ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第5章 カラダ1

 ―秘密倶楽部―

―富田刑事と約束の金曜日―

「すいません、、、 じゃあ、お先に失礼します」

 竜之介が上司である橋本に早退の挨拶をしたのは5時を少し過ぎていた。

 指示された渋谷の交番に7時に着くには十分過ぎるほど余裕があるのだが、その前に”女子高生・みちる”に変身する時間が必要だ。

「そっか。 早退届、出てたっけな」

「はい。 納期が迫ってるのにすいません」

「まあ、プロジェクトのお前の担当分はスケジュール通り進んでるし構わんよ。 今日も暑そうなセーター着てるけど、誰かさんに虐められなかったか?」

 橋本が声を潜め、ニヤニヤしながら言った。

「ええ、、、 別に、、、」

「ふふっ、そうか。 で、大きな荷物かかえて新しい彼女と旅行でも行くのか、竜之介?!」

「いっ、いいえ。 そんなんじゃないです。 ちょっと母の故郷で用事があって、、、」

「ふ〜ん。 まあ精々親孝行してくるといい」

 ウソだと見抜いてるぞとばかりに意味深な笑みを浮かべ、橋本は早く行けと追い払うように手を振った。

 竜之介はスケジュール遅れで目の色を変えてパソコンに向かっているスタッフ達を尻目に開発室を後にした。


   ◆

――良かった。 空いてた

 竜之介は着替えるために渋谷の小さなビジネスホテルの男女兼用トイレに入った。

 最近は女装していると意識せずに女子トイレを使えるが、女性用トイレで男だとばれたことを思うと怖いし、女装姿で男性用トイレにも入りずらいので少し前まではこういうタイプのトイレを探して利用していた。

 着ていた服をを素早く脱ぎ、バッグに入れていたセーラー服に着換える。

――急がなくっちゃ

 化粧ポーチを取り出し、便座に腰をおろしてメイクを始めた。

 目元をメイクしマスカラを付け眉を描く。 鏡に映る”みちる”に変わっていく貌にふとメイクをする手が止まる。

――どうしたいんだ、ボクは、、、

 富岡たちに凌辱される場所へ出向く為に、玩具のように犯す男達に会うために綺麗に貌を仕上げている自分が分らない、、、

 どこか妖しくざわめいている自分の心を竜之介は持て余している。

 仕事を続けるためには、恵理に災いが及ばないためにはしかたがないことだといくら頭の中で今日の事を正当化しようとしてももう一人の自分が『それだけじゃないでしょ』と囁いている。

 思い悩みながらも手慣れた動きでメイクは進み、ローズピンクの口紅をさして竜之介は女子高生・みちるへの変身を終えた。

「ふぅ〜〜、、、」

――ボク、行くしかないんだ、、、 みちるになって

 竜之介はバッグを肩に個室を出て急ぎ足でビジネスホテルを出た。


   ◆

 角を曲がると交番が見える所まで来て竜之介は足を止めた。

 着替えている間に降り出していた大粒の雨が傘を激しく叩いている。

 竜之介は大きく息を吐き、意を決して角を曲がると、雨に煙る中で並木婦警が交番の入口に立ちこちらを見ているのに気がついた。

 並木も竜之介に気付いていたようで、おいでと手を振っている。

 近付くと、並木は前に停めていたミニパトに駆け寄り、乗りなさいと竜之介に叫んで運転席に飛び乗る。

 いわれるまま後部座席に乗り込みドアを閉めると並木は直ぐにパトカーを発車させた。

「うふふっ。 可愛いわよ、竜之介クン」

 バックミラー越しに並木と目が合う。

「あのぉ、、、 どこへ行くんですか?」

 後部座席から竜之介は不安気に尋ねた。

「ふふっ、どこでしょうねえ。 そうだ。 これで目隠ししてちょうだい」

 並木が運転席から黒いものを投げて寄こした。

「えっ?!」

 手に取るとそれは黒いヘアバンドだった。

「秘密の場所だから。 きっと貴方も知らない方がいいと思うし、、、」

――知らない方がいい、、、

 並木の口ぶりに竜之介は今さらながら得体のしれない恐怖がこみ上げてくる。

 どこへ連れて行かれるのか分らないのは不安で仕方がない。 しかし並木の言う通り、非合法な連中の秘密は知らないままの方が安全かもしれないと思い直し、竜之介はヘアバンドで自分の視界を塞いだ。

 どこを走っているのかまったく分らないまま30分ほど走ったのだろうか、パトカーはガクンと傾き、どこかの地下駐車場に入っていった。


   ◆

 竜之介は目隠しされたまま、並木に身体を抱えられてパトカーを降りる。

「じゃあ、私は一旦署に戻ります」

 並木はそう言うと掴んでいた竜之介の腕を誰かに引き渡し、車に戻る。

――だれ、、、 富岡刑事?!

 腕を引かれるまま歩いていくと、耳に届く音でエレベーターに乗せられたことを竜之介は察した。

 並木のパトカーの発するタイヤの軋む音が聞こえ、エレベータのドアが閉まる。

「あっ、、、」

 エレベーターが動き出すと、不意に目隠しが外された。

「今日は楽しんでくださいね、速水さん」

 目の前に居たのはJELLYの長谷川だ。

「あっ、、、 やめてくださいっ」

 長谷川の手が竜之介のスカートに潜り込み、股間の形状を探るように手を這わせてきた。

「ん?! 男の子の股間で来るって聞いてたんだけどなあ」

「あぁぁ、、、 やっ、やめてっ」

 長谷川が身悶える竜之介のブルマーの中に手を突っ込み、股間をまさぐってきた。

「あははっ。 タックはしてないけど、ガードル代りにブルマーを穿いて股の下に抑え込んでるんだね! やっぱり女の恰好をすると股間のモッコリは気になりますか〜?!速水さん。 あ〜はっはっはっ」

 長谷川の手が、股下に折り込んでいたペ×スを引っ張り出し、わざとショーツの上辺からペ×スの先端を露出させるようにしてブルマーを元にかぶせた。

「ふふっ。 こうして前が膨らんでないとパッと見ただけじゃ君が男の子ってわからないからね」

(チン)

 到着のチャイムと同時にエレベータが止まる。

 表示板を見ると10Fと地下のランプしかなかった。

――専用エレベーター?! この人たちって、、、

「さあ、行きましょうか、みちるさん」

 竜之介はコクリと頷き、長谷川の後を追った。


   ◆

 厳重なセキュリティの受付を通り、薄暗い廊下を長谷川の後を付いて歩く。

 充満する隠微な空気に竜之介は胸が張り裂けそうな緊張と、淫らなトキメキを感じている。

 廊下の一番奥にある扉の前で長谷川が立ち止まり、中に入れと仕草で示した。

 扉を開けるとそこは20畳ほどの薄暗い部屋で、ソファに囲まれた円柱状のマットがスポットライトに浮かびあがっている。

 目を凝らすと周りのソファに何人かの人影があった。

「さあ、あの光の下に立って皆さんに挨拶してきなさい」

 長谷川が立ちすくんでいる竜之介の背中を押す。

 竜之介は顔を伏せゆっくりと歩を進めると、ソファに寝そべる裸の男が視界に入った。

――富岡刑事だ、、、

 これから始まる凌辱の時間を思うと、胸がざわめき身体の奥から熱い疼きが湧きあがってきた。

――ひっぃぃ、、、 恥ずかしい、、、

 スポットライトの及ぶエリアに足を踏み入れると、煌々とした光にセーラー服がくっきりと浮かぶ。

 円形のマットの前で立ちすくみ、周りの様子をうかがうと富岡のほかに3人の裸の男が目に入る。

 誰も声を発することもなく静寂が続き、上擦った自分の息遣いがやけにはっきりと聞こえている。

 自分を犯す男達がせめて前と同じメンバーであって欲しいと願いながら、竜之介は意を決してマットの上に立った。


   ◆

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