ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第5章 カラダ11

 ―休日出勤―

 週末の金曜日、竜之介はチームスタッフの中島と昼食を済ませ、オフィスへ戻りながら明菜の事を考えていた。

 相席になった総務部のスタッフにそれとなく明菜の様子を聞いてみると、先週の初めから体調不良という理由で休んでいたが、一昨日から復帰しているという。

 ということは、明菜はあの日も含めて10日近く富岡達の調教を受けていたことになる訳で、一人の人間をあんな風に平然と扱う彼らの恐ろしさを改めて思い知った。

 そして富岡が明菜を解放したということは、明菜の調教が終わったと言うことになるのだ。

 しかしあのまま闇の世界に沈まされてしまわないかと案じていたのだが、とにかく仕事に戻っている事に少し救われた気がする。

『前は自信に溢れてきっぱりとモノを言う人だったでしょ。 ところが人が変わったみたいに大人しいの。 まだ病気が完全に治ってないんじゃないのかな?!』

 明菜の同僚に聞いた話は、竜之介を複雑な気持ちにさせた。

 それにしてもア×ルとヴァギナを同時に犯され獣のように叫びながらよがり狂う明菜の痴態を思い浮かべると今でも信じられない。

 目隠しされていたのではっきりと顔を見た訳ではないので本当に明菜だったのか?!と訝しく思うこともあったが、富岡の口ぶりとお尻にあった蝶の痣はまぎれもなく明菜だと思わざるを得ない。

――今さらボクがどうしようもしてやれないよな、、、

「どうしたんですか? 何か考え事でも?!」

「あっ、いや、、、別に」

「それにしても速水さんの肌ってホントに白くてとっても綺麗ですよね〜っ。 羨ましいくらい」

「なんだよ、それ、、、」

 開発室の手前まで来た時、中島がふいに竜之介を見つめてしみじみと言った。

「何か特別にお肌のお手入れしてるんですか?」

「そ、そんなもんしてないよ。 男だしそんな必要ないしさ、、、」

「最近、テレビで女装コンテストってよくやってるじゃないですかあ。 速水さんなら良い線いくんじゃないないかしら」

「バ、バカなことを、、、」

「いやいや、竜之介だったら優勝間違いなしだ!」

 竜之介の身体が思わずビクッとすくむ。 二人を割って入るようにして喋ったのは、韓国出張でいないはずの橋本だった。

「あれ〜っ?! 橋本チーフ、お帰りなさ〜い。 戻られるのは来週じゃなかったでした?!」

「あ、、、 お疲れ様です」

 愛想を振りまく中島の隣で竜之介もペコリと会釈した。

「おう、ただいま」

「韓国の開発チームはいかがでした? 今度は私も連れていってくださいよ〜」

「まあこんなドアの前で立ち話してないで中に入ろうぜ、お二人さん。 あっ、そうだ。 竜之介に頼みがあるんだ」

「えっ?!」

 竜之介は橋本に肩を抱かれ、開発室に入っていった。

   ◆

 竜之介は緊張した面持ちで橋本のデスクの傍らに立っている。

 この一週間は山科システムに出掛けた翌日から橋本は韓国に出張していたし、事情は知らなかったが明菜のアプローチもなかったので会社の中で嬲られることもなく竜之介は責任を負うプロジェクトに専念することが出来た。

 しかしアムールでどんな目にあわされたのか橋本は知っているはずだし、そのことできっとネチネチと嬲られると覚悟していた。

「山科のおっさん、なんか言ってきたか?」

――やっぱり、、、

「え、ええ、、、 仕事の方はスタッフの方とメールのやり取りで済んでいるんですけど、、、 何度か社長から電話が、、、」

「で、どうした?! ばれなかったか?」

「、、、電話には出ませんでした」

「ふふっ。 あのおっさんマジで気にいってるよなあ〜、お前の事。 一度、デートしてやればどうだ?!」

「、、、そんなこと」

 橋本の白々しい言い方に竜之介は怒りを覚えた。

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