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「ロビン、相談がある。」 「いいわよ。どうしたの、ゾロ?」
ゾロが最近とても変だ。 サンジはゾロの様子がおかしいので、大変困惑していた。 もともとあれはマリモなので色々と言動におかしいところはあったのだが、ますますそれがヒートアップしているように思うのである。 たとえば、妙に唇を舐めているので、荒れているならチョッパーにリップクリームを貰えと助言してやったら、恐ろしい目で睨みつけられたりとか。 いつものジジシャツのボタンが全部開いていたので、見苦しいからボタンをしろと云ったら、唇を尖らせてそのボタンを全部引き千切ってしまったりとか。 目をぱちぱちさせてしかめっ面をしていたので、目が痛いならチョッパーに以下略とか。 何故かズボンの裾をめくりあげて、膝下を見せていたりとか。 着替えがない訳でもないだろうに、フランキーのでっかいシャツだけを着ていたりとか。 やたらとサンジを睨みつけてくるので、思わず苛立って喧嘩になったりとか。 テーブルの下でサンジの足を蹴ってくる――――のかと思ったら何故か挟まれて以下略とか。 とにかく何か色々と、奇矯な行動を取っているのである。 とうとう脳味噌まで筋肉になってしまったのか、それともとうとう本物のマリモになってしまう前兆なのではないだろうかとか、サンジは悶々と悩んでいた。
「おいロビン。今日のも駄目だ。コックの奴、全然わかってやしねえ。」 「あら……、案外彼も、鈍い人ねえ……。」 ふてくされてロビンに訴えたゾロは、しかしその言葉に、むっと唇を尖らせた。 「ふふ、ごめんなさい。意外と純情な人なのかもしれないわね。」 「……まあな。」 ゾロは機嫌を直して、デッキチェアで本を読むロビンの脇に座った。 「だったらいっそ清楚系にしてみる? 白いフリルのブラウスとか、貸すわよ。」 「フリルは男の着るものじゃねえだろう。」 「あら残念。」 「色仕掛けったあ、難しいなあ……。それともおれに色気がねえか? だからコックは、何の反応もしてくれねえのかなあ……。」 ため息を吐くゾロに、ロビンは一生懸命首を振った。 「そんなことはないわ、ゾロには充分、男の色気があると思うわ。私も一緒に考えるからがんばりましょう。きっと彼のツボにはまる何かがあると思うの。」 「……済まねえな、ロビン。感謝してる。」 「いいのよ。頼ってもらえて、私もとても嬉しいの。」 にっこり笑うロビンに、ゾロも少し元気になった顔をして、薄く微笑みを返す。
…………のを、すぐ側で作業していたウソップは、思いっきり目撃していた。 おまえらそういう密談は隠れてしろよ!! と、力いっぱい叫びたかったが、多分ゾロとロビン的には、サンジにさえ聞かれなければ問題はないのだろう。 どうやらゾロはサンジに気があって、ロビンに教わって色仕掛けをしていたらしい。 それはまあ確かに、サンジは世界一の女好きだし、いきなり告白しても玉砕するだけだろうし、回りから埋めようとする姿勢は悪くはないと思うのだが。 ゾロが失敗したらしいあれこれは、そりゃ、ロビンやナミにやられたらウソップだって嬉しいかもしれないが、ゾロにやられたって困ると云うか、そもそも色仕掛けだと認識できないというかなんというか。 けれども、どうやらゾロとロビンは、この上なく真剣らしい。 ゾロが上手にウインクをできなかった話を聞いて、ロビンはゾロに、流し眼の特訓をし始めた。ゾロには高等技術らしいそれは、色っぽいと云うより恐ろしい形相になっている。 ウソップはふらふらと、その場を逃げ出した。 おれは何も聞かなかった、何も見なかったと、一生懸命自分に云い聞かせながら。
しかし。 「なあウソップ、最近クソマリモの奴、すげえ変じゃねえ? いや、元々変な奴だけどよ、それがますます悪化してるって云うかよ……。」 サンジに捕まったウソップは、そんな悩みを打ち明けられていた。 「あああああ……。」 事実を知っているウソップは、咄嗟に頭を抱えてしまった。 「……! ウソップ、てめえ、何を知ってやがる!!」 それで思い切りサンジにばれてしまい、高々と上げられた脚に脅迫された。 男・ウソップ、脅迫に屈して友を売るような真似は決してしないのだが、しかし。 サンジが本気でゾロを心配している様子と、このままではこじれこそすれ叶う訳がありえなさそうな方向に付き進むゾロの恋のアプローチに、ウソップだって真剣に不安を感じていたのだ。 迷った末に、ウソップはできる限りソフトな表現で、ゾロとロビンの密談?の話をサンジにしてやった。 「……おれ、ゾロに色仕掛けされてた訳か?あれが!?」 サンジが驚き、呆然とするのは、ウソップにも我が事のように良く判る。 が。 「な、なんだよ、やっぱり脳味噌までマリモなんじゃねーのあのクソ剣士、……あんなど下手くそな誘惑で、このラブコック様を誘惑しようなんざ、1万年早えってんだよもう……。」 サンジが真っ赤になってしまったのまでは、残念ながらウソップには理解不能だった。 「な、なんだよサンジ、なんで赤くなんの!?」 ウソップはとてもびっくりである。 えええええ!? いいの!? ありなの!? 嬉しいの!? と、ウソップは心の中で絶叫状態だったが、サンジは耳まで赤くなってひたすらもじもじしているので、多分いいのだろう。 どうやら、ゾロの流し目特訓の成果は、期待できそうである。 それが全く色っぽくなくても、ゾロの望む結果がでることだろう。
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2010/12/27 |
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