ボクらの秘密
木暮香瑠:作

■ 夏祭り8

 ボクと美紀は、二人並んで線香花火を続けている。パチパチと弾ける小さな光りに照らされた美紀の脚、捲り上げられた浴衣の裾から覗く太腿が眩しい。そんなボクの視線にも気付かずに、美紀は指先で摘んだ線香花火の先で弾けては消えていく火花を見詰めている。
「キレイだね……」
「えっ!?」
 ボクは、突然掛けられた声にドキッとした。
「なっ、なに?」
「何か考え事してたの? 花火、きれいねって言ったの!」
「ああ、キレイだね……」
 ボクはとりあえず美紀に答え、そして気になっていたことを訊ねた。
「美紀、Hに興味あったのか?」
「えっ!?」
 今度は美紀がドキッとしたみたいだ。
「だって、姉ちゃんとあの男のこと、じっと見てたじゃん」
「ううん、健はどうなの? 興味あるの? したいって思ってる?」
 質問を質問で返すなよ。答えになってないじゃないか。でも今夜は、言い返す気持ちにならない。
「ううん……、ちょっとしたいかも……。美紀は?」
「エッチ! したいなんて思ってないよ」
 夜空を見上げながら、はぐらかす様に答える美紀。卑怯だぞ、オレは正直に答えたのに。
「本当に? 少しも? これっぽっちも? 全然思ってない?」
 ボクはしつこく訊ねた。
「ううーーん。少しは興味あるかも……」
 ボクのしつこい質問に、美紀も折れて心の中を覗かせた。祭りの夜と線香花火が、ボクらを素直にさせるのかな?
「でも、今じゃないよ。大人になって……、好きな人となら……」
 そう付け加えることを美紀は忘れなかった。

 何本目の線香花火だろう、美紀は相変わらずキレイねを連発している。女ってどうして同じこと続けられるんだ? そんなこと考えていると、突然、美紀がボクの方に振り向いた。
「キス……してみる?」
「えっ!?」
 美紀がボクの目をじっと見詰める。

 ドキッ!?

 何言ってるの? 美紀は……。キスって……言った?

「だって、私の顔、じっと見てたでしょっ? キス、してみる?」

 あちゃ、考え事をしながら美紀を見詰めてた? ボク……。どうしよう……、キスしないとダメかな。据え膳喰わぬは男の恥。男として求められたらすべきかな? しないってことは、勇気がない臆病者? キス、キス、キス……、しちゃおうかな、美紀とキス……。

 一瞬の間に、いろんな考えが頭の中を駆け巡る。

「嘘だよーーーん。健とキスしたら、Hうつっちゃうもん」
 美紀は、ボクのオドオドしてるのを面白がるように腹を抱えてケラケラと笑った。

 オレのHがうつるって……、酷いこと言いやがる。でも……、オレのHがうつるってことは、キスするともっとHなこと、あんなことやこんなことまで許してくれるってこと? 美紀はまだ、笑ってる。からかいやがって! 無理やりでもキスして、Hをうつして、あんなことやこんなことしてやろうか! もう、頭来る!!
「笑うなっ!!」
「だって、バッカみたい。健、顔、マジなんだもん。ハハハ……」
 ボクは、ケラケラと笑ってる美紀の頭を両手で押さえ、ボクの方に向けさせた。
「ンッ!?」
 美紀の顔が、一瞬にして笑顔から真顔になる。ボクは、美紀の目をじっと見詰めた。美紀も瞬きもしないで真剣にボクを見ている。美紀の瞳に、真剣な顔のボクが映っている。

 なんなんだ? この静けさは……。ちょっと上向きになった美紀の顔、唇がプルプルと震えている。そして押さえ込まれるような静かさ……、音が何にも聞こえない。そしてゆっくり美紀の瞼が閉じられた。

 ドーーーン!!

 ボクの緊張を切り裂く大きな音と共に、夜空が一瞬にして明るくなった。突然の出来事に、ボクは空を見上げていた。

 パチパチパチ……。夜空に大きな大輪の花が咲いた。

 打ち上げ花火が上がったんだ。ボク達が打ち上げるおもちゃの花火じゃなく、本物の打ち上げ花火だ。夏祭りの終わりを告げる合図の打ち上げ花火。

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