母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 枯渇を満たすもの4

「はあ、はあ……。逝けなかったのか?」
 耕平はまさみの上に身体を預けたまま呟くように訊ねた。
 テクニックは龍平とは比べる由もない稚拙なセックス。しかし、一生懸命な耕平のセックスがまさみには嬉しかった。
「ありがとう……。気持ちよかったよ」
 冷静な口調に、まさみが逝けなかった事を耕平は悟った。
「ゴメン、俺、まさみを逝かせられなくて……」
(もう……龍一にしか感じない身体になってしまったのか? まさみ……)
 耕平は、悔しさに唇をかんだ。耕平の目から、悔し涙が一粒落ちた。見上げるまさみには、星がキラリと光り流れたように映った。
「ううん、気持ちよかったよ。本当だよ」
 まさみは、耕平の身体に抱きついた。耕平を傷つけまいとするまさみの優しさが、耕平の胸を締め付ける。耕平もまさみの身体をギュッと抱き締めた。まさみの双乳が押し潰され、身体の密着が増す。

 まさみは繋がったまま、耕平の胸に顔を埋めた。
(耕平君の胸、温かい……。こんなに速い、耕平君の心臓の音……)

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……。

 耕平の胸の鼓動に、まさみは耳を傾けた。
(こんなに一生懸命動いてくれたんだ、心臓がバクバクするほどに……。わたしの為に……)
 胸がキュンッとする。
(耕平君……、いつも私の話を聞いてくれた。私の我が侭に付き合ってくれた。……いつも見守っていてくれたんだ)
 二人の鼓動は、お互いに共鳴するようにまさみの子宮に、耕平の怒張に大きな波となって響いた。

 膣がギュッと締まり、締め付けに促され耕平の肉径が再び太さと硬さを取り戻す。
「はあ、なっ! 何か来る!!」
 今まで感じたことの無い未知の波が、お腹の奥深くで蠢きだした。膣が脈動するように締まり、自らGスポットに刺激を与えるように耕平の棹に絡みついていく。
「ああんっ!! 耕平君のおチン○ンが……私の膣を押し広げてる!!」
「あうっ! まさみのマ○コが……締め付ける!!」
 耕平の怒張は硬さを取り戻し、反り返りカリ首でまさみのGスポットを突き上げる。
「ああっ、あんっ……、ああ、あああ……」
 二人は一緒に声を上げた。耕平は、身体をガクガクと震わせ仰け反り射精する。そしてまさみは、耕平の下で身体を震わせた。
「はうっ! ああああああぁぁぁ……!!!」
 まさみの喘ぎ声は、耕平の射精の間続いた。

 龍一とのように激しくはないが、温かいものに満たされた心の奥に響く深く重い官能だった。
「はあ、はあ、はあ……。逝っちゃった……、耕平君で逝っちゃった……」
 エクスタシーに達したことを告げるまさみの顔は、嘘の無い満足感に溢れた優しい笑みを浮かべていた。

 耕平が閉め忘れたドアの隙間から、まさみの至福の笑顔と声が先生に届いた。
(まさみ……、十分に女になっていたんだ……)
 まさみのエクスタシーを見届けた先生は、音がしないよう静かに自分の部屋に入った。そして、引き出しから、妻の写真を取り出す。
「一ヶ月ぶりかな……。お前と会うのも……」
 まさみが来てから、引き出しの奥に仕舞われていた写真。フォトスタンドの中で、妻はいつもの微笑を浮かべていた。
「これでよかったのかもしれない……。耕平とまさみが結ばれて……」
 先生は、ふうーっと大きく息を吐いた。



 数日後、耕平が見詰めるテレビ画面の中で星野奈緒の会見が行われていた。そう、引退会見だ。
「私……、結婚します。ファンの皆さん、ごめんなさい」
 記者達の驚きの声の中、奈緒の会見は進んでいった。明日のスポーツ新聞の一面は決まりだな……、そんなことを考えている耕平の後ろで、父親が手に持ったグラスの水割りの氷がカランッと音を立てた。

おわり


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