人妻の事情
非現実:作

■ 人の妻として14

「あれってさ、精一杯だよねぇ」
「ウンウン、凄いよねー」
「も〜さ〜〜、ガッツリ男を買おうと満々よね」
「自分のスタイルとかさ〜顔が良いって解っててさ〜〜やってるよね絶対」
「結構いい金で売ってるよね絶対〜」
「あれ買うのってさぁ〜〜普通のリーマンじゃ無理じゃね?」
「ウンウン、5万以下って相手してくれなそー」
「五万てぇそりゃ間違いないってぇ〜〜〜」
(そ、そんなんじゃないの……私ぃぃぃ……)

反論したかったが私の性格と……今の私の格好では何も言い返せない。
他人であり偶然乗り合わせたこの列車のお客の好色と耳に突く勝手な想像話。


目的の駅はわずか5分程度の筈なのに、気が遠くなるくらい長く遠く感じた。
背中からは嫌な汗が止まらずで……。

車内アナウンスから目的駅の名が流れ、私は一先ず安堵した。
そして……ようやく電車は目的の駅ホームへと滑り込み、ゆっくりとドアが開く。
電車を一番で飛び降りて、人の視線をかい潜る様に
改札口を潜った。

初めて降りた○○○駅は随分と閑散としており、周りにあるお店は疎らで、シャッターが降りているお店も多かった。
人の姿も殆ど見えない中、1人柱に背中を預けている田崎さんがいた。
手を上げている……勿論私に向かって……だ。

「やあやぁ理紗ちゃん〜〜待ってましたよぉ〜〜」
「た、田崎さん……」

柱に寄りかかっていた田崎さんは私を見るなり、満足そうに何度も頷いて言った。

「ふふふ…良いですねぇ良いですねぇ、予想以上に似合ってますよぉ奥さん」
「は、恥ずかしいから、そんな風にいわ…ないで下さい」
「いやぁ〜他の人とかが見たら、僕達ってどういう風に見られてるのかなぁ、ねぇ奥さん〜〜?」
「そ、そんな……」

私は慌てて柱に身を隠す。

「ホントはね、大きな駅とかで待ち合わせしたかったんだけどねぇ。
いきなりだと理紗ちゃんも無理でしょ、だからココにしたんだよ。」

私は頭を小さく下げた。
一応配慮してくれていた事はありがたかったが、いづれは大きな駅でという事なのだろう。
素直には喜べない。

「取りあえず移動しよっかねぇ〜」
「ど、何処へ?」
「どこってアレアレ?、理紗ちゃんどっか行きたいトコあんの?」
「出来ればその……人目の付かない所に……」

夫以外の男性に「人目の付かない所」を指定するのは、私としても大胆な発言だと思った。
もうこの格好で電車に乗りたくもなく、耐え難いこの網タイツと化粧は落として帰ると決めていた。
けど田崎さんとは契約上愛人、だから田崎さんには仕方ないと思っている。
他に見られるのは、もう嫌だった。

「あ〜問題無い問題無い、そういう事をするホテルだからサ」
「ぇ……ラブホテルです…か?」
「そそ、駅の向こう側にある安いホテルなんだけどね」

ラブホテルと聞いて覚悟を決めていた筈の心が揺らぐ。
それを悟ったのか、田崎さんが突然手を取って歩み始めたのだ。

「あっ、ちょっと……引っ張らないでっ…下さいっ!!」
「これでも私は忙しい身でね、一々奥さんの心境に構ってられない訳なのよ」
「……っ!?」
「そろそろさぁ、僕達の関係にちゃんと覚悟決めてよねぇ?」
「……す、スイマセン」

初めて聞いた田崎さんからの怒りの篭った発言だった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊