アイノカタチ
白楽天:作

■ 1章「始まり」4

甘美なそれは、麻薬のように染み渡りうっとりさせる


「……はい。すみません」
恥ずかしさのせいなのか、体中にわたった快感の火のせいなのか佳奈は身体を小さく震わせながら小さく頷いてうつむく。
リツコは蚊の鳴くような声しか聞こえないものの頷いたことを肯定と見ると佳奈の着ていた制服のブラウスに手をかけた。
「いい子ね。手を上げて頂戴。」
やさしく子をあやす様にしながらも手際よくボタンをはずしていく。
「え……あ、は、はい」
佳奈は自分が感じてしまっていることを隠そうと眼をずっと瞑り、別のことに意識を傾けようとしていたが、それもリツコの声でさえぎられる。
佳奈を襲う狂おしいほどのもどかしさ。そして徐々に激しさを増す官能の炎。
(ああ……はずかしい……)
(触られるとゾクゾクする……)
(わたし……触ってほしいの?)
(そんなはずかしいこと……)
(でも……)
(ダメ……! リツコさんに変な目で見られちゃう……ここでも働けなくなっちゃうよ……)
リツコは佳奈の身体を愛撫するように、艶やかに指でなぞりながらブラウスを脱がしてく。
指が脇や胸のそばを掠めるたびに上気した顔が少し上を向き、口からはため息がこぼれる。
「さ、次はスカートね。横になって。少し腰を浮かすわね?」
佳奈がもう戻れないほどの快感に攫われている間にも、リツコはすばやく腰の下に手を回しファスナーに手をかけ、ブラウス同様に軽いタッチの愛撫を加えながらスカートを脱がしていく。
(あふっ……ダメ……声が出ちゃう……)
佳奈は右手を口にもっていくと声を殺そうと指をくわえ、もう一方の手はシーツを指先が白くなるまで握り締めている。
(そろそろいいかな? ごめんね佳奈ちゃん。トドメよ)
佳奈の、その健気なくらいに体中真っ赤にして快感に耐え隠そうとしている様子を見てリツコは面白おかしくなる。なにしろ性交経験がある人間、ましてやリツコからすれば一目瞭然なのだ。
そんな女ほど羞恥心を煽るのは余計におもしろい。
「あら? 佳奈ちゃん、感じちゃったの? ここ染みちゃってるわよ」
佳奈にとってはまさにトドメの一言だった。
リツコは佳奈の秘部を指差しながら驚いたように、だが同時に親しみをもった口調で話しかける。
「い、いや……そんな……ごめんなさい」
佳奈はぽろぽろと涙を流しながら身体を隠すように抱きしめる。
リツコに感じていることを知られてしまい、とてつもない羞恥心が佳奈を襲う。
だが、その一方でリツコの一言がとてつもなく気持ちの良いものにも思えた。
“感じている”と事実を言われたことで、佳奈は秘部をさらに湿らす。
(なんで……恥ずかしいのに……でも……)
(……もっと……リツコさんに触ってもらいたい)
リツコは、佳奈が葛藤の最中にいることに気づき、心のうちでは新たな愛奴の発見に気分をよくした。
(やっぱり。このコなかなか有望なマゾだわ)
「いいのよ、佳奈ちゃん。女の人は身体を触られると気持ちよくなるのよ。もちろん私もね? 佳奈ちゃんは特に人に触られたり見られたりするのに敏感なのよ」
リツコは優しく声をかけながら佳奈の隣に腰掛け抱きしめながら自分の方を向かせた。
さりげなく隠喩的に佳奈にマゾであることを教えることが後に良く役立つことをリツコや章介は知っている。
もう準備は万全だった。
後は完全に落とすだけ。
もう戻れないように章介のものにすればいいだけだ。
「ほら、ここをこうすると気持ちいいでしょ?」
リツコはブラジャーの上から佳奈の右胸を優しく撫でると、ゆっくりと円を描くように揉み始めた。
「大丈夫よ。力を抜いて。私に身体を預けなさい。」
「そうそう。すぐにもっと気持ちよく慣れるわ……」
リツコは佳奈の耳元で優しくささやくように続けながら両方の胸を愛撫していく。その間佳奈にできることといえば、力の入らぬ手をただリツコの腕に添えることであった。
「あ、んん……はあ……」
身体をこちらにも垂れかけ、佳奈は悩ましげな声を出している。
俯いて額をリツコの肩に当てるようにして顔を隠しているのでどんな表情かは直接は見えない。
快感によって頭の端まで追いやられた羞恥心の“最期”の抵抗なのだろう。
「こっちはどう?」
リツコは右手を胸から離すとショーツの上から佳奈の秘部を撫で指を往復させた。
佳奈はリツコの指が通るたびに必死に抵抗しようとリツコの腕を掴むがやはり無駄だった。
リツコは巧みに指を動かし佳奈の快感を助長し、どんどん引き連れ込んでいく。
「あん……リツコさ、ん……お願い……」
(ああ、ダメ……頭の中が真っ白になってく)
(リツコさんの指が触るとまるで電気が流れてくるみたいに……)
(わたし、おかしくなっちゃう……)
「お願い? あら、ごめんなさい。いきなりだものね。そうね、やめましょう」
「……え?」
リツコはすっと立ち上がると部屋のクローゼットから赤いブラとショーツを取り出すと佳奈に渡した。
「ふざけすぎちゃったかな? 濡れた下着つけてたら風邪引いちゃうから着替えなさい。……私は章ちゃんのところに行ってくるわ。彼もあなたのこと心配してたし。その間に着替えておいてね」
佳奈はリツコが微笑みながら軽く手を振って部屋を出て行くまでの全ての様子をただ黙って見ていることしかできなかった。
まだ性交の経験がない佳奈にはリツコの愛撫は強烈過ぎた。
まるで麻薬かアルコールを摂ったような、刺激的で甘美な感覚に、脳はまだ付いていけずボーっとしている佳奈。
また思い出したように動き出すと、誰も入ってこないことを祈りながらノロノロと下着を着替え、パジャマを着ていった。

「ふう……」
パジャマを着替えるとストンとベッドに腰を下ろす。
リツコは部屋を出てしまった。
さっきまでの熱い愛撫が嘘であったように思えるが、身体はまだ覚めやらず全身が火照り燻っている。
(もっと触って欲しかったのに……)
(リツコさん、もっと気持ちよくなるって言ってたっけ……)
(私は人に触られたりするのに敏感だって言ってたけど……変じゃないよね……?)
「誰も……来ないよね……?」
佳奈はそっと自分の胸に手を這わしていく。
ゆっくり、そしてまたゆっくりと進み、ボタンを2つほどはずすとパジャマの中に手を入れブラの上から触れる。
「は、ん……」
胸に触れるとリツコのときほどではないが電気が流れるような強い刺激がある。
「リツコさん……もっと……」
佳奈はリツコに愛撫されたときのことを思い出しながら左手を下へと伸ばしていった。

突然、コンコン、とドアをノックする音とともに向こうから章介の声が聞こえた。
「佳奈ちゃん、入るよ」
佳奈は慌てて肌蹴ていたパジャマを手繰り寄せて胸を隠しベッドにもぐりこむ。
「は、はい。どうぞ」
佳奈が応えるとすぐに章介が入ってきた。後ろにリツコもいる。
佳奈はリツコが章介に先ほどのことを話していないか不安だった。
章介たちが近づいてくる。
ベッドサイドに二人が立つと少しの沈黙が流れ、やがて最初に口を開いたのは章介だった。
「リツコさんから聞いたよ。」

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