母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 秘密の代償7

「……? お、終わった?」
 まさみが意識を取り戻した時には、龍一の怒張はすでに抜かれていた。
(どうなったの? わたし、気絶していた?)
 お腹の上に、大量の白濁液が巻き散らかされている。身体を捩ると、臍の窪みに溜まったザーメンがドロリと脇腹を這った。
(出されなかったんだ……、中に……)
 中にだけは出されたくなかった。まさみは、お腹を伝う白濁液を見て切ない安堵をした。

 ゆっくりと頭を上げるが、まさみは決して龍一と目を合わせようとはしない。
「これで、秘密……守ってね。これっきりにしてね……」
 俯いたまま、ボソボソと呟くように言う。身体を許してしまった後悔の念と、これで秘密を守れる安堵感の入り混じった複雑で重い気持ちが声を低くさせる。一方、まさみの願いに答える龍一の声は、憧れのアイドル・星野奈緒を凌辱した満足感からか軽やかだった。
「これっきり? 何言ってんだい、明日もだぜ。今日のところはこれで終りにしてやるがな!」
「えっ!?」
 願いと期待を裏切る龍一の言葉に、ままみは振り返り龍一を見た。
「誰が一回だけだって言った。これからは、俺が呼べばすぐ飛んでくるんだ、いいな!」
 まさみの瞳に写った龍一の顔は、口元を吊り上げニヤッと微笑んでいた。
「ひどい……」
 落胆するまさみの横で龍一は、まさみの携帯を操作している。携帯の番号を確認し、自分の携帯に登録していた。

「それにしても、二度目で逝くなんて、さすがに淫乱だな。気絶するほど良かったのか?」
 番号を登録し終えた龍一が、まさみの方に視線を向けニヤリと口元を歪め言う。
「え?」
 まさみは驚きに目を丸くする。
「俺のチ○ポと奈緒のマ○コ、相性が良いみたいだな。感じまくってたぜ、お前……」
「うっ、嘘よ!! 感じてなんかいない! 相性なんか良い訳ない!!」
 まさみは語尾を強め否定するが、頭の中では龍一の言葉が引っ掛かっている。
(逝った? わたしが? それで……気絶したの?)
「初めてじゃあ判らねえか。あれが逝ったってことだよ。白目剥いて気絶してたんだぜ」
 まさみには、龍一の言葉も耳に入っていなかった。『逝った』と言われたことがショックだったのだ。記憶をたどっても途中までしか思い出せない。繰り返された得体の知れない浮遊感と堕落感、白濁し失った記憶。
(あれが逝ったってことなの? こんな卑怯な男に抱かれ逝ったの?)
 まさみは初めてのエクスタシーに戸惑い、悔し涙をシーツの海に落とした。

 服を着、帰ろうとするまさみを龍一が呼び止める。
「今日からこれを飲んでおけ」
「なに?」
 差し出されたのは錠剤だった。
「心配するな。変な薬じゃない、ピルだよ。妊娠したくないだろ? やっぱり中出しじゃあないとな。ふふふ……」
 明日からは中出しをされる、渡された薬はそのことを意味する。まさみは絶望感に押し潰されそうだった。
(先生、わたし……どうすればいいの?)
 昨夜はバージンを失い、今日は初めての絶頂を奪われてしまった。一年後には、幸せの中、先生と体験するはずだった。
 ピルを受け取るまさみの顔には、困惑の表情がありありと表れていた。
「いまさら後悔してるのか? 逃げるなら、いくらでもチャンスはあったはずだぜ。なのにお前は逃げなかった。俺に誘われるまま、こもまで付いて来た。自分から服を脱いだ……」
「あなたが!! そう仕向けたんじゃない!」
 まさみの反論を無視し、龍一は喋り続ける。
「俺に抱かれることを選び、そして感じてた。気絶するほどな。後悔しても、もう遅いぜ。ふふふ……」
「くっ! ……」
 まさみは、唇を噛んだ。

 すっかり日が暮れ、街灯の明かりと通り過ぎていく車の騒音がまさみを包む。失意の中、まさみの足取りは重い。地面に落ちる涙を不思議そうに見る街の人たちの視線にも気付くこと無く、まさみは帰って行った。
(耕平には感謝しなくちゃな、本当に……。耕平のお陰で、こんなにいい女を抱けたんだから……。妹じゃなくて良かったぜ、奈緒が……。妹ならこんな酷いことできねえからな……)
 奈緒を妹みたいに思っていた自分が可笑しくなった。抱くことにより、妹みたいに思っていた娘は、一人の女になった。そして龍一の胸の中で、耕平に対する黒い感謝の気持ちが渦巻いていた。

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