ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第2章 新しいボク9

 - 楽しい日々 -

 竜之介は恵理との楽しい日々を満喫していた。

 女装して外出するのがあんなに怖かったのに、恵理と出会ってからは毎週のように女装して仲良しの女友達同志の感じでデートを重ねた。

 恵理が思いつきで言い出した従妹の”みちる”というキャラクターを嬉々として演じている。

 ショッピングや映画、カラオケも、女の子として行動してみると、見なれた街やいつもの遊びも、まるで違う世界の出来事のように感じられて実に新鮮で楽しい。

 一人ではとても入れない女性用の化粧室へも恵理となら気兼ねなく入ることができるし、ドラマで見なれた鏡の前で化粧直しをしている”みちる”になりきった自分を見るとウキウキしてしまう。

 様々な場所で、若い女性として扱われるのは、竜之介にとって想像以上に楽しい時間だった。

 こんなにも楽しい時間が過ごせるのは、恵理が献身的に尽くしてくれるとても素敵な女性で、しかも竜之介の女装趣味を理解し、一緒に楽しんでくれるパートナーだからこそだ。

 それどころか、恵理は竜之介が女らしくどんどん綺麗になっていくのが嬉しいらしく、竜之介を素敵な女性にする事にのめり込んでいると言っていいほどに夢中になっている。

 竜之介も、部屋の中でしか着られなかったセクシーな服も恵理と一緒なら勇気が湧き、鏡の中に閉じていた自分を外でさらけ出せる快感の虜になっていた。

 二人は”みちる”を一緒に作り上げることが楽しくて仕方がない。

 しかし服と化粧で竜之介の外見は限りなく女に近づいたが、欲望とは限りのないものだ。

 女装姿で街中を不自由なく歩き、女性の愉しみを知るほどに竜之介は、”女の声”が欲しくて堪らない。

 もっと女性として自然に過ごしたいと願う竜之介は、喋れない事の不満が募っていた。

 夜毎、喉の力の入れ具合を工夫して発した声を録音し、すぐさま声を再生して”みちるの声”を探していたが、満足出来る声には辿りつけないでいた。

 ところが、3週間ほど前に、ついにこれは!という声に出会ったのだ。

《こんにちは。 みちるです》 《こんにちは。 みちるです》

 ヘッドセットからその声を聞いた時、竜之介は飛び上るほどに驚いた。

 竜之介は慌てて喉のイメージを思い起こし、再びその声にチャレンジする。

「こんにちは。 みちるです。 今日は楽しかったわ」

《こんにちは。 みちるです。 今日は楽しかったわ》

 ヘッドセットから聞こえた再生音は、可愛い女の子のものだ。

――やった! やった〜っ!!

 竜之介は興奮を抑え、忘れないようにと何度も発声を繰り返した。

 竜之介は怒ったり、笑ったり、拗ねたり、甘えたりと、恵理や明菜が竜之介の前で見せた表情やしぐさを思い浮かべながら、感情がこもった”生きたみちるの声”のトレーニングを明け方近くまで続けた。

 次の日から毎夜、遅くまで練習を重ねた結果、今では大きな声ではまだ地声が出てしまうが、小さな声で喋るにはほぼ”みちるの声”を出せるようになっていて、誰にもばれないだろうという自信が芽生えている。

 その確信が持てたのは、公衆電話から恵理に間違い電話を装って掛けた時だ。

 恵理の受け答えはまったく知らない人に対してのそれで、ネタばらしに普段の声で名乗った時の恵理の驚きぶりは痛快だった。



 今日は”その声”を得てからの初めてののデートで、一段と楽しいものになった。

 恵理と腕を組んでショッピングにあちこちを歩き回り、店員にドキドキしながら喋りかけたりして存分に女性として買い物を楽しんだ。

 居酒屋ではしゃぎ過ぎてつい地声で喋ってしまい、隣の席の客に怪訝な目を向けられてしまったが、恵理と一緒ならそれもまた楽しく、顔を見合わせ声を伏せて笑いあった。

   ◆

「ただいま〜〜」

 誰も居ない部屋に恵理が帰宅を告げる。

 デートを終えて竜之介の部屋に帰った二人は愛し合う男と女に戻る。

 恵理はまっすぐにバスルームに向かい、湯の栓をひねった。

 恵理のモードが、みちるの女友達から竜之介の彼女へと変わっていく。

 お互いに仕事が忙しくて、ウィークデーに会えるチャンスはほとんどない。

 竜之介のプッロジェクトが忙しかったり、恵理が役員の接待ゴルフに随行したりすると、週末にも会えない週があった。

 恵理は会えた時はここぞとばかりに竜之介に世話を焼く。

 竜之介の爪を切ったり、耳掃除をしたり、もちろんお風呂では身体も髪の毛も洗うのが恵理の楽しみになっている。

「たっち〜。 お風呂入ろうよっ」

「うん」

 ひと足早くメイクを落としていた竜之介も、すっかり男モードに切り替わっている。

「たっち。 随分髪が伸びたね〜」

 竜之介の髪を丁寧に洗いながら恵理は嬉しそうに話す。

 恵理に言われて伸ばし始めた髪は、会社へ行く時は後ろで束ねなければならないほどに伸びていた。

「もう少し伸びたらウィッグなしで自分の髪で”みちる”になれるね」

「え〜っ、、、 そんなの、、、 みちるとボクの区別がなくなっちゃうじゃん、、、」

「うふふっ。 じゃあ、いっそのこと”みちる”になっちゃう?!」

「何バカなこと言ってんの?! ねえ、それより恵理。 叔母さんはまだ許してくれないの?!」

 初めて竜之介と結ばれた時、連絡入れずに外泊したことを恵理は随分と叔母に叱られたらしく、それ以来厳しい門限を言い付けられているらしい。

「ええ、、、 仕方がないわ、、、」

 恵理が懸命に竜之介に尽くすのは、良くて週に一度の限られた時間しか許されていないからということもあるのだろう。

「さあ、出てこ〜〜いっ。 私の”たっち”」

 恵理が竜之介の股間にリームーバーを塗り、1週間の間、タックで陰嚢の皮に閉じ込められていたペ○スを解き放つ。

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