雨宿り
横尾茂明:作
■ 驟雨3
「………………」
「あっ! 淑ちゃん…淑ちゃんだよね…」
「こんなに大きくなって、これじゃ分かんないヨー」
「それにこんなに綺麗になって…」
「あれからどうしてたの?、俺…何日も探したよ、約束…約束してたのに」
「ごめんなさい…あの後…母が坊ちゃんにはもう会ってはいけないって言われ…」
「何故? …どうして会っちゃいけないんだ?」
「……坊ちゃんのお母様があの夜…扉の向こうで聞いていらしゃったの…」
「次の日…私の家にいらして私の母をすごく叱ったの…あんなふしだらな娘を息子に近づけないで! って言われ…」
「あの事…母に知られてたのか…」
「ごめん…俺が悪いのに…」
(母は何も言わなかったが…)
「俺…そんなこと知らないから淑子ちゃんのこと毎日待ってたんだ…」
「君のお母さんもあの日を境に家に来なくなり…俺には何が何だか…」
「母に何度も淑ちゃんの家が何処なのか聞いたが…怒ったように知らないと言うだけだった…」
「あー淑ちゃん…やっと逢えた…家はこんなに近くだったんだね…」
女は瞬きもせず一郎を見つめる…まるで奇跡の人を見るように…。
女の目から涙が溢れた…一郎も女の顔を見つめる…。
路地を濡れ鼠のように走ってきた学生が格好の軒先を見つけ飛び込もうとするが…二人の雰囲気に一瞬立ち止まり…舌打ちして駆けていった。
先に女が我に返った…
「あっ! こんなに濡れてしまって…」
「坊ちゃん風邪をひいてしまいます、どうか…どうか中に入ってくださいまし」
「……………………」
一郎は女の後について格子戸を潜った。
「坊ちゃん、お洋服を脱いで下さいまし…アイロンを当てて乾かしますから」
「いいよ…家の人の留守中に上がり込んで洋服を脱ぐなんて…とんでもない!」
「坊ちゃん…父も母も昨日から山梨の親戚の方に行っていますの、叔父が結核で亡くなりまして…私3日間ぐらいお留守番なんです」
「だからお洋服くらい脱いでも…」
「そう…んん…じゃぁ甘えようかな…」
「それと…おズボンもこんなに濡れてしまって…それも脱いで下さいまし。」
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