人妻の事情
非現実:作

■ 妻である私は3

帰る間ずっとしていた腕組みをようやく解いて、ハンドバックから家の鍵を探る。
理由は至極簡単、あの忌々しいトップレスブラのせいでブラウスから2つの突起が浮き出てしまうからだ。
お陰で買い物すら行けなかった。
鍵を開けて真っ先にする事、ブラウスを脱ぎ捨ててトップレスブラを剥ぎ取り、タンスから新しいブラを付ける。
してきたブラは罰とか何とか言って、田崎さんが持って帰ってしまったのだ。
スカート越しからショーツも取り替える。
(ふぅ…… ……)
深い溜息、ようやく「付けている」という感じ。
汚らわしい田崎さん専用のブラとショーツを摘む様に持ち、タンスの奥へと押し込んだ。
奇麗に畳むという感覚すらわかない。
奇麗好きな私にしては珍しく乱暴なやり方だが、丁寧に扱うのも嫌悪するくらいの下着だ。

ふと、時計を見る。
(あ〜〜マズイわねぇ……)
6時を回っているにもかかわらず、今日は何も夕食の下準備をしていない。
(冷蔵庫に何があったかしら)
考えても全く思い出せない。
(ふぅ……)
そればかりか、ベッドに腰掛けてしまう始末。
相当な疲労感に脱力感。
何も考えたく無くて……重い身体も動かすのが億劫で……。
(はぁぁ〜……)
ただ意味の無い溜息ばかりを付いている。
ポロリと一筋の涙が零れ落ちると、堰を切ったように後はただひたすら泣いた。
声を出して大泣きした。
泣いて泣いて泣き疲れて、ベッドに身を預けて呆けた。
今日はもう何もしたくない、いや正確に言えば何も出来そうにない。
私はそう確信した。
(風邪引いたって事で許してもらおう…… ……)
ベッドに横になりながら、愛する夫に仮病のメールを送った。

「ゴメンなさいアナタ、ちょっと風邪引いたみたいです。
食事作れそうにないので、御飯済ませて下さい。
本当にゴメンなさいね。」

直ぐに返信のメールが届く。
愛する夫の顔を思い浮かべながら、私は着信メールを確認する。

「奥さ〜〜ん、今日のお仕事はどうでしたか〜?。
初仕事で初お給料、無駄遣いはしちゃ駄目だよ〜。
僕はね、さっそくデジカメの写真で4回も抜いちゃったよ(笑)。
最高だね、明日も明後日もこれで抜くからねぇ〜。」
「ぇえ!?」

思わず声が出て、一瞬に身体が強張った。
夫への思いまでも穢された気分だ。
手にした携帯を投げ捨てようとした時、再び着信メールのバイブだった。
恐る恐る、メールを確認する。

「了解した、食事は済ませてから帰るよ。
何かプリンとかでも買ってくるから寝ていて待っててな。」

優しさ一杯の夫からの返信メール……私は再び泣いた。
(本当にゴメンなさいアナタ……ゴメンなさいアナタ……)
私は駄目で酷い妻です。
アナタを裏切り、主婦としての仕事も放棄してしまいました。
誰にも云えない、酷いやり方でお金を稼いでいます。
この身はアナタだけの物と神父さんに誓った筈なのに、今日私は身体で稼いでしまいました。
この身を汚してしまいました……。
(許してくれるわけ無いけど、本当にゴメンねアナタ……)
涙が止まらない。
夫からの返信メールを何度も霞む目で読み返す。
無音の真っ暗の部屋の中、私は眠りに落ちていった。
   ・
   ・
   ・
   ・
次の日、私は本当に風邪を引いてしまいダウンした。
きっと愛する夫を裏切り騙した罰なのだろう、4日間ベッドから出る事が出来なかった。
会社からでも心配してくれている、夫からのメールが嬉しくも申し訳なく感じる。
そして毎日届く田崎さんの嫌がらせメール、着信しても読む事無く直ぐ消去。
この身が招いた事だが、本当に腹立たしい。

5日目にしてようやく風邪が治り、それからは本来の主婦の姿である私がいた。
愛する夫の為に食事を作り、ごく普通に家事をこなす。
ただ最近の私は、夫の為により愛を込めて家事をするようになった。
そして1つ新たに加わった家事がある。
それは、ほぼ毎日来る田崎さんからのメールを読まずに消去する作業。
アノ日の事を私は考えないように努めた。
主婦の仕事が一段落して、自分の時間が出来てもHなサイト巡りをする事も止めた。
唯一の習い事である、ビーズでアクセサリを作る教室へも頻繁に行くようにした。
そう、私は主婦。
主婦なのだから夫には愛を込めて尽くし、家を守るのが仕事。
(そうよ、それが当然の事でしょ?。
今日みたいに、田崎さんから連絡が来ても)

私は奥に押し込んでいたあのブラとショーツを身に付けながら確認する…… ……。

「さぁさぁ〜〜どうしたの理沙ちゃん〜〜〜早く早く〜〜」
「くっぅ!?」

田崎さんが経営するお店の応接間で…… ……。
昼下がりの午後3時過ぎは延長が無い限り、ここに努める女の子(多くの人妻)が寛げる暫しの合間の時間の筈。
だけど、一室に限り淫猥な音が鳴り続けていた。
無機質な機械音は感情も状況も理解しないまま、ヴィインと細かく上下左右に先端を振動させながら蠢いている。
こういう物がある事は知っていたが、実物を見るのは初めてだった。
私はその根元を持ちつつ、暴れまくる先端に恐怖していたのだった。

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