ボクの中のワタシ
羽佐間 修:作

■ 第6章 ワタシ2

「ど、どうも、、、」

 竜之介は何と言っていいのかわからなかった。

「誰だか分るんだね?!」

「あっ、、、はい、、、 きっとですけど、、、」

――ボ、ボク、、、 ときめいてる?!

「そうか。 じゃあ話が早い。 少し早いが食事に付き合ってくれないか?」

「えっ?! 私とですか、、、」

「ああ、みちると。 今からね」

「えっ?! い、今からですか?!」

「ああ、今からだ」

「でっ、でも、、、」

「速水さん、どうしたんですか?」

 山科が二人のところへ心配そうな顔をして駆けてきた。

「いえ、あのぉ、、、」

「みちるの叔父です。 みちるがいつもお世話になっています」

 竜之介が言い淀んでいると、目の前の男が山科に軽く会釈をし、平然と叔父に成りすまして言った。

「久しぶりに東京へ来ることになり、姉からも娘の様子を見てきてくれなんて言われていたものですから、仕事がすんだら食事をしようと約束していたんですよ」

「あっ、そうなんですか、、、」

 山科は明らかに落胆したような声で応えた。

「私の事は気になさらないでください。 仕事が終わるまで待っていますから」

「あっ、私は資料を頂くだけでしたので、もう、、、」

 山科は叔父と名乗る男の言葉を信じたようで逃げの体制だ。

「そうですか。 みちる、いいのかい?!」

「あっ、はい、、、」

「そうか。 じゃ行くか。 荷物はないのかな?!」

「あっ」

 竜之介は座っていた席に駆け戻る。

 あれよあれよという間に”あの人”と一緒に食事に行くことになってしまっている状況が不思議で、そして不安で一杯だ。

 バッグを持ってドキドキしながら二人のところへ戻った。

「山科社長、ご馳走様でした。 じゃあ、失礼します」

「ああ、じゃあまた」

「そう。 じゃ行くか。 では失礼します」

 そういうと男は竜之介の腰に手を回し、身体抱き寄せて歩き始めた。

――ああぁぁぁ、、、 どうして、、、

 男の手が腰に触れた瞬間、熱く切ない疼きがズキンと湧き起こった。

「あぁぁ でも、、、 あのぉ、、、 どうして、、、」

「会社には戻らなくていいんだろ?」

「は、はい、、、 でも」

 付いていけば食事だけで済むわけはない。 その後に何があるのかは分りきっている。

――この人はボクの事を全部知ってる、、、

「何が食べたい?」

「えっ、、、 あのぉ、、、」

「好き嫌いはあるのかい?」

「いいえ、、、」

「ふふっ。 じゃ、僕に任せてくれるかな? 美味しい物をご馳走するよ」

 付いて行ってはダメだと思ってもこの男のペースにグイグイと引き込まれていく。

 そして絡めとられていくような緊張感に竜之介はゾクゾクしていた。

「、、、はい」

 暫く歩いているうちに、そうしろと言われたわけでもないのに竜之介は男の腕にそっと腕をからめる。

「ん? どうした?!」

 男は不思議そうな顔をして竜之介を見つめた。

「叔父に甘える姪です、、、」

 少し怒ったような言い方で竜之介は懸命に恥ずかしさをごまかす。

「ふふっ。 そうだったね」

 竜之介は腕に力を込めてギュッと男の腕にすがった。

 なぜ、自分から甘える様なことをしてしまったのか、竜之介は自分でも不思議で仕方がない。

 ただ一緒に歩いているだけでとても心地よく感じる”みちるの感覚”を竜之介は楽しんでいた。

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