黒い館
けいもく:作

■ 9.初恋とSM1

 扉をたたけば、中からお館様が姿をあらわしました。寄り添うような裕美さんの姿でした。

「明日香か」
 今度は最初から呼び捨てでした。

「はい」

「そうか、来たのか」

 わたしは、「覚悟はできています」と言いかけてやめました。

 お館様は、一瞬、さびしそうな顔をしました。そしてそれ以上話そうとしませんでした。黙ったまま、わたしの着衣をはがしはじめました。セーターとシャツを脱がし、スラックスを下げました。わたしは、足を上げて抜き取りやすいようにしました。最後に残されたブラジャーとパンティもとりました。

 わたしの身体は、長旅のせいで汗ばんでいました。入浴を願い出たところで許されると思いませんでした。

「隠してはいけない」

 お館さまは、わたしの全身を見つめ、所々を手で触り、肌から指に伝わる感触を確かめているようでした。

 あるいは、娘が身売りされる時、こんなふうに品定めをされたのかもしれません。そして希望を持つことが許されない人生をのろっていたのでしょうか。

 わたしにも希望があるのかは、わかりませんでした。ひとつだけわかったことは、お館様は、私の身体に満足したということでした。

 右手は、乳房をもみながら、乳首だけを搾りだすようにして、その突出した乳首の部分を口に含み、残った左手は、背中やお尻を自由に這いまわってから、わたしの股間で止まりました。黒い毛を掻き分けながら、上下に動きはじめました。繊細で優しい、女の身体を熟知した指の動きでした。ほどよい濡れ具合を確かめながら、二本の指がわたしに侵入すれば、咄嗟に腰を引いていました。

 「動くな」言うまでもなく、当たり前のことでした。

 わたしは、当然の禁を犯したことに気付きました。

 あわてて突き出した、わたしの膣に、もはや、お館様の指は容赦をしませんでした。

 あらためて、そして今度は、より深く貫き、めいっぱいの前後運動を繰り返しました。依然として右手は乳房を絞り、少しの痛さを感じる程度にお館様の歯が、わたしの乳首を挟んでいました。それは、ひとりの女の身体を弄ぶうえでは、このうえなく、計算しつくされた愛撫であっただろうと思います。

 しかし、わたしといえば、体内の奥深くに侵入した指に追い払うことも、逃げまわることも許されず、思う存分の蹂躙に身を任せるいがいにありませんでした。

 それが、お舘様に身体を捧げる女の宿命でした。お館様の指が、わたしに快感あたえているのか、苦痛をあたえているのかの判断は必要がありませんでした。

 今、現在、お館様が、わたしの身体とわたしの身体の反応に満足しているかだけがすべてでした。

 弄ばれる膣部と乳首からの痺れが全身に伝わり、わたしは、せつなくセクシーな声を絡めた吐息で煩悶をあらわしました。

 お館様に吹きかけるとそれは、しなだれかかる合図のようなものでした。わたしは自力では、立っていることさえできなくなっていました。しがみつくように抱きついた、わたしをお館様は受け止めてくれました。

 抱き上げてソファーに運びました。お館様は、わたしをひざの上に乗せ、なんどもキスをしました。

 ふと、わたしだけが全裸なのは、不公平だと思いました。それは主張しても意味のないことでした。もちろん、わたしには、お館様の服を脱がせることもできませんでした。はじめから、対等を望んでいたわけでもありませんでした。

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