母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 突付けられた罰8

「こんな話するなんて変だよね、親子なのに……。でも、誰にもいえないから、先生にも……」
 胸の痞えていたモヤモヤが取れたかのような、ほっとしたまさみの口調。
(正直な娘なんだな、秘密が作れない……。何とかしなくちゃ)
「やっぱり……親父に相談しよう。親父なら許してくれるよ、警察に行こう」
 耕平は、まさみの肩を揺すり言う。
「だめえ! 先生に嫌われちゃう。こんなはしたない娘だと知られたら、嫌われちゃう……。芸能界も辞めなくちゃいけなくなっちゃう……。先生も、この家も芸能界も、耕平君も……、みんな好き。無くしたくない、温かい家庭、帰る家は欲しいの……」
 まさみが耕平に向けた瞳には、切なる願いと強い意志が籠もっていた。
「まさみの両親は……?」
 まさみの強い意志に押され、耕平は恐る恐る聞いた。
「耕平君には話してなかったよね、わたし……、ママしかいないの。ママだけに育てられたの。パパは生まれた時から知らない……」
 まさみが耕平に、自分の生い立ちを話すのは初めてのことだ。
「学校に行っても、いつも一人だった。みんながお父さんの話をすると、私はいつも蚊帳の外……。ママね、水商売してるんだ。私が家に帰ると、ママは仕事に行く……。でも、ママ、優しかったよ。疲れてるのに、わたしの為に朝ごはんを作っては一緒に食べてくれる」
 華やかなアイドル・星野奈緒しか知らなかった耕平は、片親と言う共通点を見つけまさみに親しみを感じる。
「そのママも、私が芸能界に入った時、もう会わないって……。家族が水商売してるって知られたら、わたしの芸能生活に支障が出るって……。だからもう合えないって……」
 まさみの瞳に、本当の肉親に合えない切なさが影となって射す。
「でも、先生がわたしのこと、いつも気に掛けてくれた。芸能界に入りたいことも先生に相談したし、反対してたママを説得してくれた。テレビで失敗して落ち込んでる時は、慰めてくれた」
 耕平の父親・浩二への想いを再確認するように喋った。
「なんかいっぱい喋っちゃったね、わたし……」
 まさみは、ニコッと微笑んだ。作り物ではない、心を許した者にだけ見せる安堵の笑顔。秘密を共有してることが、耕平に対して今までにない親しみを覚えさせたのだろう。まさみは、耕平に生い立ちから先生と知り合った経緯まで色々と話した。
(本当は十七歳の普通の女の子なんだ、お喋り好きの……)
 耕平に芽生える新たな好感……、脚光を浴びているアイドル・星野奈緒の意外な一面を見た気がした。まさみの魅力が、耕平の心に侵食していく。何とかしなければと言う思いが強くなる。
「ありがとう、心配してくれて……。喋ったら少し気が楽になった。ゴメンね。こんな話、聞かせちゃって……」
 ふうっとまさみは、大きな溜め息を吐いた。心に重く圧し掛かっていた蟠りを解き放った開放感に、まさみは浸る。リビングには、穏やかな静寂が戻ってきた。



 深夜、耕平は龍一から渡されたDVDを思い出す。まさみも父親も、もう寝ただろう。見るべきか無視するべきか悩んだが、悪い予感を好奇心が上回る。耕平は、恐る恐るディスクをパソコンにセットした。

 画面にまさみの裸体が映し出される。それは、龍一に凌辱されるまさみを記録したものだった。もう一回戦が終わった後なのだろう、まさみはベッドの上でぐったりとし、白い肌が汗に輝いていた。

 龍一が縄でまさみの手を頭の上で縛り始めた。
「どうして縛るの? ちゃんとあなたの言う事聞いてるじゃない」
 まさみの手が、頭の上でベッドのパイプに縛られる。
「今日はビデオ撮影しようと思ってね」
「酷い! ビデオに撮るなんて……」
 まさみは身体を捩り逃れようとするが、縛られた両手は外れることはなかった。
「もうビデオ、回ってるんだぜ。ほらっ」
 画面が大きく揺れた。そして、まさみをアップで映し出す。龍一が隠しておいたビデオカメラを手に取ったのだろう。

「よっ、奈緒! 久しぶりだな」
「えっ!?」
 声に驚いたまさみがドアの方に振り返る。まさみの視線を追うように画面が移動する。そこにはプロ用カメラを構えた小林龍彦、龍一の父親・龍彦が立っていた。龍彦は、にやっと笑いまさみに向かって言う。
「プロに撮って貰えるんだから、感謝しな。綺麗に、いやっ、嫌らしく撮ってやるからよ」
 映像が鮮明になった。ここからは、龍一のオヤジが持っていたプロ用カメラの映像なのだろう。毛穴まで見えそうなくらい鮮明な画像へと換わった。
「いやっ、出て行って!! いやあ……」
 悲鳴を上げ身体を捩る。まさみの豊かな肉球がブルンブルンと揺れる。
「大きくなったな、オッパイが……。あの頃も、歳の割には大きい方だったがナ。楽しみにしてたんだぜ、お前のヌードを撮るのをな!」
 まさみは、三年前、初めての水着写真集を撮った時のことを思い出す。カメラマンの龍彦に、厭らしいポーズを要求され泣き出したことを……。
「いやああ……! で、出ていって!!」
 まさみは大きな声で叫び、龍彦から顔を背けた。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊