淫辱通学
木暮香瑠:作

■ 広がる淫辱の輪4

 有紗は言葉を失い、ポカンと開いた口を両手で覆った。
(ああっ、うっ、うそ……。どうしてこのビデオが……)
 画面に映し出されている少女は、雄一に嬲られている有紗自身だった。
「このビデオに出演してるのは、君に間違いないね」
 世間に洩れてはいけないビデオを突然見せられ、有紗の頭の中は真っ白になった。ビデオから流れてくる自分の喘ぎ声が、頭の中を占領してしまい何も考えられない。有紗は理事長の問いに、思わずコクリと肯いてしまった。
「この名門校である聖愛学園始まって以来の不祥事だよ」
 混乱し虚ろな瞳を画面に投げ掛ける有紗に、嵯峨は眼鏡の奥の目を光らせた。

「ご両親にもお出で頂いて、君の処遇を決めなくてはならんね。強制退学か、それとも自主退学か……。どちらにしても退学は免れないがね」
 嵯峨は、事務的に言い放った。
(退学……? 両親にもこのビデオ……、見せなくちゃいけないの?)
 有紗の脳裏に、両親の驚き落胆する悲しそうな表情が思い浮かぶ。
「ち、違うんです……。バイトじゃあ……ないんです……」
 有紗は視線を床に落とし、小さな声で独り言のように呟いた。

「まだ、バイトじゃないと言い張るのかね。それじゃあ、証人にお出で頂こう」
 理事長室の一角に設けられた衝立で仕切られた接客スペースから、大きな影が現れる。有紗の表情に、一瞬にして脅えの色が浮かんだ。現れたのは、権堂雄一だった。

「権堂さん。このビデオに出演しているのは、高木有紗君で間違いないね? アルバイトでビデオに出てるのは……」
 嵯峨が、雄一に確認する。有紗には、成り行きを見守ることしかできない。
「間違いありませんぜ。有紗ですよ、ビデオに出てるのは……」
 雄一が、嵯峨の質問に答える。
(何もかも終わりだわ……。両親の温かい家庭も、それを守りたくて、いままでわたしが我慢していたことも……)
 有紗は、絶望に打ちひしがれていた。視線を床に落とし、自分の爪先をじっと見詰めていた。
「でも、バイトじゃあ、ありませんぜ」
 雄一が、言葉を続けた。その言葉に有紗は、えっ?! と驚きの眼差しを向けた。自分をとことん陥れるものと思っていた雄一の、有紗をかばうような台詞が信じられなかったのだ。

「バイトじゃない? それはどういうことかね?」
 嵯峨は、落ち着いた表情で雄一に問いただした。雄一には、有紗をかばう気持ちなど無かった。雄一は、有紗が驚かずにはいられない台詞を吐いた。
「このビデオで、有紗は一銭も儲けちゃいません。すべて、有紗が趣味で、自分の淫乱な欲望を満たす為にやってるだけでさあ」
(違う、違うわ……。酷い……。無理やり犯しておいて、わたしが淫乱だなんて……)
 有紗は、理事長に向けた顔を弱々しく横に振る。何か喋ったら、雄一が根も葉もないことを言って退学に追い込むだろう。そうなれば、何もかも終わりだ。そんな考えが、有紗を無口にしていた。

 有紗が何も言えないのをいい事に、雄一が話を続ける。
「だから、校則違反をしてるわけじゃありませんぜ。退学にするのはお門違いですぜ」
 自分を弁護しているのか、有紗には雄一の真意が計りかねた。ただ、退学になるのを免れること、これ以上ビデオが他人に見られないことを願うばかりだった。

「しかし、こんな淫らなビデオが世間にばれちゃ、我聖愛の名誉に関わる……」
 嵯峨は、有紗を睨みつけ威厳のこもった声で言い放った。
「それよか、こんな生徒が聖愛に居たってことがばれちゃまずいんじゃないですか? 退学にしたら理由を公表しなくちゃいけませんぜ」
 雄一の言葉に、嵯峨が苦々しい表情になる。
「むうう……、それは困る」
 困った表情を装った嵯峨が、雄一に目配せをする。

「どんな娘でも、慈悲を持って教育するのが聖愛のモットーではなかったですか?」
 雄一は、白々しくもっともらしい事を言う。
「そ、それはそうだが……」
「淫乱な有紗を教育してやってください」
 有紗を無視して、嵯峨と権堂二人の会話が進む。

「うちの教員たちが、こんな娘を教育できると思ってるのか? 教員達がこんなビデオを見たら、教員達がこんな淫乱な生徒だと知ったら、退学にすることを主張するのは明白だ」
 嵯峨に台詞に有紗の表情がこわばり、顔を横に揺る。
「いやっ、先生達には見せないで……。見られたら……」
 授業の時、いつも顔を合わす先生達にあのビデオを見られるのは死ぬほど恥かしい。先生達の軽蔑する顔が、有紗の脳裏を横切る。退学になるのも、軽蔑の視線の中、授業を受けるのも有紗には耐えられないものだった。

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