百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第九章 記念試合に向けて3

一方さくらは洋子と組んで栄子のハイキック対策を―――というより、さくらが栄子のハイキックを受けて耐え、栄子を動揺させる為にハイキックを受ける練習だった。
「じゃ、始めるけど。とにかく顔に当たりそうだったら正面からは受けないでね。気絶するから。受けるなら―――」
と言ってさくらの頬をツンとつついた。
「ちゃんと歯ァくいしばってね♪」
と付け加え、それから早速始めた。洋子はさくらよりも背が低く、155センチしか無いので、踏み台を用意し、それに登ってキックをした。さくらは勢い良く倒れ、頬から肩にかけてを両手で押さえて転げ回った。
「あ……あぐ…」
「言わんこっちゃない〜まあ最初からは出来ないけどね」
洋子は腰に手を当てて首を傾げて言った。
「起きて」
洋子はそう言い、さくらの腕を掴んで立たせ、もう一度ロープに振り、今度は早めに足を上げ、ゆっくりキックした。さくらは、キックを受け、
「ああっ!」
と声を上げながら倒れた。洋子は、また注意した。
「受ける位置はオッケーだったけど今は態と大きく隙を作ったんだからくぐるなりして避ける事」
「は、はい……」
さくらは頬を押さえながら返事をした。

美紗はグラウンド戦の練習に入った。トレーナーに対して技を掛けたり、逆に掛けられたら耐えたり逃げたり返したりした。
その後二人で一人に技を掛けたりする練習をした。特に栄子は体が違う為、なるべく二人で攻撃し、一気に体力を奪うようにダブル攻撃の練習には力を入れた。美紗と亜湖のダブルドロップキックが初めて組んだとは思えないほど綺麗に決まっていた。他にもいろいろやって充実した練習内容になった。


一方香のチームも美紗対策、亜湖対策、そしてさくら対策をするために三人を再チェックしそれに合わせた練習をした。美紗は腕を集中的に狙い握力を奪う。そうする事でパワーボムを封じ、かつ腕が痛ければラリアットも打てない。
亜湖はバックドロップ封じに腰を狙う。さくらに対してはまだ耐性が低いのでとにかく痛めつけて気持ちを折れさせる。そういう作戦だった。基本的にさくらは攻撃対象には入れないものの、自分達の攻撃を邪魔されると具合いが悪い、といった所だった。

香の事を美紗は"タッグが下手"と言ったが、丸紫はタッグ戦自体が少なかった。殆んどシングル戦である。その中にあって個人主義的な香はタッグ戦の経験が無いのは当然だった。
しかし、亜湖とさくらとのタッグ戦を経験し、タッグ戦も悪くはないと思った為、今回のエキシビジョンマッチである六人タッグではきちんと作戦を立て、美紗と亜湖を叩き潰そうと思った。その為に栄子に声を掛けたのだった。

そして練習では仮想亜湖や仮想美紗としてトレーナー相手に練習した。今までより技の入りを早くしかつ、絞め技や固め技はきつく、力を入れて掛けた。栄子の後輩にあたり、身長は低いものの美紗に体格が似ている二期生のトレーナーは思わず痛みに声を上げた。
香はすぐに技を解き、次の技に移った。ロメロスペシャル―――。
しかし、足を固めても手を隠されて掛けられない。そこで香はさくらにやったように背中に張り手を入れた。トレーナーは我慢して手を出さない。次にジュディに背中攻撃をさせた。トレーナーは背中を思わず押さえてしまったので、待ってましたとばかりに腕を取り後ろに倒れ決めた―――。

――― もう一度これを亜湖に決めるチャンスが来た ―――。

ドクン―――そう思った瞬間、香の心臓の鼓動が上がった。


練習ではいい感じだった、香は帰り道でそう思った。まだまだチームとしてはうまく機能していないが、三人がそれぞれの役割を確認できた。
とりあえず、ピンフォールは誰が取るか、というのも栄子は辞退し、カットを防ぐ役に回るといった。リーチの長い栄子に邪魔されるのは美紗達に取ってやりにくいだろう。また、ジュディは亜湖はともかく美紗を押さえる力はまだないと言って、
『カオリよ、ここは』
ジュディはそう言った。

香は部屋に入った後も暫く机に向かってボーッとしていた。疲れた、というのもあったが色々何でもいいから考えていたかった。目を閉じて意味もない事を考えては頭の中から消し去り、そしてまた次の事を、とやっていた―――。



「香!」
栄子が香に手を伸ばした。香も手を伸ばしタッチをし、試合権利を引き継ぐと栄子に髪を掴まれていた人―――亜湖を二人でロープに振り跳ね返って来た所にドロップキックを決め、倒れた亜湖に素早く弓矢固めを決めた。美紗とさくらは場外で倒れているのでカットされる心配は無い。激しく揺さぶり、亜湖は声を上げる―――。



香は目を覚ました。時計を見ると一時間はたっていた。色々考えているうちに眠ってしまっていたのだった。
しかし、今見た夢――― いい所だったのに。そう思った。そして気付いた―――、少し濡れていた事に。香は机に肘をついて額を押さえて自嘲気味にクスッと笑った。自分が今何をしたいのかを考えると、しょうがないな―――私。そういった気分だった。
香は席を立った。帰って来て着替もせずジャケットを脱いだだけでそのままの格好だったのでピンクのワイシャツに赤いネクタイをし、茶色のスカートをはいていた。
ネクタイを外し机の上に置き、次にワイシャツのボタンを一つずつ外した。それからスカートのベルトを引き抜きボタンを外して脱いだ。最後にボタンを外したワイシャツを脱いで、香は下着姿になった。ワイシャツと同じピンクのブラジャーとパンティだった。
香は鏡で下着姿の自分を見た。自分で思うのもなんだが、地味ながら可愛い下着を着けてるな、と思った。多分下着姿が好きな人が見れば、気に入ってくれるだろうな―――と。
脱いだ服は丁寧に畳んで椅子の上に置いた。そしてメガネを掛け直した後パンティを人差し指で直し、それからベッドに潜り込んだ。頭まで布団を被った後、靴下を脱ぎ、それからゆっくりとブラジャーの上から胸をゆっくりと摩った。

香は、布団を被った暗闇の中、手を止めた。そして腹の側だけ少し布団をまくりあげ光が薄く入ってくるようにし、体を仰向けから横に向け、その方向―――胸から太股に掛けてが見えるようにした。それから長い髪に手をやり極端に乱れていないか確認した後再び胸に手をやった。要は自分で見ていたかった―――。
こういう行為も慣れてくると、ただ気持ち良ければいい、というものではなく、こうしたい、とかそういうのが出てくるものなのかな、と香は思った。

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