの親戚のこと考えると、和風フレンチとかがいいかなあ……。」 「箸も出してやるから心配するな……。」 「おー。ケーキはおれが作るよ……。」 「浮かれて10段重ねとか作るんじゃねえぞ……。」 「判ってる、ちゃんとその場で切り分けて食べられるの考える……。」
とてもとても寒い晩です。 けれどもゼフとサンジは、ぼんやりと突っ立ったまま、その場で会話をつづけていました。 半ば呆然としながらも、それでも着々と、将来設計や結婚式の計画を立て始めています。 しかしあいにくこの場には、この、どこかすっとぼけた似た者親子しかいませんでした。 なので残念ながら、誰もこの2人に突っ込んでくれる人がいなかったのであります。 ……早く、ゾロを追いかけてやれと……。 けれどもこの残念な親子は、その後も長々と、それこそ将来のゼフの老後問題までを突っ立ったままで話し続け、翌日は2人とも、高熱を出して寝込んでしまったのでした。 真冬の夜中にいつまでも屋外で話しこんでいれば、馬鹿でも風邪をひくのでした。
|
2010/12/26 |
|