ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第5章 カラダ14

 竜之介は下着だけの姿でパソコンに向かい、仕様書を仕上げていく。

 この作業が終われば、橋本に身体を弄ばれるに違いない、、、 作業が進むにつれ、その刻が近づいてくる皮肉に竜之介の心は妖しくざわめいていた。

「竜之介。 喉が渇いた〜。 コーヒー買ってきてくれ」

「えっ?! もう赦してください、チーフ、、、 守衛さんに気付かれちゃいます、、、」

 外出するたびに守衛室の前を通るのが怖くて仕方がない。

「ふふっ。 今度はスタバのでなくていいよ。 自販機のでいいや」

 橋本はポケットに手を突っ込んでチャラチャラ音をさせながら小銭を探った。

「は、はい、、、 分りました」

 竜之介がスカートに手を伸ばすと、すかさず橋本が制した。

「着なくていいぞ。 その恰好で行け」

「そっ、そんな、、、 無理です!」

「どうして?」

「だって、、、 誰かに見られたら、、、」

「誰もいないさっ。 もし誰かに見られたとしても何か問題あるか? 性器を露出してるわけじゃないし、男が胸を出してたって罪にならないさ。 だろ?!竜之介くん」

「そっ、そんなぁ、、、」

「ほら、お金。 取りに来いよ」

 橋本は小銭を掴んだ手をかざし、自分の真横の窓際に来るように促す。

「お願いします! 赦してください、、、」

 声を震わせ懇願する竜之介を橋本は鋭い視線でねめつけ、小銭をジャラジャラと掌で踊らせ、無言の威嚇を続けた。

「はい、、、」

 竜之介は抗えない事を悟り、バストを手で覆い開け放たれた窓に背を向けて橋本の傍に立った。

「竜之介。 オッパイ見せてくれよ」

「こ、この場所では赦してください! 外から見られてしまいます、、、」

「たつのすけ〜〜〜! おっぱいみせてくれ〜〜〜」

 橋本が竜之介を見てニヤリと笑みを浮かべたと思うと、手を口にあて窓の外に向かって大声で叫び出した。

「わっ、わっ、分りました! わかりましたから、、、」

 竜之介は慌てて橋本の腕を掴んで懇願する。

「くくっ。 おまえ、その格好で廊下を歩くと思っただけで乳首がおっ勃っているねえか!」

 目の前でプルンと揺れる竜之介の乳房を見て橋本は嬉しそうに言った。

「ハイ、お金。 お前は好きなものを奢ってやるよ。 俺はコーラなっ」

 竜之介は胸をさらして橋本の前に立ち小銭を受け取った。

「早く行ってこいよ。 竜之介」

「ホントにこの恰好でいくんですか、、、」

「もちろん」

「赦してくださいっ! 無理です、、、 お願いします! あっ、いやあああ〜〜」

 業を煮やした橋本は竜之介の身体を羽交い絞めにし扉の前まで引きづって行く。

「ィヤ……ゃめてぇ!……」

 橋本はドアを開け竜之介は廊下に突きだされた。

「買ってこないと中に入れないからな」

 そう言い捨てて橋本はドアを閉めた。

――行くしかない、、、

 竜之介は硬貨を握りしめ、誰も居ない事を祈り給湯室に向かって廊下を駆けだした。


   ◆

「あのぉ、、、 トイレに行っていいですか?」

 竜之介の尿意は限界に達していた。 橋本が欲しくもなかったコーラを買わせ、竜之介に飲ませたのはこのことを想定していたのだろう。

「へっ?! 幼稚園児じゃあるまいし、勝手にいけよ」

「はい、、、」

「ん?! なんだ?! もちろんそのままだぜ」

 モジモジしている竜之介を見て橋本は冷たく言い放った。

「お願いします! 服を着させてください、、、」

「じゃあ、我慢してろ。 それともコーラの空き缶にでもするか?! くくっ」

 顔を上げることもなく発せられた橋本の返事はそっけないものだった。

「お願いしますっ!」

「しつこいぞ! この部屋でお洩らしだけは勘弁してくれよ」

「…………」

「女子トイレに堂々と入れるチャンスだぜ」

「はあぅぅ、、、」

 竜之介はゆっくりと立ち上がり、入口へ歩き出した。  下腹が刺し込むように痛み、我慢はもう限界だった。

「いってらっしゃい。 気を付けていくんだぞ〜」

 竜之介は自らドアを開け、下着姿で廊下へ足を踏み出した。

   ◆

「ふぅ〜〜」

 我慢の末の放尿は苦痛がウソのように和らぎ、生理的な心地よさにホッとする。

 トイレットペーパーを手繰り、女性のように股間を拭った。

 初めて足を踏み入れた会社の女子トイレの個室はしげしげと見まわしたが、男子用と比べても何も変わりがなかった。

「ふふっ」

 竜之介は思わず苦笑した。

――こんな恰好を見咎められたら男性用でも女性用でもアウトだよな

 橋本にそう言われたからということもあるけれど、思えば誰も居ないオフィスなので女性用のトイレに駆け込む必要はなかった。

 ショーツを上げ、パンストを引き上げながら、オフィスに戻った時の事を考えると心が乱れてくる。

 橋本に頼まれた仕事はもう殆ど仕上がっていて、開発室に戻りそれを提出すれば、いつも働いている事務所の中で橋本に嬲られるに違いない。

 しかしこんな下着姿でどこへも逃げるわけにはいかないのはわかりきっている。

 昨夜、以前のように打ち解けた先輩・後輩の二人に戻って酒を酌み交わした橋本に辱められる場所へ戻るしかないのだ。

 大きなため息をつき、竜之介は女子トイレを後にした。

   ◆

 トイレから戻り、程なく仕上がった仕様書を緊張した面持ちで橋本に手渡す。 時間は3時を少し過ぎてた。

「休みだったのにごくろうさんだったなあ。 俺は明日からの準備があるから先に帰ってもいいぞ」

 パラパラと資料をめくりながら橋本はあっさりと言った。

「はい、、、」

 橋本の意外な言葉に竜之介は驚き、ホッとした。 と同時に何か企んでいるのではないかと不気味な感じがした。

 とにかく橋本の気が変わる前に帰ろうと急いでスーツを身に着ける。

 挨拶をして開発室を出ようとすると、橋本が会社のロゴの入った封筒を持って近づいてきた。

「おう、そうだ。 お使いを頼む。 帰りに向かいのスタバにこの資料を届けてくれないか」

「はい、、、 誰に渡せばいいんですか?」

「山科の社長だ」

「えっ?!」

「支払い関係の書類だそうだ。 急いでるらしいから頼むぞ」

――これだったんだ、、、

「ど、どうして、、、 こんな酷いことばかりを、、、」

「はあ? 酷い!? どういう意味だ? まさかお前、この前山科システムに行った時あのおっさんと何かあったのか?」

「い、いえ。 何も、、、」

「ふ〜ん。 まあ、何があったのかは知らないが、お前が担当してる下請け会社に必要な資料を渡すだけじゃないか。 だろ?!」

 竜之介の言葉をまるで信じていない様子の橋本に竜之介はうろたえてしまう。

「はい、、、 苦手なタイプの人なのでつい、、、 すみません」

――この人は本当に何も知らないのか?! 富岡にスケジュールを知らせただけなのか、、、

「まあ、下請けさんと仲良くしとくってのはいい事だからな。 仕事が済んだらそこから先は自由だ。 飯を食いにいくなり好きなようにすればいいさ」

「は、はい、、、 でも今日はお渡しして直ぐ帰りますから、、、」

「まあ、任せるよ。 頼んだぜ、速水みちるさん」

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