黒い館
けいもく:作
■ 6.愛子さんと香子さん2
鞭が、愛子さんの白い乳房を、少しばかりピンク色に染めるのは、仕方のないことでした。
愛子さんは、乳首をお館様に吸われたまま、恥ずかしそうに、それでいてはっきりした声で「1」と言いました。それは、この館では、鞭を打たれる女が、声に出して数えることになっている、打たれた回数でした。愛子さんは、驚いて自らの役割を忘れてしまったようでした。
その間の抜けた言いざまに、お館様は、愛子さんの乳首から口を離し、おかしそうに笑いました。
そして愛子さんが、再び頭の上で手を組むと、お館様は乳房をめがけて鞭を下ろしました。
「2」
愛子さんは、数え忘れませんでした。
「堂々としたものだわ」
裕美さんが小声で言いました。
「愛子さんね、初めて胸を打たれた時、よほど痛かったのかな、3発めでギブアップしちゃた。目に涙をためて、『もう、許してください。カンニンしてください』って、その場に座り込んじゃった」
お館様は、ふたたび、愛子さんの乳房を手で触り、調べていました。たとえ鞭で打つという行為と反していたとしても、愛子さんの乳房は、お館様にとっても、大切なものだろうと思いました。
「それで」
わたしは裕美さんに話の続きをうながしました。
「お館様とわたしが相談してね。テーブルに愛さんを仰向けに寝かせて、ロープで縛ろうということになったの。そうすれば、泣こうが叫ぼうが鞭打ちは続けられるでしょ。それでわたしが、ロープを持ってきて今から身体を縛るからって説明したの。そうしたら、愛子さん、首を振って嫌だと言った。走って、わたしから逃げようとするの」
裕美さんは笑いました。
「愛子さんかわいそう。それでどうしたのですか?」
「何もしなかった。ここでは、女性は何も強制されない」
裕美さんは、あまりに逆説的な言い方をしました。この館では、ひとりのサディストのために五人の女性が身体を犠牲にしているのも事実でした。
「だけど」
「ほんとうに何もしなかった。私はただ持ってきたロープを元の場所に戻しただけ。
お館様は、そのまま裸の愛子さんをひざに乗せて、おっぱいをなめていたかしら。鞭打ちから逃げられたことなんか忘れてしまったかのように、愛子さんのおっぱいって大きいでしょ。男の人にとってはさわっているだけで気持ちいいのかな。吸ったり揉んだりしながら、女の身体ってそんなふうに遊ばれているだけでも感じるようになっているのよね。半開きの口から『あんっ』とかいう声が漏れてね。お館様は、単純に愛子さんの身体を楽しんでいた。
でも、それ以上は何もしなかった」
「それならば」
今の愛子さんは、と思いました。
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