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狂喜への贐
日時: 2011/11/06 00:17
名前: 非現実

短編物でございます・・・サクッと終わらせて「家畜〜」に戻る次第です。

えっち描写はかなり少ないです。
完全なるフィクションでございますので例の、人物企業・団体等・地名等は所謂関係ないんです。
まずこれを書いておきたかっただけです、スイマセン^^;
一度、男性視点で書いてみたかったんです・・・管理人様、スレ汚し大変スイマセンがご面倒よろしくお願い致します。

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Re: 狂喜への贐 ( No.1 )
日時: 2011/11/13 10:46
名前: 非現実

〜くたびれた街〜

ビュウと冷たい風がビル街を通り抜ける。
12月の初週だけあって、行き交う人も疎ら。
皆、背中を丸めて、ただ黙々とそれぞれ目的地へと歩を進めている。
違法スレスレに立ち並ぶ雑居ビルはその殆どの明かりが消え、冬の夜空をひっそりと街灯だけが照らし続けていた。
もっともこの雑居ビル群の明かりはいつの時間でも付くことはもうないのだ。

「寒いですね」
「あ〜〜寒くなったもんだなぁ、この街も」
「はい?」
「なんでもないわぃ」

コートの襟首を立て直して”田端”は車のドアを勢いよく閉めた。

「?」

バタンというドアの閉まる音で聞こえなかったのだろう。
運転席から先に降りていた”上野”は怪訝な表情でこちらを見ていた。
寒くてどうにも説明するのも面倒だった、この際何処でも良いから部屋に入りたかった。

「ボサッすなや、行くぞ」
「あ、あぁはいっ!」

田端の後を追って上野は目の前のラブホテルへと続いて行った。
本当にこんなに寂しくて寒い街になってしまったのはいつの頃くらいだろうか。


2時間後 同場所

「いゃあ〜それにしても参りましたね、いきなり過ぎですよ〜」

その声は言葉とは裏腹に上機嫌そのものだ。
重そうなショルダーバックを肩に掛けているが足取りも軽そうである。
そして向かう途中で何度も耳にした言葉を口にするのだ。

「どんな風なんですかねぇ〜結構勉強してきたんですよねぇ〜僕〜」

寒い。
寒過ぎる。

「僕、初めてなんスよぉ、いっやぁ〜〜何か凄いッスよねぇ」

冬のこの街は寒過ぎるのだ。
加えて隣が煩い。
思わず頭をハタきたくなる衝動に駆られるが、ロングコートから手を出すのも辛いほどの寒さである。
目的の場所はもう向かいだ。
周りは寝静まっているビル群のその一角は、まるで消えそうな細々とした明かりを灯して頑張っているように見えた。
ふと”目黒”は足を止めてビル群を見回した。
その拍子に咥え煙草の灰がポトリと音も無く落ちる。

「あり、どしたんすか目黒さん?」
「静かだな」
「そりゃ・・・もう午前2時過ぎてますしねぇ、終電も無いッスからね」

まだ2時過ぎか・・・目黒はそう思っていた。
駅のすぐ傍というだけに人の行きかいはチラホラと見える。
だけど違うのだ。
目黒はこの寒さの理由を知っている。
真冬でも、どんな遅い時間でも明朝まで、ここはこんなに寒い街ではなかった筈なのだ。

眠らない街。
かつてそう呼ばれたこのS区K町。
夜が更ければ更けるほど人通りはごった返し、雑居ビルからは禍々しいネオンが煌々と照らされていた。
街灯など存在価値すらない程に・・・。
そしてそこを行き交うのは若い男女の人混みで、この夜の楽しみをそれぞれが謳歌していた。
時にナンパ・時に騒動や喧嘩、如何わしい店の呼び込みなど、まさに眠らない街であった。
(いつごろだっけかな・・・こんなに寂れた街になったのは)
昔の感傷に浸ると、この寒さは尚堪える気分だ。
(つまらない街になったな、ホント)
目黒は短くなった煙草を吐き出して向かいのファミレスへと足を運んだ。

「ちょっ、ちょっとちょっとっぉマズイっすよ煙草のポイ捨てはぁ!」

はしゃいでいた”五反田”が慌てて煙草を拾っていた。

ピンポーンという来客を知らせる音とほぼ同時に大学生風のウェイトレスが現れた。
だが目黒はウェイトレスが最初に口にするであろう言葉を遮るように手で制して、視線の向こうへと足を進めたのだ。

「あ、ドモおじゃましま〜す・・・」

後ろから五反田が場違いな声が聞こえる。
かつて始発電車を待つ態度の悪い客でここも繁盛していたのが嘘のようだ。
だだっ広い店内には数える程度の客しかいなかった。
その中の1グループに目を付けた目黒は真っ直ぐ向かった。

「失礼ですが・・・佐伯様ですね?、佐伯クミコ様」

女2人のテーブルの前に立ち、目黒は確認するように言った。
弾かれるように1人の女性が顔を上げた。
向かいに座る女性はハッとして急に警戒する表情を見せている。
見込み通り間違いない。

「突然失礼しました、私は前日にお電話を頂いた目黒と申します」

そう言いながら名刺を2枚内ポケットから差し出す。
佐伯という名前に反応した女性はそれを両手で受け取り深々と会釈をし、表情が強張った女性は名刺をチラリと見てテーブルに置いた。

「わざわざ日時おろかこんな時間に指定してしまって・・・すいません」
「いえ、これも仕事ですから、なんせ24時間動けるのは常識ですし」
「は、はぁ・・・」

佐伯クミコは曖昧な返答をした事に無理もないと、目黒はそう考えていた。
電話での内容を知るに、エリート勤めの旦那の妻なのだ。
組織がしっかりしている分、いつでもどこでも働くという概念は持っていないのだろう。
所詮は地べたに這いずり回り細々と生活する人間という存在を知らない奥様だ。

「取りあえず・・・4人席に移動してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
「・・・ ・・・」

佐伯クミコとは対照的に向かいに座っていた女性は渋々といった感じで4人席の窓際へと移る。
目黒はその女の動向を悟られない程度に注意を払っていた。
(今野マサミ・・・落とすか手懐けるか・・・だな)
最初の手応え感としては落とす方が手っ取り早いというのが目黒の直感だ。
ぶっきらぼうな動向、更に一々目に付く面倒くさそうな態度、窓際を陣取ってからはまるで興味無いと言いたげに視線を窓の外へと向けている。
これこそ云わば虚勢。
目黒は確信していた。
不安で堪らない、間違いは明らかに自身にある、その恐れを目黒は感じ取っていた。

「それにしても・・・」

テーブルの端に丁寧に置かれた名刺と交互に見比べながら佐伯クミコは呟くように口にする。
この先を言って良いものかどうか、様子を伺っているようだ。

「大丈夫ッスよ、この人、若いけど優秀ですから!」

ショルダーバックからノートPCを取り出ししながら五反田が先に答える。

「まぁ・・・お前が言うな、あと何でお前が偉そうなんだよ」
「あたっ!?」

隣に座った五反田の脇腹に肘を入れた。

「まぁフフフフ・・・これは失礼しました」

コントみたいなやり取りに若干心を許したのだろう、佐伯クミコは気品ある笑みで言う。

「まぁ、探偵という職業は登録とか資格もいらないとか、胡散臭いものですからね。
今は31になりますが28才で探偵と名乗ってますよ、まぁ名乗るだけなら小学生でも出来ます。」
「あら本当にお若いですね」
「信用は後でという事で、遅い時間ですから手っ取り早くいきましょう、私の名は・・・」
「目黒 ユウスケさん、ですね?」

わざわざ名刺へと視線を移して佐伯クミコは答えるように言う。

「で、隣のが五反田ヒデオと言いまして、就職浪人の自称助手です」
「ぅわっ、色々酷っぉ!」

一々突っ込んでいたら話は進まないのだ、目黒は五反田ヒデオの反応を無視して続ける。
ここからの話は金銭に関わる、生活する為の大事な大事なビジネスだ。

「で、契約内容は電話でお話しした通りですが、お会いするという事は?」
「3日で、とりあえずお願いしたいと・・・」
「1日2万ですね、電話でもお伝えしましたが成果有無でも契約は成立しますが?」
「はい・・・」
「では、判子はお持ちで?」
「はい」

ゆっくり頷いた目黒は五反田に視線を送る。
五反田がショルダーバックから紙面を3枚取り出して佐伯クミコの前に差し出した。

「端から端までじっくりと読んでください、時間掛けて下さって結構です。
内容に同意されたら判子を3枚共々にお願いします、その時点で契約は有効されます。」
「ぁ、はい・・・」

佐伯は契約書を手にした。
それを見てか、コツンとテーブルで隠れている足を五反田が小突いて合図する。

「・・・?」

目を移すとノートPCのディスプレイにはメモ帳が開かれておりそこには「上手くいくといいですね」と書かれてあった。
軽い眩暈を覚えた目黒は五反田に耳打ちする。

「いいから黙ってろ、ビジネスは口出しスンナ」
「ぇ?」
「いいから」

これからちょっと汚い手を使う予定だった。
だから五反田の空気読まなさには正直癇に障る。
・・・助手としてはかなり優秀なのだが・・・ ・・・決して口にはしないだろう感傷である。

「さてと、少し話でもしないか?」

佐伯クミコの隣でまるで関心がないかのような振る舞いをしていた今野マサミに声を掛けた。

「な、なんでよ、私は話す事なんかないし」
「退屈だろ?」
「ハッ、だったら私は帰ってもいいじゃない」

彼女は帰らない、目黒には確信めいた自信があった。
人間誰っだって、自分がいない場で勝手に物事が進むというのは不安で堪らない。

「えぇと、大学生だよね?」
「だから何?」
「単刀直入に聞くけどさ、佐伯タカユキさんとはどうやって知り合ったのよ?」

契約書を読んでいた佐伯クミコがピクリと反応していた。
依頼主のまずまずの反応に目黒は答えを聞く前に続ける。

「ま、出会い系だよなぁ〜でな、ちょっと調べさせてもらったんだがね?。
君、結構出会い系を利用してるよね、その中でさ、何で佐伯さんを選んだの?。」
「・・・ ・・・何で、何故、なんですか?」

佐伯クミコが契約書から目を離して会話に割って入ってきた。
その口調は怒りの感情がハッキリと読み取れるものだった。
自身が狙った煽りは上々だが少しスパイスを利かせ過ぎたかもしれない。
不倫相手の今野マサミを焚き付ける事で佐伯クミコの依頼を成立させようとした汚い手は修羅場を作り出していた。

「そ、そんなの・・・たまたま良い感じに・・・ えぇと、その・・・合理的に・・・。
だ、大体さ、奥さんいるのに出会い系とかってさ、オカシイんじゃない?。」
「っな!」
「まぁまぁ、ここファミレスですしね」
「・・・」
「・・・ ・・・」

顔を見合せる事無く女2人は場を読んで黙り込む。
ヤレヤレと目黒は溜息を付くと、助手の五反田が口を挟んできた。

「まぁ〜ね、色々とあるわけですが、ぶっちゃけどうします?」
「・・・え?」
「契約ですよ契約、僕が見る限りですけどねぇ、随分と熟読したご様子ですが?」
「・・・ ・・・ ・・・はい」

佐伯クミコは再び書類に目を通して、ハンドバックから判子を取り出した。
当てにしていなかった五反田のアシストに、よくやったと心の中でガッツポーズする目黒だった。

「では、これで契約は成立します」
「お願いします」
「お任せください」

判子が押された契約書を思わずキスしたくなる。
久々にまともな仕事だった。
Re: 狂喜への贐 ( No.2 )
日時: 2011/11/14 00:02
名前: 非現実

〜くたびれた街2〜

「ただいまっと!」
「おい暖房付けろ、まずは暖房だ」
「はいはい〜」

数時間前まで暖かかった事務所も今は凍て付く空間となっていた。
ジャンパーを羽織ったまま五反田が慣れた仕草で暖房を付ける。

「コーヒーも頼む」
「インスタントで良いっすよねって、ヤベぇポットが空でした」
「んなぁにぃ・・・速攻で沸かせ」
「はいはいっと」

自分のデスクに座る目黒は顎をデスクに乗せてただ身を屈ませる一方、狭い事務所の中を五反田が動き回る。
転がり込んで来た時は面倒な事になったと思っていたのだが、この助手は家事や雑用にとよく働く。

「でも良かったっすね、契約取れて」

シンクに立って待つ五反田が言った。

「ま、いつもと変わらない不倫関連の仕事だけどな。
お前はどうだったんだ、客とのやり取りは初めてだったろ?。」

それが、と言葉を濁してから五反田は少し拗ねた口調で続けた。

「何か期待してたのと違ったんすよねぇ〜、結構勉強してきたのに」
「探偵の参考書なんてあるかっての」
「いやそんなんですけどね、折角PC持ってきたのに全く意味無いし」
「それは最初に言っただろう」
「調書とかそういうの、書くと思ったのになぁ」
「アホ」

大方漫画か小説、またはテレビ等で得た知識を勉強と言っているのだろう。
実際、依頼主や当事者から情報を引き出すのは当てにできない。
そう言った面々は隠し事や感情論が出てしまい、それをかえって鵜呑みにすると捜査は混乱を来してしまうからだ。
大体警察に相談すればいい問題を、公にしたくないという理由で探偵を雇う。
この時点からして素直に全部話してくれるとは言い難い。
五反田はそこら辺をまだ勘違いしている。

「ほいほぃっと、コーヒー入りますよ〜」
「おぅ」

元々猫舌である目黒には熱々のコーヒーはまだ口には出来そうにないが、手をカップに添えているだけでも十分な暖気だ。

「明日はって言うかもう今日か、何時頃動くんスか?」
「昼前ってとこだな、それまで十分寝とけよ?」
「・・・ ・・・え!?」

手にしていたカップが口に運ばれる前に動きが止まり、驚いた表情を五反田は見せた。

「行きたいんだろ?、捜査」
「はいっぃ、で、でも・・・その!」
「お前がここに入り浸って半年、タダ働き同然で家事ばかりやらせてるらな。
今回は・・・俺の邪魔しなければ連れてってやるが?。」
「行きます行きますっ、邪魔しませんし何でもパシリに使ってくださいっ!」

訳ありでここに転がり込んで来た五反田には文字通り高校生程度の小遣いしか与えていない。
最も住む場所を提供する代わりに家事雑用一切を取り持つ、という契約なのでこれはこれで間違いではない。
目黒が思う限りでは劣悪な環境なのに、よく付いてくるものだと感心してしまう。
丁度良い温度になったコーヒーを口に持って行ってゆき、手元の資料を眺めた。
(修行には持って来いの依頼だな・・・)
若干早とちりする所がある五反田だが要領は決して悪くないし、かなりいい大学に出てたほど頭も良い。
慣らしておけば仕事でも十分使えそうだ。
(どうせこの依頼はここまでだろうし、な)
残ったコーヒーはそのままに、ようやくコートを脱ぎ捨てて目黒は隣の寝室へと足を向けた。

「あ、オヤスミナサイっす」
「お前ももう休めよ?」
「あいっす」

ちなみに五反田のベッドは来客用のロングソファーである。
それでさえ文句一つも言わないのだ。
(ホント変わった奴だよ・・・ ・・・)
仮にこれが目黒の立場だったら1日も持たずに逃げ出しているだろう・・・。



その行為は貪るもの。
お互いが正に必死に感じ合い、ただただ摺り寄せる。
ギシギシとベッドは激しく音を立て、不定期な淫靡なる吐息が漏れる。
男女はその行為に耽る。
上になる男は腰を振るい両手で揉みしだく。
下の女は身を委ねるとは程遠く、結合部分が離れないように男の腰の動きに対して激しく同調させる。
逞しい男の両手で揉みくちゃに変形する乳房の先端を自ら摘み、更なる刺激を求める。
それを意図した男は口で先端を弄ぶ。
舌でコロコロと転がし・・・甘噛みでジワジワと弄り・・・吸い・・・。
其の度に女は激しく声を上げて自らの感情を高ぶらせてゆく。
男の腰の動きが更に激しさを増した・・・それはまるで壊れた機械のように・・・。
荒い息と肌と肌がぶつかり合う乾いた音が早くなる。
迸る汗と様々な体液で2人は濡れまくる。

「っぉ!?」

途端、男がビクビクと痙攣するように震え・・・ ・・・ゆっくりと体がお倒れ、女の体へと崩れ落ちた。
まるで糸が切れたマリオネットのようだ。
下になったままの女はゆっくりと左手を動かし、男の頭を撫でる。
息切れ気味の男が目を瞑り幸せな表情に変わった。
それは母性を感じる行為であり、いくつ年を重ねても男というものは女の乳房を欲しがるもの。
だが、間もなくそれも「また」終わる。
女の右手が動く。
見えないものを探り、探り当てる。

「ぅく!」

男がビクッと再び波打つように動いた。
女の右手は、先ほどまで中に入っていた男根が握られていた。

「またしよ・・・?」
「はぁはぁはぁ・・・ふぅっ、はぁはぁ・・・す、凄いね君、ホントに高校生?」
「ふふふ、こんな淫乱な高校生・・・嫌い?」

女・・・少女は、右手を優しく男根に添えながら耳元で囁いた。

「嫌いじゃないさ・・・でも、ちょっと疲れたよ、オジサンは・・・」

少女の右手がゆっくりと男根を上下に擦る。

「フフ、ココはまた元気になっちゃった、み・た・い・よ?」
「はぁはぁはぁ・・・やれやれ、こんな可愛らしい女子高生にはもう少しお仕置きが必要かな」
「してぇ」

甘えるシナはとても女子高生には見えないほど官能的で・・・ ・・・。
男根は再び臨戦態勢へとなる。
男が両腕で体を持ち上げて、もう何度目となる濡れた少女のソコに自らのを挿入させた。
Re: 狂喜への贐 ( No.3 )
日時: 2011/11/16 19:10
名前: かおる
参照: http://www.pandora.nu/summer/

ここまでを小説ページにアップしました。
Re: 狂喜への贐 ( No.4 )
日時: 2011/12/26 17:14
名前: 非現実

〜くたびれた街3〜

「それにしても・・・さっきのフロントの奴、嫌な感じでしたねぇ」
「あんなもんだろ、普通に」
「スかね〜ドラマとか結構良質な情報とかくれたりするじゃないっすか」
「ドラマだからだろ、話が進展しないと先に進めないからな」

山手線に揺られながら気怠そうに目黒は言った。
両手で吊革に捕まる五反田ヒデオは納得いかないのか、尚もぶつくさと文句を垂れている。
今回の依頼の対象者こと佐伯タカユキが利用したビジネスホテルでの聞き込み調査は見事に空振りに終わった。
一応場所を変えての逢瀬というのは有り勝ちな話ではある。
不倫相手だった今野マサミいわく佐伯タカユキはそこのビジネスホテルの常連だったらしく、フロントは写真を見せた時点では「ああこの人なら」という表情だった。
だが詳しい話を聞こうとすると、お客様のプライバシーでどうのこうので結局はぐらかされてしまう。
警察機関であればもっと踏み込めるのだが所詮は探偵という一般人、出来る事は限られているのだ。

「明らかにマルタイはあのホテルで出会い系で釣った女の子と会ってましたね」
「まぁな・・マルタイとかこんな所で口にすんな」
「あ、そうでしたね」

叱られた割にはあまり答えていない表情だった。
五反田のヤル気に満ちた態度の初々しさに苦笑しながら目黒は同意する。
助手としての初仕事がこんな難解なものになるとは運の無い奴だな、と少しばかり可哀相にも思えてきた。
今朝、五反田には忠告しておいたのだ。

「これはある程度の事は解っても決して解決は出来ないんだ」

五反田は「ご謙遜を」と言って笑っていたが目黒は確信していた。
探偵はあくまでも情報提供者や対象である人物が確定していないと何も出来ない。
先のビジネスホテルの件もそうだが、探偵という職種には何も拘束力はないからである。
せめて対象者及び関連する人物がいればそこから張り込み等の選択肢が生まれるのだが、今回は対象者は消息不明。
そして関連者であった今野マサミも過去の事例であり、連絡は途絶えているのでまさに全くの0からの状態。
この依頼を受けた時点で目黒は解決を諦めていた。
取りあえずの3日間調査の報酬分、それ以上は期待できない仕事。
完全に警察の仕事である。

「これからどうします?」
「そうだな・・・初心に戻るしかないだろうな」
「と、言いますと?」
「ただひたすら現場を徘徊してるだけ、だ」
「は?」

これからの作業の事を考えると気が重くなるが手段はもう絞られている。
今回初めて助手として五反田を連れているのも、猫の手すら借りたいという理由の1つでもあるのだ。

「風俗紹介所は頭に入ってるか?」
「え・・・あぁ昨日言われた通り勉強しておきましたから大丈夫っす」
「俺とお前とで時計回りに風俗紹介所を回って行くぞ」
「あーーなるほどって・・・マジで?」

五反田が驚くもの無理ない程に明らかな人員不足、かつての眠らない街K町には5つの風俗紹介所が点在している。
それをたった2人でローラー作戦してゆくのだ。

「無理を承知で言ってんだよ、それに駄目元なんだから」
「運良くってレベルじゃないっすよ、そんなの」
「解ってるわっどうせ遭遇なんてしねぇよ、でもそれしか無いんだよ!」

電車内だというのも忘れてつい声を荒げてしまい、目の前に座る老人に咳払いをされてしまった。
だが初心者に言われると物凄く腹立たしい限りだ。
一番面倒くさくて成果のない方法なのだ。

「で、でも変な人に見られませんかねぇ?」
「変人を装えばいいだろ、解ったら口応えすんなっ、あと店の待機は5分な」
「りょ・・・了解ッス」

かなり強引に話を纏めて丁度良い具合に電車はK町の駅に停車した。
寂れた街とは言えどここの駅は様々な線が繋がっているので人の往来は激しく、目黒達は人の波に揉まれながらホームへと降り立った。

「アレッ、逆行くんすか?」
「夜までは少し時間あるだろ、ちょっと時間潰してくるわ」
「まぁたスロットですかぁ、どうせスるのにぃ」
「黙れ、40分後に改札前に集合な」
「はいはい、僕は一度戻ってますね」

背中で五反田の言葉を聞き流して目黒は繁華街と真逆の出入り口へと歩を進める。
(すまんな五反田よ)
改札を出て、巨大ショッピングモールを抜け、着いた先はとある雑居ビルの4階で細々と経営している麻雀店「フリテン」。
相変わらずどういうセンスで名前付けたのかが分からない。
目黒は一度裏手に回り非常階段で4階へと上がり、鉄製の扉を2回足蹴にした。
暫く返事がなく、目黒はもう一度蹴ろうかとした拍子に扉がゆっくりと開いた。

「全く・・・普通に入って来てクダサイヨ」
「普通だろ?」
「ココは関係者以外立ち入り禁止デスヨ」

詫びれる様子もなく目黒はさっさと部屋へと入り、薄汚れたソファーに深々と腰掛けた。
後に続く店主は溜息を付きながら扉を閉めて、向き合うようにパイプ椅子動かしてを座る。

「最近どうだ?」
「最悪ヨ、全然儲からないネ」

フリテンの店主、「李」は再び溜息を付いて言った。

「ソんな事より別の用件がアルんデショ?」
「また、ちょっと噂を聞きたい」

目黒が裏口からこの麻雀店に入るのは決まって裏の情報を仕入れる為であり、普通の客ではない関係だ。

「ちょっとコーヒー入れるネ、待つネ」

李は裏の情報をある組織から仕入れており、寧ろ情報の売り買いで食っているといっても過言ではない。
ヤバい話から有名人のスキャンダルと情報の宝庫なのだが、損得以上に気を使うだろう組織から消されないように情報を上手く商売にしている。
当然組織が有益に傾くようには第一条件であろう。
だが李が目黒には頭が上がらないのは、目黒が警察を辞めるキッカケも李なのだからだ。
そんな闇の世界に通ずるのが裏口入店のフリテンだ。
さすがにまだ真っ当な五反田は連れては来られなかった。

「オマタせたね、ハイ」
「とある依頼を受けてる・・・捜索だ」
「ソうなの」
「男性でな、行方不明なんだよ」
「・・・ソう」

目黒は小出しに説明しつつ、李の反応を見ていた。
頭が上がらないとは言えど李も情報を迂闊には引き出さない。
言ってみれば駆け引きである。
李にとってみれば、この情報を提供して大丈夫かというのは常に頭で考えるのは当然である。

「男性が自由意思も無く消える、というのは随分と妙だと思わんか?。
彼は結構良い所に努めているし、家族間では全く問題も無かった。」
「・・・ ・・・ ・・・」

何気なくだが、目黒は強い意思を込めてゆっくりと言葉を選び発言をした。
頭の良い李は何が言いたかったのかを即時に理解したのだろう。
小さく頷いた李が口を開いた。

「結論ハ・・・無いネ」
「無いか」
「無イかもしくハ、聞いてナイのどちらかネ」
「・・・邪魔したな」

目黒は飲みかけのコーヒーを李に手渡しして立ち上がった。

「モう帰るカ?、今日は随分と早イのネ」
「待ち合わせてんだよ、まぁまた来るわ」
「裏口からカ?」
「普通に打ちに来るよ」
「ソ、久々に目黒サンと打ちたいヨ」

せせら笑いながら目黒はカウンターを跨いで表の店側から出て行った。
外は丁度夕暮れ差し迫るという感じで、ビル群は赤く染まっていた。
今日は穏やかな気候とテレビで言っていたが、さすがにこの時間帯は寒さが身に染みる。
目黒は煙草に火を付けて集合場所へと歩を進めた。
(流石に李に情報が来ないというのは無いだろう・・・)
見事に予想は外れたのは幸いと思う。
どこぞの組織が佐伯タカユキを拉致したとなると、もうお手上げである。
それこそ警察に駆け込むしかない。
人を拉致・解体・輸送するのには大掛かりになるし、表も裏も顔が利く李も何かしら手を貸してるだろう。
李は決して嘘は言わない、情報を提供するかしないかの2択だけだ。
それでああもハッキリと「無い」と口にしたという事は信用できる。
(佐伯は犯罪に巻き込まれた訳では無いと・・・)
だが、これで正真正銘捜査は迷走した訳だ。
(さて・・・どうしたもんかねぇ)
冬の夕暮れは早い。
太陽が傾くにつれ、凍て付くような寒さと闇が同時にやって来た・・・。



暗い・・・暗い・・・
いや暗いという話どころではない。
闇という言葉が相応しいだろう。
この世界はオカシイ・・・
いや自分がオカシイのか?。
オカシイのだろう。
天井も床も解らない程に気が狂っている。
狂喜狂気驚喜・・・果てしなく狂った世界で溺れ続けている。
時間という概念は既に捨てられた。
この世界にはそんなものいらない。
目に映るものは自分に跨る1人の少女のみ。
それだけで十分だ。
他には何もいらない。
行為に溺れ、自分がよく解らなくなるまで果てしなく快楽に酔いしれる。
もう何も解らない。
怖いんだ。
恐ろしいんだ。
男性器がビクンビクンと波打ち、チョロリとごく僅かな精液を出した。

「ンふぅ・・・」

少女は自らの膣で受け止めた精液を指ですくい、小さな舌で舐めとり喉へと流し込んだ。
そして・・・ ・・・ ・・・

再び少女は腰を動かしだす。

どうしてこんな事になったのだろうか?。
狂気の宴は終わりがないのだろうか?。
怖い怖い怖い怖い怖い。
もう嫌なんだ。
もう止めたいんだ。

「元気なくなっちゃった?」

跨る少女は淫らな笑みで問うた。
コクコクと、男は激しく首を縦に振る。

「そんな事ないよ、私の中にいるコは十分元気だよ?」

男は首を横に激しく振る。

「まだまだよぉんもっと頂戴ぃ〜〜濃くてネバッこい精子」

狂気だ狂っている。
夢でも見ているのか、男はゆっくりと瞼を閉じた。
Re: 狂喜への贐 ( No.5 )
日時: 2011/12/26 20:39
名前: 非現実

〜くたびれた街4〜

無駄だったというのは重々承知していた訳であり、得たのは疲労と空腹のみ。
大体、2人でローラー作戦とか言っている時点でどうかしていたのだ。
風俗店が閉まる時間と同時に捜査は終了したのだが完全に足が棒と化していた。

「もうね、何度も聞かれましたよいいかげん耳にタコが出来るくらい」

空腹は満たされた五反田がファミレスのテーブルに突っ伏して言った。
どうやら風俗初心者が何処にしようかとウロウロ彷徨っていると勘違いされたそうだ。
目黒本人は町に顔が知れているので全く声は掛からなかったので、少し五反田には同情する。
こんなにも寒い夜中にサボらずに頑張ったのにも褒めてやりたいところだが、目黒自身がかなりの不機嫌・・・いや焦っていた。
全く持って何も成果がない・・・これでは調書すら書けない。

「明日もコレ、やるんですかねぇ〜出会い系に突撃した方が良いのでは?」
「無駄だろ、出会い系はただ仲介だからな、それに俺達が出張っても追い返されるのがオチだわ」

せめて登録者の名簿さえ手に入れられたら進展するのだが提供するわけないのだ。
出来ることが限られている今の自分が本当に苦々しく思う。
苛々をぶつけるかのように、フォークで鶏のから揚げをブスリと刺した時だった。

「おうぃ久々じゃねぇかい」

後ろながら声で察知した目黒とは対照的に顔を上げた五反田は明らかに表情が強張りだした。
そんな五反田を無視しつつ目黒は会話を進める。

「オヤジ、サボってんのか?」
「馬鹿野郎、トイレ休憩だ」
「年取ると小便が近くなるって言うよな」
「たわけっオイ小僧、ちょっと詰めろ」

小さくなっている五反田が腰をずらすと、初老の田端がドカリと座ってきた。

「あ、あの田端さん?」

田端の後ろに立っていた女性が声を戸惑いながら声を掛けた。

「おぅ、少しだけ休もうや、座れ座れ」
「で、でも・・・お、お仕事は?」
「いいから座れってんだよ、オイ目黒、席ずらしたれ」
「相変わらず強引だなオヤジは」

そう言いながらも目黒は席をずらし、再び口を開いた。

「解ってると思うがオヤジは頑固だからな、諦めた方がいいぜ?」

小さく溜息を付いた女性が遠慮がちに目黒の隣に腰を降ろした。

「そういやコイツ等とは上野は初対面だな」
「一般の方にコイツ等とは・・・」

上野という女性は随分生真面目な性格なのだろう。

「そんなこたぁいいんだよ、でも名前聞けば上野も解るはずだ。
でだ先ずはコッチの黒尽くめが目黒だ、目黒ユウスケな。」
「えっぇ・・・あの目黒刑事っ、ですか!?」
「オヤジぃ、何を言ったんだよ?」
「別に変な事は言ってねぇわ、元ワシの相棒で優秀だった元刑事としかなぁ、ちなみに今は探偵な」

この時点で目黒は自分の印象を修正する事に諦めた。
どうせ「ああだこうだ」と面白おかしく言い触らしたのだろう。
鶏のから揚げを串刺しにしたフォークを揺らしながら自傷気味に言う。

「ま、どえらい無茶して首になったんですけどね」
「そんな、目黒刑事の武勇伝は結構有名ですよ?」
「行動力と腕っぷしは確かに語り草にはなっとるぞ、剣道4段柔術2段はダデじゃないわな。
そんでもってコイツは五反田君だ、五反田・・・えぇとなんつったか?。」

隣で小さくなっている五反田の肩をバンバンと叩きながら、オヤジこと田端刑事は「思いだせねぇ」と付け加えた。
苦笑しながら目黒が茶々を入れた。

「五反田ぁ、暴力振るわれたんだから訴えていいぞ」
「そ、そんな事っ・・・」
「おぅおぅ出来る訳ねぇよなぁ〜なんせあの時見逃してやったんだからなぁ〜五反田ヒデオ君〜」
「見逃した?」

「見逃した」という言葉に上野という女刑事が反応した。

「コイツなハッカーなんだよ、前のヤマでデータを盗もうとしてたところをワシが補導した」
「えぇっ、それ犯罪ですよ、それなのに見逃した・・・のですか!?」
「キーキー喚くなウッサイっ、接触する前だったから完全な犯罪じゃないんだよ、だから説教で許したんだ」
「・・・それでもまた」
「だから大丈夫だ、抜かりねぇように監視役として目黒ん所に住まわせてるんだよ。
住まわせる代わりに無給で目黒の下で働けっていうんが、ワシとの約束・・・だよな!」
「は、ぃぃ・・・」

更に小さくなる五反田が蚊のなく声で肯定する。
凄い迷惑な話だけどな、と言おうとした目黒だったが流石に可哀そうに思い口にするのは止めておいた。

「んでな、この小姑みたいのが今のワシの部下だ」
「上野ユウコと申します、よろしくお願いします」

深々と頭を下げてフルネームを口にした。
目黒は第一印象で思ったことを聞いてみた。

「随分と若そうだが、何年目?」
「3年目です、最初は捜査4課でした」
「え、今は違う・・・っていうかオヤジと一緒なんだろ?」
「ワシも歳でな、お前が警察辞めた後に風俗取締りに移ったんだ」
「マジかよ・・・」

捜査4課の名刑事といえばこの田端であり、それに続くと謳われていたのが目黒だったのだ。
ヤ○ザの世界で田端・目黒と聞けば知らない者はいないくらいに。
それだけに田端が異動してしまった事に酷くショックを受けた。

「言っておくがワシは自分で引いたんだからな、そろそろ若い連中が中心にならんといかんだろ」
「んでその若い上野さんは引っ張って来たのか?」
「ちげーわい、このお嬢ちゃんは駄目だったんだよ」
「・・・本人の目の前で言うなよ」

相変わらずデリカシーの欠片もない言い草に目黒がたしなめる。
顔を真っ赤にしながら上野刑事が途中で口を挟んできた。

「い、いえ先輩、私が使えなかったのが悪いのですから・・・」
「ペーパーの試験は主席クラスだったらしくてなぁ上の方も随分と期待してたみたいだがなぁ。
如何せん血が駄目だったんだよ、見ると直ぐ貧血起こしちまう。」
「あー・・・ ・・・」

内心それは駄目だと目黒も確信したと同時、それでよく刑事になろうと思ったものだと複雑な気分になった。

「さてと、自己紹介も済んだし職質していいか?」
「っぇ!?」
「心配すんな、五反田君にはしないからよぉ〜」
「何で俺だけなんだよ」
「そりゃあ〜こんな時間にブラブラしてるからだろ、探偵が」
「・・・歳なんてもったいない事言ってんなよ」

警察を離れてから数年、オヤジこと田端も耄碌したのかとショックだったが、やはりオヤジはオヤジだったと安堵する。
やはり田端刑事の洞察力は衰えていない。
そして残念なのが新米の上野は解っていないという事だが、そこは面倒なのかあえて無視して田端は話を進めてきた。

「何のヤマ追っかけてんだ?」
「黙秘」
「風俗関係だろ?、そん時は声掛けなかったが風俗案内所ですれ違ったがなぁ」
「・・・ ・・・ちょっと済まない、待ってくれ」
「ぉう、考えろ考えろ」

こちらの仕事は全く進展しそうになく、どんな事でも情報は欲しかった。
そこに元同僚である警察官田端刑事がふと投げかけた言葉、頭の中で田端が言った言葉を一字一句拾ってゆく。
(風俗案内所・・・ドンピシャ過ぎるだろ、それに今のオヤジはそっち方面が対象と・・・?)
そもそも警察なのだから問題ある店に直接行けば済む事なのに、わざわざ風俗案内所などを利用する事に引っ掛かる。
(なるほど、それならこっちも乗るしかないな)
薄々とであるが田端の魂胆が読めてきたと同時に、今回の依頼は事が大きいと感じてきた。
警察も似たようなヤマを抱えているのであろう、田端達の対象者は佐伯タカユキではないが同等の事件が起きていると考えていい。
(複数の被害者・・・とかなると噂ぐらいたってもいいものだが?)
目黒は餌を撒いてみる事にした。

「女を探してる」
「ほぉ・・・どんな?」
「風俗関係者の女だ」
「どっち関係の風俗だ?、年齢は?、見た目は?」

断りもせずに目黒の煙草に手を伸ばして、勝手に火を付けて聞く姿勢となる。

「ちょっ、ちょっと貰い物は拙いですよ・・・」
「いーから上野は黙ってメモってろ」
Re: 狂喜への贐 ( No.6 )
日時: 2011/12/28 19:28
名前: かおる
参照: http://www.pandora.nu/summer/

No4までを小説ページにアップしました。
Re: 狂喜への贐 ( No.7 )
日時: 2012/04/04 00:29
名前: 非現実

〜くたびれた街5〜

上野が鞄から手帳を取り出すのを横目に目黒は再び考え込んだ。
女を探していると偽りの餌に、田端はそこそこの反応でごく当たり前の内容を聞いてきた。
メモを取らせるという事は、マルタイは女なのかもしれないと目黒は思えてきた。
若干の失望感を抱えつつ嘘を上塗りしてやり過ごす事にした。

「年は25〜6、この街でとあるお水の女が消えた」
「名前は?」
「ちょっと言えないな」

短くなった煙草を灰皿で強く揉み消してニヤリと意味深な笑みを浮かべて田端はケチつけてきた。

「それで風俗案内に張り込みか、その女がトラブルか焦げて風呂に飛ばされたと?」
「まぁ・・・そんな所だ」
「依頼主はその女の親かなんかか?」
「言えないが大体解るだろ?」

今度は勝手に鶏のから揚げをクチャクチャと咀嚼しながら言葉をつないだ。

「この街で働く奴等ならお前の顔利くだろう、直に移った店聞けばいいだろうよ」
「デカ辞めた時点で俺は一般人さ、世間は冷たいもんだよ、でだそっちも女関連か?」
「・・・ ・・・上野」

今まで小馬鹿にしたような笑みはスッと消え、ベテランのやり手刑事の表情になった田端は・・・。

「おまいさんは聞かなかったことにしろ、もしくは暫く席を外せ」
「ぇ・・え、え?」

困惑している上野を蚊帳の外に、田端刑事は口を開いた・・・ ・・・ ・・・。



妙に頭が冴えている。
今日は相当調子がいい。
身体も軽いしヤル気も十分だ。
だけど・・・なにの・・・
今日に限って手持ちぶたさなのだ。
軽く舌打ちをして下半身のソレに一瞥くれる。
ソレは天井に向かってそそり立ち、今か今かと結合の瞬間を欲していた。
無意識にビクンビクンと動き、肉柱は透明の液が滴り落ちる。
相変らず手足は動かない。
だが彼の肉棒は絶好調と言わんばかりに蠢く。
何で今日に限ってこんなに調子がいいのだろうか。
今日ならば、何度でも何回でもデキそうなのに。
だが・・・かのお相手は姿を見せない。
隣の部屋からは時折聞こえる艶めかしい淫靡な声。
獣のようにただひたすら交尾を繰り返し、はてるまで終わらない淫獄が繰り広げられているらしい。
彼は思う。
何で今日に限ってアイツとなんだ、と。
今日の私は今までとは違うのに、と。
とにかく、疼く下半身をどうにかしてほしい。
このままでは寝る事も出来ないだろう・・・。
「こっちに来てくれ!!」
そう叫ぶも全くの反応は無く、それどころか隣の部屋は更なる盛り上がりを聞かせてくれる。
弄りたい・・・弄りたい弄りたい。
せめて手が動かせられれば自らの行為で解消できるのに・・・なぜか拘束されていないのに手足は動かない。

「っふっぁっぁっぁああああああ〜〜ぁぁ・・・ぁぁあ・・・ぁぁぁ・・・」

何度目かの女のイッた声が壁越しに聞こえた。
だが、彼女は小悪魔な笑みで彼女をまた犯し続けるのだろう。
かつて私が精根尽き果てた時のように・・・。
羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい。



コーヒーを片手に深々と椅子にもたれ掛っていると、五反田がデスクに腰を下ろして言う。
最初は注意していたのだが、もう慣れっこになっていた。

「結局、警察のマルタイは女でしたね〜」
「最初の食いつきから何となく予想は出来たがな」
「でも、警察何だからそれこそ何で直接店に特攻しないんですかねぇ?」
「そりゃアレだ」

田端は情報を一部公開したのだった。
当然、上野という女刑事は仰天したがお構いなしだった。

「ホスト狂いのキャバ嬢が行方不明じゃあ、キャバ店に聞いても何も出てこんだろ」
「そうなんスか?」
「あくまで個人的に遊んでるだけだからな、店側が知る由もないわ」
「・・・何か上手くいかないっすねぇ・・・」

餌を撒いて展開を期待したが見事空振りに終わったわけである。
大凡、田端達が追っているヤマとは無関係だと目黒のみならず五反田も感じているようだった。
だが、ここで目黒には1つの違和感を感じていた。
このK町の風俗関連という共通点で、男女2人の行方が分からなくなっているにも拘らず、裏で噂になっていない事に。
追っかけている佐伯タカユキは大手に努めるという程度だが、田端が提供したキャバ嬢はその店NO1の娘だ。
それなりにどこぞの店に移っただの、売りを始めただのという噂があってもよさそうなものだ。
寂れくたびれた街と変わっても性の対象はソコソコ敏感なものな筈なのに・・・。
(もう一度、その件で李のトコに行ってみるか)
依頼とは別に、興味が沸いてきた目黒だった。
Re: 狂喜への贐 ( No.8 )
日時: 2012/04/07 09:32
名前: かおる
参照: http://www.pandora.nu/summer/

ここまでを小説ページにアップしました。
Re: 狂喜への贐 ( No.9 )
日時: 2012/06/09 16:53
名前: 非現実

〜くたびれた街6〜

依頼を受けて二日目の朝は未明から降り出した雨が続いていた。
先が見えず一向に進展しない捜査は雨も手伝って目黒達の足を鈍らせる。
雨を避けて地下通路や店舗を通り抜けたのだが、麻雀店「フリテン」の手前数十メートルで散々に雨に打たれてしまった。
適当に手で雨を払ってから正面の入り口のドアを開けた。

「おぅ、来たぞ」
「おー目黒サン、今日はお客サンで来たネって、ずぶ濡れじゃないカ」
「タオルとコーヒーな」
「・・・その図太い神経ヲ見習いたいネ」

ずぶ濡れのまま李が帰ってくる間、ざっと周囲を見回す。
雨のせいかそれとも元々閑古鳥なのか卓は3つ程度しか埋まっておらず全体的に寂しい店内である。
そして誰とも目黒とは視線を合わせようとしないのはいつも通りだ。
客として入ると他の客が警戒し、裏口から入ると李が警戒するという完全に招かざる客が目黒なのだった。

「ハイよ、熱いヨ」

そう言いながらも李はタオルと熱々のコーヒーを出してきた。
目黒は髪を適当に拭った後フードの様にタオルを被り直して、まだ口には出来そうにないカップを両手で掴み暖まる。

「今日ハ一日中雨よ、ナゼ傘持ってこなかったネ?」
「だから今日も客はまばらなのか?」
「それハ置いといて欲しいネ・・・デ、今日ハお客サンとして来たデショ、アソコ座っテ待ち卓するが良いヨ」
「卓でいい、お前も座って、な」

小さく李のみに聞こえる程度に囁き、顎で空いてる卓を指す目黒。
わざと深い溜息を付いて見せて仕方なしと一番遠い卓に座る。
カップを手に対面に座した目黒は自動卓のスイッチを押しながら、まるで小声で世間話をするように語りだす。

「最近遊んでるか?」
「ハ、え、何ソノ唐突なノ」
「だから・・・ゲイバー行ってるかって事」

自分用に用意したコーヒーを吹きこぼして李は慌てたように訂正を求める。

「待て待っテ、えぇとナニカ、私は男好きジャナイヨ、何イキナリ言いだすのヨ」
「キャバが良いか、それもとびっきりのNO1の娘・・・?」
「・・・!?」

一瞬真顔になった李。
頭の良い奴だからこそ吊られた事に気付いたのだろう。
そして目黒はピンと来てからこそ次の言葉を口にした。

「知ってる、な?」
「ズルいネ目黒サン・・・」
「しらばっくれる訳だったか?」
「・・・ ・・・チョット」

カウンターを指差して李は立ち上がり、なるほどと目黒はほくそ笑み後に続いた。
雨の最中来てわざわざよかった。
カウンター奥の小部屋にあるいつもの特等席ボロソファーに座り直してから話を戻した。

「ヤバい情報だったか?」
「あそこの店ハ、うちが懇意にシテる系列店ナノよ」
「つまりお前等がこの件に噛んでる訳じゃないと」

「失礼ネ」と言ってから李が煙草に火を付けた。
じっくりと煙を肺に送り込んでから上を向いてゆるりと吐き出す。
一見何気ない趣味の仕草であるが李が考えているのは明白だった。
こんな李を見たのは久々だ。

「色々と探ってるらしケド見つからないッテ」
「どこら辺を探ってる?」
「言わナくテても解るデショ」

つまりそういう事か、と目黒は頭で思考を巡らせる。
そして手帳を取り出して次の質問を口にした。

「名前と店は?」





ガチャリと重い扉が開き、カツカツと靴音を立ててシルクハットの男が近寄った。
それに気付いた3人の男は行為の最中ながらも深々と頭を下げてみせる。
だがベッドで一糸纏わぬ身体で弄りマワされた女は行為に没頭し続け、もはや誰が来たとかは関係ないという様子。
と言うよりか、既に瞳に常識的な光が宿ってすらいなかった。

「ぅぁあああ・・・んぅあはぁぁぁンンンンッ、っぅおおっぷぁ!」

鼻に掛かった甘い声が実に被虐心をそそられる。
その声の主はオ○ンコに、尻穴に、口内に・・・いきり立った肉の棒を一心不乱に求め続けていた。

「凄いな、もう尻にも咥えているのか」
「へへっ、それがこの女も相当の好きモンでして結構呆気なかったッスわ」
「清純派を売りにしていたのだがね」
「所詮そんなモンですよ、テメーを偽ってでも金を吸い出すだけの、その証拠に・・・ホレッ!!」

尻穴を犯していた男が言いながら尻を平手打ちして見せる。

「ぅんっぁぷっぁンゥゥ!」

何かの合図なのだろう、三穴を犯されている女の腰の動きが大きくなった。

「ね、もう完璧っしょ?」
「流石は仕事が早いな、感心感心」
「あと1日2日ぶっ通しにヤッたら完成って感じですね」
「フフ・・・こいつは繁盛しそうだな」

シルクハットの男が女の艶やかな髪を鷲掴みにして顔を覗き込んだ。
まるでパックを塗りたくった様な精液塗れの酷い顔面の女は肉棒を咥えたまま虚ろな瞳であった。

「良い表情をしている・・・このまま落せ、今回は早いしボーナス出すぞ」
「ありがとうございますっ!」
「いぇーいやったぜぇ」
「それにしても美味しい仕事だぜっ、コレは!」

踵を返したシルクハットの男の背中で歓喜する男達・・・。





「凄いっすね、徹底してますよコレ」

画面を見て感嘆の言葉を漏らすのは五反田。
麻雀店から帰って即、五反田にPCで調べさせた目黒にとってはイマイチその凄さが解らなかった。
機械音痴でネットやら全く理解不能だったという事に関して言えば、五反田と言う今時の居候を助手として雇ったのは大助かりである。

「本人が消したという線は無いのか?」
「いあ〜〜・・・本人は続ける気満々のカキコしてるからあんまりその線は無さそうっすね」
「ふむぅ・・・カキコなぁ・・・ ・・・」

大崎本人以外が意図的に消したというのは理解出来た。

「ここのツ○ッターで、ポテチ取ってくるってカキコしてるでしょ?」
「別に呟かなくても取ってくりゃいいじゃねーかよ」
「それ言ったら・・・ねぇ・・・」

本名 大崎ミナコ・源氏名 サクラ・在籍1年2か月・本年齢25歳、店内の年齢は22歳
店名はオッドアイという老舗中の老舗で、結構有名処のキャバクラ店であるのだが半年程度でNO1に上り詰めたそうだ。
22歳で群馬から上京したらしくそれまでの経歴は不明。
働きぶりは良好で遅刻無断欠勤などは一切なく、他の娘とも関係は良好だったらしい。
性格はおっとりとしていて金にはそこまで執着心は無かったそうで、自分から働きたいと履歴書を出してきたとの事。
・・・これらが李から得た情報だった。
その大崎ミナコはブログもやっていたらしいのだがそのブログも、その他色々な書き込みを残したネット媒体が全て消されている訳だ。
まるで存在を一切合財消したかのような・・・。

「ここまで全部消すケースってのは身元バレとかが多いけど、この娘は情報誌にも顔載せてたみたいだし・・・。
ブログでもツ○ッターでも普通にキャバの事書いてますから〜〜ね、ね、これは臭いますねっ!。
どっかに引き抜かれ来てみたらこりゃお風呂だったって感じですかねぇ〜。」

適当に相槌を打っておいて目黒は全く別の事を考えていた。
李が言っていた「言わナくテても解るデショ」という返事と、それを理解出来る者にしか思い付かない闇の世界の裏事情。
依頼元の佐伯タカユキは大手の役職持ちであった・・・ ・・・小遣いの方も普通のサラリーマンより大分多かった。
(ヤバい所に入り浸って抜け出せなくなったか?)
店側(?)としたら大金を払えるような上客なら消さずに借金を作らせまくって、その後で泳がすのが普通だろう。
(抜け出せなくなったとしたら・・・?。)
思考の片隅に嫌な展開が浮かびあがり、目黒は苦笑いしながら言葉で打ち消す。

「そりゃ・・・依頼達成出来る訳ないわ、な」
「は、え?」

五反田の言葉を背中で聞き流して目黒は煙草に火を付けた。
最早、警察の仕事だろうと心の中で付け加えながら・・・ ・・・。
Re: 狂喜への贐 ( No.10 )
日時: 2012/06/10 18:41
名前: かおる
参照: http://www.pandora.nu/summer/

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