千佳
木漏れ日:作

■ 25

70歳。
あっけない別れだった。
泣く暇も無いほど慌しく日が過ぎて行った。
二週間が過ぎた。
ガランとした家に居ると不意に寂しさが込み上げてくる。

玄関でチャイムが鳴った。
出てみると達哉だった。
「ちょっと出かけない?」
達哉はそう言った。
「うん……。」
私も気分を変えたかった。

車の中では互いに無言だった。
かなり走った。
大きな邸宅に車は入って停まった。
「ここどこ?」
「今に分かる…。」
私と達哉は車を降りて玄関に向かった。

中から品の良い女性が出て来た。
女性は私達を部屋に案内した。
少ししてお茶を運んできた。
「ねぇ、ここ誰の家?」
「今に分かるよ…。」
達哉は同じ言葉を繰り返した。

「千佳…。」
「ん?」
「下着着けてる?」
「ううん…。」
「いいんだそれで…。」
達哉は微笑んだ。

暫く待った。
先ほどの女性が現れた。
「お待たせしました…。」
私と達哉は部屋を出て長い廊下を歩いた。
ある部屋まで来ると女性が跪いた。
「お連れしました……。」

「入って…。」
そう言われて私達は部屋に入った。
中には女性が一人座っていた。
キチンと着物を着ている。
「お茶を…。」
そういい私と達哉を見た。

案内して来た女性が部屋を出る。
「達哉の母です…千佳さん大変だったわね…。」
「ありがとうございます…。」
「これからどうなさるの?」
「……。」
私にはどうすればいいか分からなかった。

達哉の母が言った。
「暫くここで暮らしてみない?」
「ありがとうございます…。」
救われた気がした。
一人であの家に帰りたくなかったからだ。
「食事は?」

「まだです…。」
「そう…。」
そこへさっきの女性が現れた。
お茶の支度をしてきたのだ。
「二人に食事を…。」

「わかりました…。」
女性が部屋を出て行った。
「こちらにどうぞ…。」
間もなく呼びに来た。
私達は居間に移動した。
食事が始まった。
皆無言で箸を動かした。

さっきの女性が世話をしてくれた。
食事が終わった。
「千佳さんを案内して…。」
「はい…。」
私は女性の後に従った。
渡り廊下に出た。

そこの突き当たりの右側に扉がある。
女性が扉を開ける。
中に入ると二部屋の和室になっている。
「ここを自由にお使い下さい…。」
女性が中の説明をしたあと、
「お風呂どうぞ…。」

と言った。
そして歩きだす。
「タオルは?」
「あちらにございます…。」
「あの…。」
「何か?」

「お名前は?」
「しのぶともうします…。」
「しのぶさんは私のなんなの?」
「お世話係です…。」
「そう…。」
風呂場に着いた。

「ではごゆっくり…。」
そう言いしのぶさんは去って行く。
風呂は広かった。
私は落ち着かない気分で慌しく入浴を済ませた。
脱衣カゴを見ると私の着ていた服がない。
代わりにあったのは浴衣。

浴衣を着てみると体にぴったり合っていた。
下着はない。
脱衣所を出るとしのぶさんが待っていた。
「お済みになりました?」
「ええ…。」
元来た廊下を歩いた。

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