新・青い目覚め
横尾茂明:作

■ プロローグ2

 少女の行為は娘への想いを汚された気がして年甲斐もなく躍起になって追い・・いざ捕まえてみると自分の娘を捕まえたような妙な感覚に陥り・・少女の泣き声を聞いてオロオロしてしまったのだ。

 孝夫は少女の泣き声が従業員に聞かれはしないかとオロオロしながらドアの前まで行った・・
(俺は何やってんだろう・・)
 万引犯を自分の娘と一瞬でも同一視したことに少し腹が立った。
(きょうのところは許してやろう・・服装から見て真面目そうな子だし・・)
(従業員に見つかったら警察の補導員を呼ばなくちゃいけないから早く引き取って貰うか)

「お嬢さん・・もう帰っていいから泣くのはやめなさい」
「さっ涙を拭いて」「もう二度とこんなことしちゃダメだよ」

 孝夫は背後から少女の肩を抱きゆっくり起こした、そしてハンカチで涙を拭いてやろうと手を差し出したとき・・ズキと胸が痛んだ・・美しい涙目の少女の横顔に強烈な色気を感じたからだった。真っ白く透き通るような肌・・頬から唇に至る気品に満ちたライン・・愛らしいえくぼ・・匂い立つ柔らかくて長い髪・・こんなに美しい少女だったのか。

 こんな少女が何故・・孝夫は訝しい思いで少女が万引きした本を表にかえし表紙を見て愕然とした・・【月刊SM】

 孝夫はもう一度少女の横顔を凝視しその容姿と行為のギャップに困惑し唖然としてしまった・・。

(それにしても美しい少女・・こんな子がSMとは・・いやはや)
 孝夫は何故かこの少女に興味が湧いた・・真面目そうな子だから許そうとの思いはもはや消え、少女がこの行為に及んだ心理が知りたくなった・・そこには10年以上の禁欲生活が誘う不謹慎な性への渇望が無かったとは言えなくもないが・・。

「お嬢さんこんな本盗んでどうするの・・おじさんは参考書程度と思ったから許して上げようと思ったのに・・こんな本を万引きするような子は許せないな! 今から警察の人を呼ぶから家の人に電話しなさい!」
 孝夫は携帯電話をポケットから出し少女の手に握らせた。

 少女は警察と言う言葉を聞いて顔色を失った・・そして哀願するような目で
「堪忍して下さい・・警察を呼ぶのだけは堪忍して下さい」
 少女は孝夫をこの時初めて正面から見、嗚咽を洩らしながら縋るような顔で大粒の涙を零した。

 孝夫は警察を呼ぶ気など毛頭無かった・・ただ少女の反応が見たかった・・そして・・。

「じゃぁ家の人を呼んで、さっ電話しなさい!」

「・・・・・・」

「自分で電話出来ないならおじさんがするから番号を言いなさい!」
 孝夫は少女から電話を取り、少し大きな声で恫喝した。

 少女は震えながら孝夫の手を握った・・
「おじさん堪忍して下さい・・もう絶対しませんからお母さんにだけは・・・」

「だったらお父さんの会社は何処! お父さんに来て貰うから」

「・・・・・・」「お父さんは居ません・・亡くなりました・・ウッウッ」

 孝夫はさらに追い打ちをかけた。
「警察も両親も呼ぶなと言われてハイそうですかで君は許して貰えると思ってるの? 自分のしたことがどんなことか分かってるの? 高校生がこんな本万引きして・・恥ずかしいと思わないのか!」

「さーどうするの?」

「・・・・・・」

「お・・おじさんの言うこと何でもしますから・・堪忍・・堪忍して下さい」
 少女は・・思い詰めた涙目で孝夫を見上げた。

「・・・・・・」

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