ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第2章 新しいボク11

 - JULLY -


「えっ?! JULLY編集部からだ、、、」

 夜遅くマンションに戻り、メールをチャックするといつものようにたくさんの応援メールが届いていたが、その中に差し出し人がJULLY編集部となっているメールがあった。

 メールを開いてみると、正式採用ではないが面接の上、カメラテストをしてみたいので、今度の日曜日に会社を訪ねて欲しいと書いてあった。

「どうしよう、、、」

 恵理に言われて仕方なく応募したが、元々採用されるはずがないと思っていたし、既に書類を送ってから1カ月近く経ち、読者モデルに応募したことすら忘れかけていた。

――今度の日曜日って、恵理は居ないもんなあ、、、

 憧れの読者モデルになれるかも知れないのは嬉しいのだが、恵理がアメリカ出張から戻ってくるのはその日の夕方の予定なので独りで行かなくてはならない。

 女装して外出することに慣れてきているが、その傍にはいつも恵理が居る。

 いまだに恵理以外の前で女装姿を見せたことはなかったので、不安がこみ上げてくる。

――ひとりで行くのはやだなあ、、、

 恵理に相談のメールを送ると、直ぐさまアメリカにいる恵理から電話が掛かってきた。

――えっ?! 起きてるんだ?! 向こうは朝7時くらいのはず、、、

 恵理は弾んだ声で予想通りの答えを返してきた。

 その時に着ていく服はアレにしろ、コレにしろと竜之介の不安をよそに恵理は大はしゃぎで、撮影に立ち会えないことを悔やむ始末だ。

――トホホッ。 恵理に相談したのが間違いだったな、、、 しょうがない、、、

 竜之介は電話を切ってもしばらく迷っていたが、面接に行く旨のメールをJULLY編集部に返した。

   ◆

《面接の日曜日》

 竜之介は指定された時間にドキドキしながらJULLYを発行しているぶんかマガジン社を訪れた。

――やばっ、、、受付がある、、、

 竜之介はゴクリと唾を飲み込み、受付に向かった。

「こんにちは、、、」

「いらっしゃいませ」

「あのぉ、、、 速水といいます。 JULLY編集部の長谷川編集次長と2時にお約束してるんですが、、、」

 竜之介はドキドキしながら”みちるの声”で受付の女性に来意を告げた。

「JULLYの長谷川ですね。 そちらにお掛けになってしばらくお待ちください」

――ばれていないよね?! 疑っていないよね?!

 女声で他の人に話しかけるのは、恵理にけしかけられ居酒屋のオーダーをして以来だ。

 受付の女性は、いぶかる様子もなく内線電話で担当部署へ電話を繋いでいる。

 壁際の椅子に座り暫く待っているとエレベーターから出てきた長身の男が竜之介に向かって近付いてきた。

「速水さんですね?! お待たせしました。 JULLYの長谷川です」

 長谷川編集次長は、顎髭を生やした30半ばの業界人ぽい男だった。

「こ、こんにちは。 はじめまして、、、 速水です、、、」

 竜之介は立ち上がり、ペコリとお辞儀をした。

「えっ?!」

 長谷川は一瞬キョトンした表情を浮かべた。

「さあ、こちらへどうぞ」

 長谷川がエレベータに向かって歩きだした。

「あっ、はい、、、」

 竜之介は慌てて長谷川の後を追った。

   ◆★

 案内された応接室で、長谷川の面接が始まった。

「プロフィールのみちるって本名なのかな?」

「いいえ。 違います、、、」

「ふふっ。 そうですか。 まあ、みちる君でいきましょうね。 それにしても君の女装は凄いね〜。 本当に可愛い女の子にしか見えないよ」

「あ、ありがとうございます、、、」

「それにさっきの声にはマジで驚いた! みちる君は男性だったはずだったのに、女の子じゃないの?! って思ってしまったよ」

「受付の方にこの声が聞こえたらやっぱり恥ずかしいので」

 受付で挨拶した時は”みちる”の声を使ったが、素性を知る長谷川の前では取り繕う必要がないので応接室に入ってからは”竜之介”の地声で喋っている。

「アハハ。 そりゃそうだ。 どう見たって女の子の君が今の声で喋ってたら変に思うよね」

「ですよね。 ウフッ」

 少し緊張がほぐれた竜之介は女声で喋った。

「うわっ! 自由自在なんだね」

「ウフフッ。 努力の賜物なんですよ」

「そうですか。 いや〜、実に素晴らしい! で、本題なんですが、僕は一目見てみちる君の事が気に入りました」

「あ、ありがとうございます」

「来月号まではもうモデルは決まってるんだけど、次のシーズンの企画で君に紙面を飾って貰おうと思うんだが、いいですか?!」

「、、、はっ、はい! 喜んで」

「そうですか。 じゃあちょっと身体を見せてもらおうか。 まずは上着を脱いでくれるかな?!」

「えっ?!」

「ん?! 編集者としてはモデルの身体的特徴を知っておきたいんだよ」

「あっ、、、 はい。 そうですよね、、、」

 竜之介はジャケットを脱いだ。

「ほっほう! みちる君は骨格も華奢だね〜。 ホント、女の子みたいだな」

「そっ、そうですか、、、」

 身体をじっと見られていると思うと、竜之介は恥ずかしくて顔を上げることができない。

「じゃ、Tシャツを脱いで立ってくれる?」

「えっ?! Tシャツも、、、 ですか?」

「あははっ。 何を恥ずかしがってるんだよ、みちる君。 女性のモデル達だってスタッフの前で平気で着替えするよ。 まして僕たちは男同士でしょ」

「えっ、ええ、、、 でも、、、」

 ファッションショーのモデル達はスタッフの前でも平気で裸身をさらすことは竜之介も知っている。

 しかしブラジャーを付けている姿を長谷川に見られるのは、男同士だからこそ恥ずかしい。

「僕たちはね、バストの形とか、どこに痣があるとか、モデルのパーツの特徴を把握して、雑誌に紹介したい服に一番適したモデルを選ぶんだよ。 みちる君にも似合う服で”JULLY”に登場して欲しいんだ」

「はい、、、」

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