百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第17章 丸紫6

ひかりは銀蔵の部下に何度も倒されて来た。また、銀蔵は厳しいメニューをひかりに課し、蔭で見守っていた。
ひかりは顔に傷を負い芸能界を引退して死のうと思った。バンドのメンバーに背を向けられ全てを失った辛さに比べれば格闘術の辛さ等何とも無かった。

このメイドとは闘った事が無かったが、かつてティラノ斎藤という選手が洋子を気絶させたが、気絶してる洋子をメイドが回復させてる最中にメイドを攻撃した。メイドはすかさずティラノ斎藤に反撃し戦意を喪失させた上で反則負けを宣告した。それをリングサイドで観戦していたのでメイドの強さは身に染みていた。
リングで闘う選手の強さとはまた違う別の強さ―――、暗殺術といえばいいだろうか、それをメイドは持っていた。

ひかりはメイドの攻撃を弾いたりガードしていた。メイドも攻撃が当たらない事に少し焦りを感じた。選手相手ならもうとっくに倒している―――。
メイドは左回し蹴りを放った。ひかりは少し右―――メイドの蹴り足の方を向き、右腕と額で受け、そのままメイドの足を押さえて倒した。そして馬乗りになり、メイドの首筋に手刀を入れる体勢になった。
メイドは抵抗を止め、完全に敗北を認めた。銀蔵はそれを見て、
「ここまで。強くなりましたね、ひかりさん―――。いや、新社長」
と言った。ひかりはふぅ、と息を吐き立ち上がろうとした。その時メイドが少し体を動かしたので止めを入れ、気絶させた―――。最後の止めは無意識だった。
「どうですか? 感想は」
銀蔵が聞くとひかりは、
「こういうのも悪くないわね」
と笑顔で答えた。銀蔵は、
「最後の止めも見事でしたよ」
と言った。その表情は笑っているようにも見えた。


ひかりは社長就任後、丸紫を株式会社化した。ひかりが社長、銀蔵が専務、前社長とレフリーのメイドが取締役の会社になった。
最初は繋ぎでやっていた不動産業が軌道に乗り、新しいマンションを建て、その地下―――、つまり現在の場所に闇プロレスの事務所を移し、不動産業の事務所と切り離した。
そしてプルトニウム関東ら2期生が入ってきて、やや固定化してきて賭けが停滞して来た所だったが活性化された。
潰し合いの試合をしながらも今に比べると善玉悪玉というカテゴリー色が強く、そういった抗争もあった。レフリーが危険にさらされたりする事もあったが、レフリーのメイドはそれを許さなかった。
また、社長が自らその選手を呼び出し、注意をする事もあった。プルトニウム関東はその一人である。後に、
「社長に殺されると思った」
と溢したが、社長は社長就任を機に更に暗殺拳の腕と闘気を研き、選手を圧倒した。曰くつきの人を選手として雇うのだから、と銀蔵は言っていたが、メイドに勝ってからは特に他を圧倒する闘気が出るようになった。
社長になって表に出るようになったので、整形したとは言え僅かに残るアイドルの面影と、溢れ出る闘気を隠す為に銀蔵は社長に蝶のマスクを渡した。この時から社長は素顔をあまり見せなくなった。

社長や銀蔵にとって想定外の事が起こった―――。
社長20歳の時、丸紫の門を叩いた人がいた。この一帯で暗躍する窃盗団を潰し、そのリーダーのかえでと部下の美里を丸紫に入れた日だった―――。
今までは、ついさっき入れたかえでと美里を含めて、何かしらの訳有りの人が入って来た訳だが、その人は違った。
現役の生徒会長だったからだ。しかも入って来た理由が、"面白そう"だから。
社長は生徒会長と会った瞬間に危機感を感じた。しかし、それを表に出せば舐められる。自分が今まで他を圧倒する事によって得られた丸紫の"秩序"を崩される訳には行かなかった。
「遊びで首を突っ込むと痛い目にあうわよ」

社長はそう警告した。しかし、生徒会長はニコッと笑って、
「やるからには頂点目指しますから」
と答えた。社長は、
「退学になっても知りませんわよ」
と言ってマスクを外し、闘気を出した。流石に生徒会長もその闘気には恐怖を感じた。その為気休にしかならないが闘気をそらす感じで右足を引いて左半身で左腕で防御の姿勢を取った。
しかし、出た言葉は社長を恐れるものでも、選手にはならずに家に帰るというものでも無かった。
「笹山……忍……?」
社長は一気に間合いを詰めて生徒会長を押し倒し、馬乗りになり、喉元に手刀をつき立てた。左手は生徒会長が床に頭を打たないように生徒会長の頭の下に添えていた。
「……図星……?」
生徒会長は驚きの表情を見せた。社長はいつでも止めを刺せる体勢のまま、
「いかにも―――。あなたが初めてよ。聞いてきたのは」
と答えた。そして、
「こんな体勢でも命乞いをしない―――。その度胸に免じて入門許可しましょう」
と言い、生徒会長から離れたが、起こさなかった。生徒会長は自分で起き上がり、制服をパタパタと叩いた後、満面の笑みで、
「ありがとうございます。でも起こして下さいよ」
と言った。社長は、
「フフッ、あなたは手を借りないと起きれないタイプではないわよ。先が楽しみね」
と答えた。生徒会長に肩を貸すのはその瞬間に攻撃される危険を本能的に感じたのでしなかった―――。こんな事は他には現在まで無かった。
生徒会長より先輩は勿論、後に入った良、美紗、香―――この三人も社長には恐れを感じた。亜湖とさくらは言うまでも無い。しかし、生徒会長には闘気に圧倒されたものの社長という人間を恐れるという感覚が無かった―――。社長は、そしてその場にいた銀蔵も感じた事は、

この娘は感情が一部壊れているのではないか。

という事だった―――。

要は危険人物。その世界に身を置いたなら解る感覚。
「一つ聞くわ。何故生徒会長になったのかしら?」
社長はそう聞いた。生徒会長は、
「楽園を造りたいから―――」
と何の恥ずかしげも無く笑顔で答えた。この答えで社長も銀蔵も確信した。

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