百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第四章 フィニッシュ技とパートナー1

新人戦から一週間後、亜湖とさくらは久し振りの休みを楽しむ事にした。
丸紫の闇プロレスは休みは比較的自由に取れるのだが、勿論休み過ぎると勝てなくなりやって行けなくなるので、その辺の匙加減も大切だった。
二人は学校から帰るなり事務所に入り、銀蔵に休む事を伝えた。
「買い物か。たまにはここの事を忘れて楽しむのもいいだろう」
銀蔵は言った。するとモニターで試合を見ていた香が、
「私もいいですか?」
と聞いた。銀蔵は、
「いいだろう。二人に興味が湧いたか?」
と言った。香は、
「二人が入門した時から……ね」
とすました表情で答えた。銀蔵は、
「そうか、俺もだ。なかなかの逸材だな。新人戦見ても―――な」
と銀蔵は全く表情を変えずに言った。それを聞いて亜湖は顔を赤らめた。痙攣シーンを見られたかと思うと―――。さくらや社長に見られても恥ずかしいのに…、そう考えると香も見ていた可能性も考えられるが香はまだいい。しかし、男性に見られていたかも知れない、と考えると―――。
銀蔵とは新人戦後は挨拶しかしていなかったので試合を見ていたかも知れない、なんて事は今の今まで考えてもいなかった。
「亜湖センパイ?」
思わず顔をそらした亜湖にさくらが聞いた。亜湖はさくらにひそひそ話で理由を言った。するとさくらは、
「諦めましょうよ、センパイ。下着姿自体は毎日披露してるんですし……。銀蔵さんは社長直属だし、見ててもおかしくないですよ…」
と反省会の時に見せた大胆さは無く、恥ずかしがりながらひそひそ話で返した。亜湖は、
「だよね……」
と溜め息をついた。

香はヒソヒソ話が終わった亜湖とさくらに、
「着替えてくるから待ってて」
と言った。この日は体操服とハイレグブルマというコスチュームだけでなく、試合形式の練習をするつもりだったので、眼鏡を外し、ポニーテールにしていたのだった。


亜湖は白い襟付きのシャツの上に黒い薄手のセーターに赤いミニスカート、さくらは亜湖とは色違いなピンクの襟付きのシャツの上に灰色のジャケットを着て黒のミニスカート、香は縦に線が入ってるYシャツの様なシャツに赤い普段着用のネクタイに黄土色にちかいジャケットと膝下まであるスカートのセットを着ていた。勿論黒髪ストレートのロング+メガネで。
実は香が二人の買い物に付き合うと聞いて一番意外に思ったのはさくらだった。
「でも、どうしてですか? ”私がいる”のに。私の事嫌いなんじゃ……」
さくらが聞くと、香は、
「私がいつさくらは嫌い、って言った?」
と聞いた。さくらは、
「だってあの時―――」
と新人戦から一ヶ月前、亜湖だけを食事に誘い自分を完全に蚊帳の外にし、更にその時から今まで話し掛けて来る事がなかったからである。香はそれを聞いて額に右手を当てて少し呆れた顔をした。
「言ったでしょ? リングを降りたらみんな仲良しって訳には行かないって。あなたを連れていかなかった理由は、試合が近かったから馴れ合いたく無かっただけで、好き嫌いじゃないわ」
と言った。さくらは、
「でも、それじゃ試合後は…」
と言った。香は、
「たまたまよ。会う機会自体少なかったじゃないの」
と言い、この話はそこで終わらせた。とりあえずさくらは嫌われてないという事が分かって安心した。


三人は、というより亜湖とさくらが先導して香はついていく形で、駅の百貨店に向かった。最初に食事をする事にしたが、
「わたしがおごるわ」
と香が言った。香はかなり賭け金額がはね上がる為、ファイトマネーが高くなる。その上に勝率が高いので結果、収入がかなり多い。どの位かというと、今年の学費を払ってしまったがそれで釣りが来る位。(繰り返すが香は私立の進学校、開城学園の優秀な委員長である。)にもかかわらず、香は自分の為の買い物は服や化粧品位なので、こういう機会でもないと使わないのである。
貯まれば貯まったでいいし、その方が税金支払いに困らないから、という事で使う機会が少ない事に関して香は気にしていなかった。

亜湖とさくらは素直に好意に甘えることにした。そして入った店は百貨店の9階にあるフランス料理店。席に着いて、店員を来るのを待ち、ステーキを注文した。
店員は丁寧に応対したが、確かに三人共体は大き目だが、10代後半の女性が本当にこんな量を口に出来るのか内心不思議に思った。正直残されたらかなりもったいない。
ステーキが出てくると三人は食べ始めた。香は上品に、亜湖とさくらは孤児院生活だった為、ステーキ自体たまに、年に一回ないし二回位しか口にしていなかった。その為いざこのような店に来た時、どのように食べればいいか分からなかった。
「香さんのようにやればいいと思う」
亜湖が言った。さくらは頷き、二人は見よう見まねで食べていた。手付きが慣れていないので、ぎこち無かったが―――。
店員が皿を下げに来た。全て無くなっていたので内心驚いた。まさかこの三人が丸紫という所で闇プロレスやってる等夢にも思わないだろう。
体を鍛えている為体のラインはしっかりしているし、さらに腕が太目なのは長袖のジャケットを着ているので分からない。仮に脱いで腕を晒したとしても、体と同様に締まっているので、測らないと分からないかも知れない。測ってみて初めて、え? こんなに太かったの? と気付くかも知れない。
要は服で体を隠してしまえば普通の10代の女性とそんなに大きく変わらない三人が、これだけの肉を平らげてしまった―――。丸紫での練習、試合はそれだけ毎日エネルギーを消耗していたのだった。太ってる暇など無い位。
「毎度ありがとうございます」
外に二人を待たせ、会計を済ませた香が出てきた。
「ご馳走さまでした。ありがとうございます」
亜湖が礼を言うとさくらも続いて言った。
「どういたしまして」
香はそう言って、更に、
「早く強くなりなさいよ」
と続けた。亜湖とさくらは、
「はい、頑張ります」
と答えた。あまりにも二人の声がぴったり合ったので顔を見合わせていた。

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