人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として11

田崎さんと別れて帰宅の徒に付いた私は、手にしていた買い物袋を床に投げ捨てた。
態度に表れるほどの、込みあがる怒りだった。
こんな物を選んだ田崎さんに……それを受け入れるしかなかった私に。
そして私は、その場にへたり込んで泣いた。

田崎さんは言った……。
「今後、僕と会う時は必ずそれを着用する事」と。
田崎さんの言葉は一々私を辱めた……。
「ここで試着は駄目だ、次会った時に服を1枚1枚脱いだ時に見たいから」と。
田崎さんはどこまで私を苦しめるのか……。
「服装は今のままの清楚なので良いからサ、その中のエロ下着が栄えるでしょ」と。

田崎さんの言葉が脳裏に焼き付いて、グルグルと頭の中を描き回していた。
何もする気になれなかった…… ……。
ふと時計を見ると午後5時を過ぎていた。
(……ぁ、御飯作らないと)
そうは思っても身体がいう事を聞かない状態、気力すら失せていた。
目元を下へやると、放り投げた買い物袋。
我に返る。
夫に見られては困る代物を放置していたのだ。
(とりあえず……コレを……どっかに……)
袋を手に取り、部屋をウロウロと彷徨う。
こんな物を見たら夫は何て言うだろう。
真面目なあの人の事だから、コンナモノを持っていただけで凄い剣幕で怒りそうだ。
(どっか……隠し場所……)
そうは思っても中々見つからない。
堅実的な質素な生活を好む夫は、置物とか必要以上の家具等を好まなかった。
(そうよっ!)
明暗が浮かび、私は夫婦の寝室へと飛び込んだのだった。

寝室、ここは安らかなる一時を迎えられるように、より清潔感漂う一室。
無駄な家具や物は一切無い。
寝室にある私専用の衣装棚、上から3段目を引き出した。
白や水色、薄緑等の控え目に彩られた下着類が畳み包まれている。
人に見せるものではないと教わった私には、下着に拘りは無かった。
それが……こんな物を…… ……。
私は無心で袋からブラとショーツを取り出して、他の下着類の下へと潜り込ませた。
(ガーターと網タイツ、どうしよう……)
靴下やストッキング類は隣の棚なのだが、整理整頓とか言っている場合ではなかった。
こんなドギツイ色のストッキングとかを一緒にはする事など出来ない。
ガーターベルトと網タイツも同様に、いつも着用する下着類の下へと隠した。
隠し終えて、私は引き出しを他人事みたいに傍観しながら頭の中で問いかけた。
(ここなら……夫も開けないし……大丈夫よ……ね?)

夫にバレたら……そういう恐怖もあった。
貞操だけは免れられるという、安受提案を私は承諾してしまった。
いっそ怒られても良いから夫に借金の事を話そうかとした、あの誠意は何処へ行ったのか。
この……田崎さんとの関係を続けると、これは行動で明らかにしていたのだった。
   ・
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   ・
あれから2週間が経った。
この間の私の生活は平穏だった。
数分前までは…… …… ……。

そろそろお昼にしようかなと台所に立った私の携帯から、メール着信音が鳴り響いたのだった。
夫は特別な用事が無い限り滅多にメールをしない人だし、友人達は午前の仕事を終えてお昼御飯とお喋りを満喫している頃合。
(あっ!?)
何となくの不安は的中してしまった。


「やあやぁご無沙汰してるねぇ理紗ちゃん〜〜、元気だったかぃ?。
最近ちょっと忙しくってさー、構ってあげられなくて御免ねぇ〜〜。
今日ようやく余裕出来たからさぁ、会いたいなぁ〜〜〜って思ってるのね。
てな訳で午後2時にね〜〜〜○○○駅に集合しよーぜ〜……てな?。
勿論あのプレゼントを着けてきてねって、超楽しみなんですけど〜〜〜。
服装はそうだな……今日は奥さんの一押しで来てね。
待ってま〜す。」


悪寒が全身を包み込んだ。
気持ちが悪かった。
(な、何よ、この人……)
すぐさま指が「削除」へと動いた。
(ぁと?)
だが指と思考は削除寸前で思いとどまった。
(ネチッこいあの田崎さんの事だし……削除したら拙いかも)
携帯を置き、お昼御飯を作るのを中断したのだった。

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