黒い館
けいもく:作

■ 8.トイレはのぞき放題1

 車は、館から山道を2分くらい歩いたところにありました。たぶんその間隔が館を通常の社会から閉ざされた世界にしているのだと思いました。

 愛子さんと真菜ちゃんが送ってくれました。

「真菜ちゃん、卒業認定試験って、大検ね、合格したのよ、3日前に合格通知が届いたの」

「うち、お金持ってなかけん。みんなで応援してくれて。愛子さんも買い物のついでに参考書買ってきてくれたとよ。裕美さんって、英語とスペイン語がペラペラなんよ。お館様は、数学を教えてくれると言っていたけど、こっちは当て外れだった」
 真菜ちゃんは笑いました。

「うち、博多じゃあ、非行少女だった。ちょっとは、有名だったとよ。10人くらいのグループのリーダーだったから。

 ある時、三人の男がね、突然、取り囲まれたと思ったら、車に乗せられて、空いた倉庫に連れ込まれて、三日二晩レイプされ続けたわ。ちょっとでも、いやだというと、サンドバックみたいに殴りよると。スケ番気取りといっても、男3人が相手では、手も足もでんかった。

 でもレイプされながら、ここから出たらこいつらに仕返しをしてやると思い続けていたとよ。

 三日目の朝にね、女が二人やってきた。その頃には、うちはぼろ雑巾のようにされとった。倉庫の中の埃はくっつくし、すき放題、殴られて、全身をあざだらけになって、おしっこも垂れ流しやったから、臭かったのかな、男達。うちの身体に触れんようになって。でもうちは、殴られるから、男のいいなりになるしかないし。

 その二人の女、男のものをほおばるうちを見て笑いよった。そいつら、うちの子分やった。

 うちは、裏切られとったと。その時、うちにはレイプしている3人にも、子分の二人にも仕返しする力がなくなっていることに気づいた。

 それで、高校にも行けんようになって、もともと、親が嫌いで非行に走ってしまったごとあるけん、家出してフラフラしとったらここに着いていた」

「お館様なら、少しぐらい臭くても、平気な顔をしているけどね」
 愛子さんが言いました。

「あのひとは、ヘンタイだから」
 真菜ちゃんもさっきまでの話しぶりを忘れたような笑顔を見せました。

「ねえー、トイレのはなし」

「あれ、恥ずかしい」
 真菜ちゃんが、下を向いてしまいました。

「館には、一階と二階にトイレがあるでしょ。もちろん、扉はあるのだけど、どちらにも鍵は、付いてないのよ。わたしたちが排泄するところをお館様が、自由に見たいからって、付けてないのだって」

「ほんとう、スケベー親父が、何を考えているのだか」
 真菜ちゃんは、お館様の悪口を露骨に言いました。でも顔付きは、必ずしも怒っていませんでした。

「それで、みんな、おしっこぐらいは仕方ないか、というより、便所に行くところを付いてこられたらしょうがないでしょ、と諦めていたのだけど、さすがにうんこをしているところは見せたくなかったの。

 それで、みんな、お館様が寝ている時間なんかに、こっそり、済ませていたの。でも、みんなが、隠せば隠すほどよけいに見たくなるのがお館様のようで、見たいのに誰にも見せてもらえないから、フラストレーションがたまったのかな」

「裕美さんにでも、素直に、『うんこするところを見せてもらえないか』と頼めばいいのに、お館様って、妙なところでプライドがあって、そういうことが言えないのよね」

「それは、むりよ、本人はストイックなサディストを気取っているのだから」

 愛子さんは、ハンドルを握りながら話を続けました。

「それでね、現在、二つあるトイレを一つにすれば、気付かれない間にうんこをすることが、できなくなるのでは、と考えたらしいの。それで、二階のトイレを使用禁止にしようとしたの。これには裕美さんが『女は、排泄に時間がかかるのよ』と言って、反対したから、親方様の目論見どおりにいかなかったのよ」

「それで、ドアにあげな貼り紙をはられた」

「そう、執念というか、手を変えてきたのね。その貼り紙、『このたび、住人各位の健康管理のため、便の調査をすることとなりました。つきましては、大便をする際には、あらかじめ届け出てください』と書いてあったの」

「うち、裕美さんに、『どげんしたらよかと』と聞いた。そうしたら、裕美さんが、『ごめんね、真菜ちゃん、どうせ1週間もすれば飽きるでしょうから、しばらくは、お館様のやりたいようにさせてあげてくれない』裕美さんに言われたらしょうがなかたいね」

「こうなりゃあ、女は度胸よ、と思って、わたしが最初に『うんこします』っていいに言ったの、そうしたら、クックック」

 愛子さんは恥ずかしさとおかしさが、こみ上げてきてこらえきれないような笑い方をしました。

「敵もさる者、チェックシートまで作っていて、日付に時間、便の量(約何グラム)硬さや色まで書き込み項目があったわ。まったく、医者でもないのに、スケベーもそこまでいくとね。

それで、狭いトイレに二人で入って、わたしを便器に座らせて、まず、ブラウスのボタンをはずせというのね。さすがにそんなことは関係ないと思ったけど、魂胆が見えみえだしね。わたしの身体を好きなときに触ったり舐めたりできるようにしておきたかっただけだもの。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊