百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律12

半月後―――。
「亜湖、さくら。早く服着て来なさいよ」
いつも通り下着姿でいる亜湖とさくらに香が声を掛けた。香は綺麗な服を着て髪もシャワー浴びた後しっかりブローしてロングヘアーは整えられていた。
「私的にはそのままがいいけど、外それで歩いて警察に捕まりたくないでしょ?」
香は少し体全体を横向けて右肩で壁に寄り掛り、目を伏せて眼鏡を直しながら言った。亜湖は、
「ちょ、ちょっと待ってください」
と言って顔を赤くした。さくらも、
「香さんは嫌らしいです」
と言った。香は、
「私だけじゃ無いわよ……」
と呟いたが続きを言うのは止めた。みんなにエロ担当なんて思われてるなんて―――。楽しむのは自分だけでいいのである。
香が亜湖とさくらを誘うのは久し振りだった。馴れ合う気は無いがたまには悪くない。かえでを確実に仕留める為にガス抜きは必要だった。その息抜きの相手にはおとなしい亜湖やさくらはピッタリだった。
丸紫はかなりピリピリしていて香も疲れるのだ―――。良にかえでに美里にふっかけまくってしまったのはそれもあるかもしれない。一気にふっかければ自分にプレッシャーにもなる―――。
亜湖とさくらが色違いでお揃いの可愛いジャケットとミニスカート姿で来ると、
「遅いわよ。お互いに下着の鑑賞会したいのは分かるけど」
と言った。さくらは、
「してませんよ……」
と言い、亜湖は、
「―――なんでこんなに誘ってくれるんですか?」
と聞いた。香は、
「前に言わなかったかしら? 退屈しないからよ。試合で痛め付けるのも一緒に食事するのも―――」
と笑顔で答えた。亜湖は、
「どっちも、ですか……」
と言って顔を赤らめた。香とのシングル戦では相当やられたし、今でもはっきり覚えてるからである。香は、
「ま、一区切りしたらあなたとはもう一度やりたいわね。この前の借りを返さないとだし、羽富達に負けたのは許せないから」
と言った。亜湖は顔を赤らめて香から視線を反らし、
「もう、ブラを取るのはやめてください……」
と言った。香はクスッと笑い、
「あら、それが面白いんじゃない」
と言ってさりげなく亜湖の懇願を拒否した。そしてさくらに、
「あなた、羽富に勝ちなさいよ。負けたらシメるから」
と言った。さくらは、
「勝ちます。センパイに恥かかせて許せませんから」
と言った。そうして話しているうちに目的地のレストランに着いた―――。

かえでは美里達を連れて食事とショッピングに出掛けた。
かえでは黒を基調としたドレスを着て化粧と髪は完璧に決めた。周りからは暑苦しそうにも見えたがかえでは涼しそうな顔をしていた。
美里は表情は瞼が重そうないつも通りの無口系だが、頬を明るく少し赤目に化粧し、髪型はシニヨンではなく背中に下ろし香の様な綺麗なストレートロングにした。服装はシャツにジーパンといったラフな格好だった。
恭子と好美は20代中盤のかえでと美里とは違い、現役女子高生らしく明るく可愛らしい格好をし、化粧も控え目な美里より更に抑えていた。それでも非常に映えていた。

かえでは闇プロレスで体を鍛えているのでややウエストと腕が太いが、それが全く気にならない程のプロポーションを持ちその上身長も167cmと平均よりかなりあり、更に今は踵の高い靴を履いているので更に際立った。それに加えて美人であるかえでは街に出れば相当目立つ人であった。しかし、かえでに声を掛けて来る人は皆無だった。
というのは、裏の世界を知らない普通の人の場合、かえでは美人でスタイル良くてドレスが似合う高値の華―――。並大抵の男では釣り合わない、負けてしまうという意識や、これだけ派手な衣装を着ているのだから普段からブランドや高級料亭を好むといった散財癖があり、仮に彼女に出来たとしても後で非常に苦労するのではないか―――。そう考えてしまい誰も声を掛けられなかった。
一方裏の世界に身を置く者もかえでに声を掛ける事は無かった―――。かえでの指揮した窃盗団は丸紫の社長によって潰されてしまい、その事は一帯の闇の人間に知られる事になった。かえで自身はその為自分達が丸腰で放り出されれば闇の人間にチャンスとばかりに潰される、丸紫にいるから無事なのだと考えているが、かえでのグループは少人数ながら一定の勢力を持っていた事、そして当時部下だった男達何人か出所し始め、かえでとの接触を図っている等の動きがある為に裏の世界の人間は互いに牽制しあい、かえでの動きを見ている事―――。また、かえでが丸紫に身を置いている為に誰も動きが取れないというのがあった。丸紫の社長の影響力はそれだけあった。

かえで達はちょっと洒落た喫茶店に入りティータイムにした。
「かえで様は彼氏作らないんですか?」
メニューを注文した後恭子が聞いた。かえでの容姿やスタイルを知れば当然抱く疑問であり知りたいと思うのは当然だった。しかし、それを聞いて美里が制した。恭子は美里の態度を見てかえでを不機嫌にしてしまったと思い謝ったがかえでは紅茶を飲みながら、
「いいのよ」
と美里に言った。そして恭子に、
「作る気は無いわ」
と答えた。恭子と好美はその答えに勿体無いと思った。かえでは二人の表情からそう思ってる事は解った。その上で、
「"彼女"って"彼の女"って書くわよね? 私は彼の物になる気はないわ」
と答えた。恭子と好美は妙に納得してしまった。かえでは周りを引っ張る親分肌―――、誰かについていって尽したりなんて似合わないと。かえでは更に、
「ついでに言っておくと、丸紫にも彼氏持ちはいるわよ」
と言った。恭子と好美は驚いた。
「え? 誰ですか??」
と聞いた。二人の言葉が妙にハモった。かえでは、
「エーコさんよ。あと今は別れたけど草薙にも居たわ」
と答えた。二人はその答えに絶句した。
「兎に角、私の彼氏なんかになったら後が大変だから、変な考えは起こさない方が利口よね。まあその気は無いわ―――」
かえでは澄ました表情で紅茶を飲みながら言った。美里はその言葉に納得していた―――。




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