黒い館
けいもく:作

■ 10.売春婦の屈辱1

 裕美さんが、お館様に首を横に振っていました。

「それから先は、わたしから話すわ。

 わたしは、大学でスペイン文学を専攻していたの。

 そんな関係もあってメキシコの大学に留学したのだけど。半年くらいたった頃だった。メキシコ人の彼ができた。ハンサムで、格好が良くて、すこし遊びなれているなって気はしたのだけど、そんなところが、余計にわたしを夢中にさせたのかもしれない。

 その彼が、隣のグアテマラって国のマヤ文明の遺跡を見に行こうって言った。わたしにも興味があったし、二つ返事で決めた。

 途中で国境を越えるとき、わたしがパスポートを出そうとしたら、彼は要らないといった。変だったけど、ここは中米だからと深く考えなかった。それは、私の足どりを消すのが目的だったようなのね。きっと偽造のパスポートを使ったのだと思う。

 わたしは、マラスというギャング組織に売られて、売春をさせられた。

 マラスというのは、政府や経済界にも影響力を持つ巨大組織なのだけど、その非情さにかけては、日本の暴力団とは比較にならないの。

 何人もの売春婦が、リンチにかけられて殺されていくのを見たわ。彼らは、稼ぎの悪くなった売春婦は、殺すものだと思っていた。殺されないまでも、リンチは毎日のことだった。

『最近、夜に眠れないんだ。ひとり外に出しといてくれないか?』店主の友達が言ったわ。

『OKだ。任せといてくれ』

 それだけで契約は成立していたの。粗末な夕食あと、わたしは服を脱がされ、いつも路上においてある汚いテーブルの上に仰向けに寝るように言われたわ。店主がね、手首と足首を一本ずつロープで固定していった。ちょうど大の字になる格好だった。

『ケツを上げろ』と言われて、私は不自由な身体でせいいっぱい持ち上げた。板切れのようなものを何枚かお尻の下に敷かれた。横に棒を一本置けばそれで完成よ。

 友達思いの友達に優しい店主だったわ。

 お尻の下の板は、その部分だけ盛り上げて、セックスしやすくするため。横の棒は、わたしが眠っていたり、素直にしていなかったときに叩くためのものだった。

『なあに、このぼうで2・3発もぶちのめしゃあ、どんな女だって言うことを聞くさ』店主はそれだけ言い残して家の中に入っていった。

 残されたわたしは、そのままで、男が犯しにくるのを待っているの。そんな状態で何時間も待たされているとね、男が早く来てくれないかなと思えてくるの。蚊にかまれてもかくことさえ出来ないのよ。男がわたしを犯したあと、ロープをほどいてくれるかもしれない。いや、きっとほどいてくれるはずだって。勝手に思い込んじゃって。

 男が来た時には、囚われの身から救ってくれるナイトのように見えた。わたしは笑顔を見せて男を迎えた。媚をうってでも印象を良くしたかった。

 男も服を脱いで、テーブルの上に乗ってきた。最初はシックスナインだったけど、わたしも身体は動かせなかったけど、口は自由だったから、男のものをほおばり、舌を動かせた。二時間くらいだったかな。男はわたしのいろんな部分をすき放題に舐め、あるいは咬み、最後は私の中で果てていった。店主が、私のお尻に敷いていった板も役立った。私の膣は、ちょうど男のものを受け入れやすい高さに調整されていた。

 腰を振って、わたしの中に吐き出した男は、満足したようだった。喜びに満ちた笑顔で帰っていった。でも、ロープはほどいてもらえなかった。

 それどころか、男は帰り際に横に置いてあった棒でわたしを叩いていったの、おなかを三回。

『おれを楽しませてくれたお礼だ。ありがとう』と言いながら、手を抜いた叩き方ではなかったわ。悔しかった。

 でもね、考えてみればロープをほどいてもらえないなんてことは、最初からわかっていたの。

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