ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第1章 目覚め7

 ― 接着剤タック


「おい、竜之介。 まだ終わんないのか?!」

 金曜日の夜、デジタルシステムワークスの開発室で竜之介は残業していた。

「ええ、、、もう少しでキリのいいところなんで、、、 うっくっ、、、」

 上司の橋本チーフがいつものようにプロレス技で背後から首をはがい絞めにしながら竜之介に声をかけた。

「そんなの来週にして、久しぶりに一杯、行こーぜっ」

「うっく、、、 えっ、、、いやあ、今夜はちょっと、、、 うっ! ケホッ、ケホッ、、、」

 喉に食い込む橋本の腕の力がようやく弛んだ。

「なんだよ。 最近付き合いが悪ぃ〜なあ。 おまえ、総務の明菜ちゃんとは別れたんだろう?! もう新しい女でも出来たんじゃねえのか、こんにゃろっ!?」

「いっ、いえ。 そんなんじゃないですよ、チーフ。 今日はちょっと茅ケ崎の実家に寄らなきゃいけないんで、、、」

「え〜〜っ?! まあ、いいや。 そういうことしておいてやるわ。 じゃ、先に帰るぞ。 素敵な終末を」

「あっ、ホントですってばあ〜」

 橋本は竜之介の言い訳を信じていない様子で意味ありげにウィンクを残し、手を振りながらオフィスを出て行った。

「お疲れ様でした〜、、、」

――ばれてないよね?!

 確かに実家に帰るというのはウソだったが、竜之介が案じたのはそんなことではなかった。

   ◆

 橋本は竜之介の直属の上司で、入社以来、竜之介をなにかと弟分のように可愛がってくれていた。

 何かといえば大学のプロレス研仕込みの手荒なプロレス技を仕掛けてくるのには閉口するのだが、竜之介が信頼する先輩だ。

 しかし夏季休暇を終えてから、仕事場へも毎日のように股間をタックで形成し、女性用下着をつけて通勤するようになっている竜之介は、橋本に抱きつかれるたびにばれないか?! とドキドキしてしまう。

 出来るだけ上着に響かないようなノンワイヤーの薄い生地のものを選んでいるが、ブラジャーを着けているなんてばれたらと思うと恐ろしくて仕方がない。 しかしそのドキドキがたまらなく魅惑的なのだ。

 仕事に集中している時は忘れているが、ふとした時に可愛いランジェリーを身に付けていることを自覚すると、恥ずかしくて、そして幸せな気分に包まれる。

 そうなったきっかけは、接着剤タックの試すために通販で買った皮膚用接着剤を購入してからだ。

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