アルバイトリンド
一月二十日:作

■ 8

「さてさてそこのお二人? ベッドに来るのよ!」

ミミの厳しい声がした。

「ほら、蒸し男! いつまでもケツの穴向けてるんじゃないの!」
「何!」
「あ、お金返してもらおうか? それ以上にあんたのお楽しみもここで終わりだよ?」

ミミはからかうように言う。
悔しいがそれは嫌だ。
僕の股間は今し方先生の柔らかい腹に先を擦り付けてしまった。そしてより大きくなってしまっている。

「さ、ベッドに寝なさい! 蒸し鶏も太った舌も!」

「先生…」

僕は先生を目で促した。
普段着のミミ前を裸の男女が横切った。

「さて、リンちゃん? これがシナリオよ。」

そう言ってミミは僕に一枚の紙切れを渡した。

「ここにあるセリフを先生と一緒に言いなさい。」
「え?」

そこには何やら男女のセリフが書かれている様だ。
一番上に「シェフ」と書いてある。

「これが私の新しい作品よ。」

ミミは冷たく笑っている。

「ミミちゃんひとつ聞いていい?」
仰向けになった僕の隣から先生の声がした。
先生は猿轡を外された。
先生も僕の隣で仰向けに寝ている。諦めたかの様にどこも隠さず、ただ仰向けに横たわっている。
「なぁに? 先生。」
見下す様にミミが言う。
「なぜ私にこんなことをするの?」
ミミは篭った声で
「私を裏切ったからよ。」
と言った。
「ちょっと待って、私は裏切ってなんかいないわ。」
「男買ったじゃん。男が怖いなんて言いながらさぁ。」
「何よそれ。」
「うるさいなぁ。自分の胸に聞きな!」
一体なんのことか分からないが、ミミと八木先生は裏切るだの裏切らないだのって、そんな深い関係なのか?
「さぁ先生、いいえ太った白い舌! その男を舐めるのよ。好きでしょ? 若い男。」
僕はそっと隣を見た。
そこにはいつもの八木先生の横顔があったけど、その下は生々しい女性のパーツが剥き出しになっている。
一呼吸あって、先生の顔が覆い被さって来た。
「味わう前に自分で調理しなさい。本を読むのはそれからね。」
先生の顔の後ろから、ミミの冷たい声がした。
先生は意を決した様に、僕の唇に唇を当てて来た。
とても柔らかい。まるで霜降り肉の様だ。
そして僕の耳から首筋、乳首、お腹、臍の中、そしてその下に舌を這わせる。なんとなく荒っぽい動きだったのと、まだそれが先生だと信じられない緊張で、僕は何も感じられなかったけど、だんだん先生を意識していくうちに、あそこが硬くなってきた。
そこをすかさず咥えられた。でも痛かった。先生は慣れていない。咥えると言うより噛まれた感じだ。
(う、痛た!)
僕は声に出す代わりに、そっと先生の両肩に手をやって、先生を押し戻した。そして
「もっと軽く咥えて。」
そう小声で囁いた。
ふと先生と目が合った。
あの大きな瞳だった。
僕の男性器から離れた口許には、先生の涎が流れていた。

突然ミミの声がなにやら朗読を始めた。

「『決して噛まないでくださいね。噛みたくてたまらなくなると思いますけど…これは食べ物って言ったら可哀想な物体ですから…むしろ私は【舐めもの】と呼んでやります。』と、シェフは予め卓上に置かれた皿の上に、自分の『舐めもの』を載せました。それには純白のナプキンが掛かっています。『舐めものの旬は一瞬なんです…』ナプキンに指を伸ばしながらシェフは言います。」

僕と先生はそんなミミの声を無視して見つめ合っていた。
あの教室での再会の約束がこんな形になるとは。
先生もそう思っているだろう。
今僕らは何も纏っていない。
何かのいたずらで、この前のあの場面から一気に裸にされてここに放り込まれている。
そして背後ではミミの支配的な声がしている。

「先生…」
僕は呟く。
「好きです。」

先生の目がまた驚いた様に輝いた。

「僕という男を味わってください。」

「さぁ、さっさと始めなさいよ!」
ミミの苛ついた声がした。
しかし僕はもう動じない。
はっきり言って僕は恥ずかしい格好はしているが、堂々とミミを睨み返して言った。
「あぁ、そのアルバイト受けてやる。だけどちょっと待ってくれ。ミミにとっては面白くない訳があってこうしたんだろうけど、僕にとってはこれは確かに願ってもない告白の機会なんだ。この話が済むまで待ってくれ。」
「あららら?蒸し男のあがきね。いいわ、その太った舌とチョメチョメしたらいいわ。」
「あぁ、礼を言うよ。」
僕は先生の方へ向き直った。
「いいじゃないですか。いたぶられながら会話するのも。」
「…土林君…」
先生は泣きそうな顔になって僕の身体にくっついて来た。温かい。そして先生はこんなに柔らかい。
「先生…」
「何?」
先生は僕の胸に顔を埋めている。
「僕は先生の身体のいろんな所を数字で表してたんです。」
「数字?」
僕の視界には先生の髪しか見えない。
その髪をゆっくり撫でた。
「えぇ、先生を触ることは決して出来ないと思っていたから、数字で考えて、その幅だけ、指を広げたりして、触った感触を想像していた。」
「…まぁ…」
「いいですか?」
「え?」
僕は髪を撫でていた手を、密着の谷間に滑らせて行った。そこには柔らかい突起がぺったり引っ付いていた。
そこをそっと摘まんだ。
「あ…」
先生の小さな喘ぎ声がした。

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