百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第13章 お嬢様の試練4

美里は早く両親を無くし、親戚中をたらいまわしにされた。そして最後についた人の所では優しく大事にしてもらえたが、その人の事をよく思わない、かつて美里を捨てた人がいて、その人が美里を引き取った事で執拗に嫌がらせをされたことに腹を立て、単身で乗り込み暴行事件を起こした。
その為補導され少年院に入れられ、大事にしてくれた人の所にも居られなく、少年院を出所した後は町中をうろつき、麻薬や売春など闇の世界に染まる所だった。
そこに現れたのがかえでだった―――。薄汚い格好をしていた美里とは異なり、綺麗なドレスに身を包んでいたかえでの姿は眩しかった―――。
「私に付いてくればいい暮らしさせるわよ」
かえでは言った。美里は黙ってついていった。かえでを良家のお嬢様と思ったので―――。
しかしそれは違った。
かえでは捨て子であり、義務教育終了後は、この辺一体を縄張りにしている窃盗団のリーダーだった。かえでの気が強そうな顔を飾る化粧も、プロポーションを引き立てるドレスも、元は皆他人の物―――。金を盗ったのか、ドレスそのものを盗ったのか、それは美里には分からないが兎に角そういう事だった。
しかし、美里にとってはそれはどうでもいい事だった。かえでは実際に美里に良くしてくれたし、仮にこの団が丸ごと逮捕されても、少年院もわるくない―――、あの親戚達にされた事を考えれば何でも良かった。
美里は両親が居た頃は活発だったがそれ以降は暗く無口になっていた。かえでに対しては拾われて直ぐに心を開いたが口数は少ないままであった。

―――かえで様
しかし美里はこう呼んだ。実際にはお金持ちのお嬢様では無かったが、美里にとっては気高く美しい本物のお嬢様―――そんなかえでに対しての最大の敬意だった。

「じゃ、今日は一緒に来て。"お仕事"見せてあげるよ」
かえでは半年後、初めて仕事―――要は狩りの現場に誘った。場所は繁華街、後に亜湖とさくらがヤクザモノに絡まれた所である。
かえではメンバー五人と美里を引き連れ路地裏でターゲットを待ち伏せた。狙いは金を持っていそうでかつ、喧嘩出来そうに無い人―――、オタクや本物の"お嬢様"等だった―――。
「かえで様―――」
美里が指差したのは、背丈はかえでより高い貴婦人風の女性だった。彼女は従者として二人の女性を連れていたが、彼女より背の低かった。
「あれは"持ってる"。上物だよ」
かえでは餌を目の前にした肉食獣の様に目を輝かせて、美里の頭を撫でた。美里は僅かながら笑顔を見せた―――。もう、十年以上も笑顔を見せる事の無かった美里が見せた笑顔だった。それだけ長く見せなかった表情だったので笑い方を忘れてしまったのか、ぎこちなかったが―――。

かえでの一団は貴婦人風の女性と従者をを取り囲んだ。
「さて、持ってる物出してもらおうかしら? ついでにそのふざけたマスクも取ってね」
かえでは手を差し出して言った。女性は、
「どちらも断りますわ」
と言った。かえでは、
「後悔するわよ。こっちは七人いるのが見えない?」
と言った。女性は、
「素人は騙せますが、私は騙されませんよ。五人の男はヤク中ね、闘えるのかしら? だから二人の部下で充分ね。まともなあなた達の相手は私がしますわよ、どうしてもと言うなら―――」
と言った。その言葉を遮るように一人の男が、
「ナメてんのか? 男五人を女二人でヤルってか?」
と恫喝した。それを聞いて女性は、
「気が変わりました」
と言った。男は、
「そうそう、大人しく出すもの出しな」
と言った。女性は部下に、
「男を叩き潰しなさい」
と指示を出した。二人の部下は、
「はい」
と返事し、男達に飛込んで行った。そして女性は一歩前に出て、
「マスクは取るわ―――」
と言って目の周りを覆っていたマスクを外した。かえでは女性の表情を見て体が硬直するのを感じた。
「貴方、入ってはいけない領域かどうか判断つかない様では頭失格ね」
と言った。かえでは動けなかった―――。そう、女性が全身から放つ殺気に呑まれてしまったからであった。
「くっ……」
かえでは後退りした。すると女性は一気に間合いを詰め、かえでの腹に一発入れる動作をし、寸前で止め、更にその後目潰しの寸止めをした。かえでは思わず後ろに倒れた。すると女性は馬乗りになり、今度は平手を入れた。

美里は自分がかえでにこの女性を襲うように進言してしまった事で、男はあっという間に全員やられてしまい、かえでも女性に返り討ちにあってしまった為に、罪の意識に押し潰されそうになってガタガタ震えていた。
かえでは暫く女性の攻撃に抵抗していたが、抵抗をやめてしまった。女性はそれを見て、攻撃を止めた。
「自分の身の程が解ったかしら?」
と聞くとかえでは悔しそうに、
「―――解ったからもう、好きにして」
と言った。女性は、
「なら、好きにさせてもらうわ―――」
と言い、止めの一撃を入れた。かえでは気を失った。
それを見た美里は、
「も、もうやめてください! かえで様が死んじゃいます」
と恐怖に震える足を立ち上がらせ叫んだ。女性は、
「殺しはしないわ―――。貴方も来なさい」
と言った。美里は拒否は許さないというその女性の眼光に、ただ従うしか無かった。
「一応説明しておきますが、気絶させたのは背中向けた時に襲われない為の保険よ」
女性はそう付け加えた。その時部下の二人は、
「この男達ははどうしますか?」
と聞いた。女性は、
「中毒者には用は無いわ。放って置きなさい」
と言った―――。

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