ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第4章 翻弄7

 ―ゲイバー・アモール―

 長谷川に連れられて行ったのは、猥雑な感じがする雑居ビルの中にあるアモールという店だった。

 店に足を踏み入れた瞬間、竜之介は思わず声をあげてしまった。

 屈強な体躯に真っ赤な皮のコートをまとった見るからにオカマ然とした男性がにこやかに出迎えてくれた。

 不安そうな表情を浮かべ後ろに居る長谷川を振り返ると、長谷川は悪戯っぽい笑みを浮かべて耳元で囁く。

「ここ、有名なオカマバーなんだよ。 この店で男の子ってばれなかったら完璧だよ、みちるさん。 チャレンジしてごらん」

「えっ?! そんなぁ、、、 絶対無理ですよぉ〜」

 長谷川の意図は分ったが、その道のプロの目を欺けるなんて竜之介にはとても自信がない。

「ママ〜。 この子、うちの雑誌のモデルのみちるさん。 一押しの子なんだ。 可愛いだろ?!」

「いらっしゃい。 みちるちゃん、可愛いわ〜〜 ワタシは怜奈よっ。 この途、25年! ごひいきに〜っ」

「ど、どうも はじめまして、、、 みちるです。 よろしくお願いします」

 想像とおりのだみ声に竜之介は笑いをこらえて挨拶をした。

――ばれたらばれたでいいやっ。 今夜が最後だもん。 ふふっ

 竜之介は女の子・みちるとして過ごす今夜を精一杯楽しんでやろうと決めた。

「こちらこそっ! さあ、座ってくださいな」

        ◆

「ふぁ〜、ふぁっ、ふぁっ、、、 あっ、ごめんなさい、、、」

「どうしたんだい、みちる君。 あくびばっかりして〜。 眠くなっちゃった?! お酒、強いって言ってなかったっけ?! 撮影で疲れたのかな?!」

「あぁぁ、はい、、、 ママのカクテルが美味しくて飲みすぎちゃったかも、、、 です、、、」

――眠い、、、 なんか変、、、

「あぁぁ、、、 眠い、、、」

 竜之介はカウンターにドサリとうつ伏せに身体を預け、またたく間に眠り込んでしまった。

「ふふっ。 やっと眠ったか、、、」

 長谷川がすぅーすぅーと寝息をたてる竜之介の顔を覗きこみ、不敵な笑みを浮かべた。

「ねえ、長谷川ちゃん。 この子、うちに貰えないかしら?!」

「ふふっ。 ママ、気にいったのかい?」

「ええ、とっても」

「まだダメだよ。 で、この子に何を飲ませたのかな?」

「よく知らないけど〜っ、さっき富田さんに渡された妖しげな薬よ。 なんでも犯されるにしても気持良く犯されなきゃこの子も可哀そうだろとか言ってらしたけど〜。 ふふっ」

「あはっ。 あた押収品をぱくったんだなあ。 富田さんって相変わらずのドグサレ刑事だよなあ」

「何言ってんの?! その刑事さんに散々お世話になってるくせに〜」

「あははっ。 確かにねっ」

 長谷川がカウンターに突っ伏す竜之介の髪の毛をわしづかみにして顔を持ち上げ、眠りを確かめるように覗きこむ。

「可愛いね〜〜。 姫はぐっすりおやすみだな。 じゃ、奥の部屋へ連れていくとするか」

 長谷川は怜奈ママに見せつけように軽々と竜之介の身体を抱きあげた。

「う〜〜ん、もぉ〜〜、、、 後でワタシも交ぜてくれないかしら?!」

 怜奈は大切な玩具を取り上げられた子供のように残念そうな表情を浮かべて長谷川を睨む。

「ふっ。 ザンネ〜〜ン! 可愛子ぶって地団太踏んでも今日はお預けだよ、ママ。 それにママが可愛子ぶってオネダリするのがありえね〜し! あははっ」

「もぉ〜〜、随分ね〜。 いけずなんだから〜!」

「またいつか交ぜてやるからさっ」

「ホントよ、長谷ちゃん」

 竜之介を抱いた長谷川は店の奥の秘密の部屋に消えていった。

   ◆

「ぐうぇっ、、、 ゲホッ、ゲホッ、、、」

――なっ、なんだ?!

 息苦しさで竜之介は目覚めた。 喉奥まで何かが塞ぎ、猛烈な嘔吐感が込み上げている。

――ボクはいったい、、、

 目を開けても焦点が定まらずはっきりと見えないが、薄暗い中で何人もの人が身体にまとわりついているのが分った。

 本能が身の危険を告げ、身体をよじろうとしたが、まったく動かない。

――ウソだ、、、ボク、縛られてる?!

 頭がぼんやりとして、もどかしいほどに考えがまとまらない。

――怜奈ママのカクテルを飲んで、、、 眠くなって、、、 はっ?! まさか、、、

 オカマバーの怜奈ママの青白い髭剃り痕の肌が目に浮かんだ。

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