ウソップ×サンジ あごひげ(2年後) 

 2年たって再会したサンジは、何だかとてもだめな感じになっていた。
 ウソップとしては、この2年間に何があったんだ…!な気持ちでいっぱいである。
 あんなに豪快な鼻血を、ウソップは生まれて初めて見た。
 出した本人がぶっ飛ぶほどの、力強く盛大な鼻血だった。



 そのせいで貧血を起こしているサンジは自業自得だと思ったが、それでもふらふらと動き回ってはまた鼻血を吹いているサンジに、ウソップは呆れと心配が半々である。
 元々極端に女好きな男ではあったが、一体何があったというのか。もしかして男ばかりの島にでもいたのだろうか。だからと云ってここまでになるものなのか。
「うう、寒い、ウソップ……。」
 血が足りなくて青い顔をしているサンジを、ウソップはため息交じりに引き寄せた。
「はー……、あったけえ。」
 サンジはむぎゅむぎゅと、ウソップにしがみついてくる。
 仕方ないので抱きしめてやって、頭を撫でたり、背中や肩を擦ってやったりしていると、次第にサンジから力が抜け、すりすりと全身を擦りつけてきた。
 かつてのウソップだったらよろめいてしまいそうなくらいに遠慮なく体重をかけてこられたが、今なら問題なくサンジを支えてあげることができた。
「……てめえ、何か前より厚くなった。」
「そりゃあまあ、全力で鍛えましたから。」
 一度ぶよぶよな体になってしまったが、その後絞って鍛えた。我ながらいいかんじにたくましくなってきたような気がするのだ。ゾロのようにとはいかなくても、2年前のサンジくらいには、と、密かに思ってがんばってきたのだ。
「……おれはなあ、地獄にいたんだ。」
「ん、そーか。」
 よしよし、と、ウソップはサンジを撫でてやる。
「聞くも涙、語るも涙の2年間だ。」
「はいはい、大変だったなあ。」
 サンジはむぎゅうううとウソップを抱きしめている。
 というよりやはり何となく絞めあげられているような気がする。
「辛かった……。」
「よしよし。」
 どれほどだよ、と、思わずにはいられなくなるような、深い深いため息をサンジはつく。
「でもそんなおれの心にも救いがあった。ナミさんとロビンちゃんという光り輝く天使の存在だ。」
「判ってる判ってる。」
 あの鼻血の吹きようを見たら、判りたくなくても嫌というほど判る。
「……だから別に、てめえのことなんか全然思い出さなかったんだからな。」
「はいはいそーですか。」
「はいはいじゃねえ。」
 いきなりがしっと長い鼻をサンジにつかまれ、ウソップはぐえっと声をあげた。
「何すんだよサンジ、いてえって!」
「てめえのことなんか、全然思い出してない!」
「いやだからそれでいいって……。」
 ウソップは呆れ半分で云いかけて、それからはたと気付いた。
「えー。」
 とりあえず咄嗟に、不満そうな声をあげてやると、鼻を握り締めたサンジの手が緩む。
「おれのこと、思い出してくれなかったのか、サンジ?」
 ようやくサンジの望む言葉を察したウソップは、苦笑を隠しながらそう聞いてやった。
「……三日に一度くらいは、鼻伸びてるかなって思ってやったぜ。」
 ふふん、と、何故か意味もなく胸を張るサンジは、相変わらず頭の中身が空っぽそうだった。
「案の定、伸びてたな。」
「いやいや伸びてませんて。」
 満足そうなサンジに鼻をひっぱられ、ウソップは笑いながら抗議した。
 何度かウソップの鼻をにぎにぎしたサンジの手がようやく離れ、そして、ウソップのあごをじゃりっと撫でる。
「鼻が長くなったのはいい。しかしこの髭はいただけねえ。……あごひげはこのおれのトレードマークだぞ。」
 いやむしろサンジくんのトレードマークはぐるりと巻いた眉毛です。と、ウソップは云おうかと思ったが、やっぱり云わなかった。
 なんと内側が巻いていた左の眉毛は、見れば見るほど物珍しく、愛くるしくていけない。
 ウソップの長い鼻と同じくらいの、強烈なチャームポイントである。
「いやー、おれも19歳になりましたし。ようやく髭がいい感じに伸びるようになってきたので、せっかくだから整えてみた。かっこよくねえ?」
「……よくねえ。」
 サンジはまた、ふてくされたようなぶーたれ顔になっている。
「そうかなー、サンジのこと思いだして、あーゆーのかっこいいなーと思って伸ばしたんだけどなー。」
 ウソップの言葉に、サンジは表情をぱあっと輝かせた。
 それからすぐに、慌てた様子でしかめっ面を作ったのだけれども、やっぱり顔のあちらこちらから、どんどん崩れ出している。
「ま、まあな。このおれのかっこよさに敵う筈がなくても、努力するのは大切なことだと思うぜっ。」
「はーい、精進します。」
 一生懸命格好つけているサンジに、にっこり笑ってウソップは答えた。
 サンジもにぱっと笑って、そして、ウソップのあごをもう一度撫でる。
「てめえ、髭も剛毛だよなー。」
「サンジくんのお髭も濃くなったなあ。口の上も生えてきたんだ?」
 確か2年前は、鼻と口の間の部分の髭がちょろちょろとしか生えないと、サンジはぐちっていたのだ。いつか長ーく伸ばして、サンジの実家のレストランの、あの料理長のようなみつあみにしたいのかも知れないと、ウソップは思っている。
 ウソップはその鼻の下の髭をさわさわと撫でて、それから、前よりも濃くなったサンジのあごひげもじゃりじゃりと撫でた。
 サンジも手を伸ばして来て、ウソップのあごを撫でている。
 ウソップが顔を寄せていくと、サンジは極自然に、目を閉じた。
 じょり、と、ウソップはあごをサンジのあごに擦り合わせる。
「……ちがうだろ。」
 サンジは薄く笑って、甘い声でささやいた。
 ウソップの頭が軽く抱き込まれる。
 2年ぶりの優しい感触が、唇にふれた。
 
2010/12/28 



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