黒い館
けいもく:作

■ 2.ハーレム1

 目が覚めると、そこは、確かに見覚えのないところでした。いつの間にこんなところに来たのか不思議な気がしました。

 近くに建物がありました。黒いレンガ造りのアンチークさを感じさせる洋館でした。屋根まで黒く塗られていました。山ののどかな風景に異様な建物が聳え、魔物の巣窟といった様相を呈していると思いました。

 わたしは空腹でした。周囲は薄暗くなって道もわかりませんでした。人がいるなら助けを求めなければなりませんでした。気味の悪さを感じながら扉をたたきました。

 そして、中からあらわれた男にある種の眩暈を覚えました。その男こそ、夢の中でわたしの身体を蹂躙した男だったのです。

 もし、わたしに十分な体力が残されていれば、そのまま逃げ出していたかもしれません。しかし男は、夢とはちがい、優しげでした。笑顔でわたしを部屋にいざないました。

「道に迷ったのですか、怪我もされているようだ。夜の山道は危険だから、一晩ここで泊まって、明日、帰ればいい。駅までおくりますよ」

 そして「裕美」と大きめの声で呼びました。

 隣室からあらわれた裕美さんは三十代半ばくらいでしょうか、背が高く、すっきりした目鼻立ちは、どこか西洋的な雰囲気を漂わせる女性でした。

 白いシンプルなブラウスにミニスカートをはいていました。ブラジャーは着けていないようで、豊満な乳房の線と乳首が透けて見えていました。

「あまり見つめないで」
 裕美さんは、笑いました。
「ここにいる女の制服みたいなものなの」

 男は、「ハハハ」と何事もないように笑いながら、「こちらのお客さん、恵子さんでしたね。夕食をお出しして、俺と同じものだ」

 裕美さんは、「ハイ」と返事をして別の部屋に消えていきました。

 男は、私をソファーに座らせ、自分もゆっくり腰を下ろしました。古びた、それでいて清潔感だけは、たもたれたソファーでした。

「最初にことわっておきたいのだが、君がこれから見ること、体験すること、すべてが異常だと思うかもしれない。でも、ここではそれが普通の生活だということをわかってほしい」
 男は涼しげな眼をしていました。

「ここではね、おれを含めて、全部で六人が生活している。男はおれひとりで、あとはすべて女だ。いってみれば、ハーレムみたいなものかな」
 男は笑って見せました。

 私に恐怖心を抱かせないようにと配慮しているのだと思いました。

「でも君はお客様だ。君には何もしない」

 いつの間にか、裕美さんはまた戻ってきていました。「あうん」の呼吸というものでしょうか。

「第一、おれは女に飢えていないのでね。君は疲れているし、空腹でもあるようだ。ゆっくり、ここで休んでいけばいい」

 それだけ言うと、男は、傍らに立っている裕美さんを振り返りました。

 そしてブラウスの前ボタンをはずし、手を差し入れ、豊かな乳房をわしづかみにしました。

 突然だったので、裕美さんは少し驚いたようでしたが、拒みはしませんでした。わたしにはむしろ乳房を前に突き出したように思われました。

 男は、ブラウスを肩からはずし、裕美さんの上半身をあらわにしました。そして、今度は、乳首に口をつけて吸い始めました。始めはおいしそうにすっていたのですが、やがて大きく口を開けて、乳房ごと飲み込むようにしたとき、

「ウーッ」

 じっと立って、されるままになっていた裕美さんの低いうめき声が聞こえました。表情も苦しそうでした。どうやら、男は歯を立てているようでした。

 やがて、男の口が離れた乳房に歯形のようなものが残されているのがわかりました。

「裕美はね、ちょっと年増だが、なぜか、この胸を吸っていると、気が安らぐんだ。母性を感じるような気がしてね」

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