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2002年の短歌

Jan.2002

二の腕は噛みとるのによさそうだけど 口を閉じ、おとなしく、キスした

みじろがない無言の夜に容赦無くふつふつ煮えたぎるレモネード

薄切りの食パンひとつ抜きとりて立方体をやや平たくす

諍いにもやや飽きてきた午前四時 on our tongue 人工甘味料

あの人はハッカタバコを忘れていった僕は眠っていればいいのだ

三階にも下にも行かずこの高さで部屋に篭って八十時間

週に五冊文字の詰まった本を読み一時間くらいセックスをする

祇園まで迎えにきてよ タクシーの間を自転車チャリで、くぐり、すりぬけ

WINDOWSに「すべて解放」というボタンがあり、わからないけど押したくなった

「ドアの前で引き返した」というメールが来て博打の音が嫌いな彼女

名刺大の紙に油性のマジックで「次のこと」と書き財布に隠す

会わないという気まぐれを跳ねまわる彼のピアノが塗り固めていく

春の陽に緑黄色野菜縫いこめられ 浮遊 ハンカチーフ 高くて

部屋の人がとまどうくらいラディカルな掃除中らしい電話の向こう

とりあえず墓参りからはじめよう塔を上から建てるみたいに

七色のマーブルチョコを噛み砕き阪神帽の男に近づく

アイスティーを二秒で飲んだ人だっけ? 名刺の上に楕円をえがく

手をついた五ミリ先には蟻の巣が 背後にはかぶさる新緑が

灰皿が青いメッキの定食屋はいつも午後四時っぽい雰囲気

ハンドルを戻して咳を一つする 横断歩道には乳母車

降るような縦の光によるべなく五月の末のエンゼルフィッシュ

毎朝見る「尼崎 45km」特に放浪欲はそそられず

中国兵敬礼したるポスターが扉を護る寮の一室

「歯ブラシと砂糖は離して置いておく。少し考えればわかるでしょ?」

残念ながらむやみやたらとレモン味にすればいいってものでもないのだ

「これをかぐとスッとするよ」と誕生日にもらった瓶をかいでスッとする

お互いの頚動脈をしめながら折り紙手裏剣五歳児の武器

「1 蟻の一種だが巣を作らない」「1 おびえること」タテ・ヨコのカギ

パナマから石鳥の毛を取り寄せて額に貼れば芸が無いと言う

信楽の小狸がただにんまりと全滅したあとの水槽で

痛いくらい流線型のユリカモメをうす味カールで撃ちおとそうぜ

Feb.2002

着替えればいいだけなんだ着替えればあとは背骨がやってくれるさ

同居人とその恋人が眠っている横で静かに履歴書を書く

二百字や千字に俺の屈折したこの数年を書けと言う紙

豆乳と野菜ジュースとバーボンで暮らしていれば水だと思う

東京に持っていく物を書き上げたファミリーマートのレシートがない

一日に二万千回親指でボタンを押すとお金が貰える

ハンドルから固定用の玉抜き取って二万注いだ新台を去る

素っ裸の男が毛の無い幼女に言う「早よ服ぃ、ジュースうたろ」

Mar.2002

昨晩の肌のことなど残すソファ 惰性を飲みほす三号ローソク

Apr.2002

そりゃあまあ当然のごとくにそうなんだけどそれでも納得いかないよ俺は

May.2002

「アベ君は生まれ変わるなら何が良い?」「象使い象使い象使い」

頼まれもしないのにまっすぐ伸びていく杉は偉い杉のように生きよう

蚊柱が近づいてくる蚊柱がおれはなんにもしていないのに

Jun.2002

永遠とは何かと犬に訊ねられ「おまえには縁のないものだ」と言う

校庭で発掘された猿人の右足持って走れカズフサ

眼鏡屋に歪んだ視力を手渡して絵本も読めない人間になる

看護婦は<治癒>と名乗ったものうげに (できすぎている)と僕は思った

Jul.2002

はなみずがとまらないけどカトリック河原町教会改装中 *

「無いと困るなにかが無い」と困ってるあの子の得意技はトートロジー *

「RUN&GUNってゆうたらカッコええけどな要は走ってってぶっぱなせ」

駅員も女子高生もだれもだれも揺れたってことに気づいていない

眠れずに道でくらくらする俺にも律儀に信号は青く咲く

Aug.2002

てをつなぎ草のベッドで目をとじる/とがめるように蟻がくびをはう

UNIQLOの紙袋を両手に持てば走る子供が顔からぶつかる

「さぼてんのどくばりでおれはしぬのさ」とうたって白いバスタブあらう

「結局は冷たい奴」って言われても冷奴のこと考えるだけ

血圧を測る如くに葬儀屋の黒い腕章膨らめばよい

鋸はオマエハアホカとしゃべるものそれがなにわだと信じてくれない

縁日の面をかぶったおっさんが自転車こいでいる新世界

EVIANのペットボトルに擬装した泡盛を犬の鼻にちかづける

人間は気化することが出来ぬゆえ霧や煙を大層好む

自転車の川のうわべを流れてく なみがた/みずいろ/あくりるの屋根

Sep.2002

てのひらをほうりっぱなしでねてるから指紋のみぞに指紋をあわす *

女の子は肩のぐりぐりを親指で揉みほぐしてあげると眠る

このひとに出会わなければ一生涯プリンパフェなど作らなかった

鎌倉のあれとかグランドピアノとか大きすぎるよね、物として

背骨の芯、血球のひとつひとつまで悪いみどりに染まっていたよ

Oct.2002

くちびるがすっごくかっこよかったからわすれなぐさってもいちどいって

つくえ、かたい、顔をうずめたところから殺人事件までを夢に見る

あのひとはすごいすごいと言いながら蜂のダンスが気になっている

ものすごく育てたくなってるんだけど会う人ごとにだめって言われる

空き缶がいつのまにやらあったから右足振りぬいてこんにちは

一年中「あ、桜?」と見まちがうガラスが嵌めこまれた喫茶店

Nov.2002

くろーるの最後の"る"を手わたすとあの子はいつもるっこらという

叩きつける。朝、蹴つまずく前に。コンクリートが乾いてる朝。

電線がどこまでいっても続いてて特急のシートで泣いてしまう

Dec.2002

バームクーヘンを一枚一枚剥がしながら食らう女の性格その他

キムチからピクルスまでの漬け物を食えぬ男がまばたきをした

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